結婚披露宴の柏戸関。貫禄がすごい!

 大女優・冨士眞奈美が古今東西の気になる存在について語る連載がスタート! 記念すべき第1回は、大相撲について。柏戸をはじめ、往年の名力士を見続け、いま現在も欠かさず大相撲を見るという“元祖スー女”が振り返る、力士の素顔とは!?

第1回 大相撲

 大相撲初場所は、大栄翔関の優勝で幕を閉じましたね。開催が危ぶまれた中で、最後まで力を振り絞った力士、関係者のみなさんには「お疲れさまでした。ありがとう」という気持ちでいっぱいです。

 私は静岡県三島市出身なのですが、初場所では焼津市出身の翠富士関が、静岡県内出身力士として、初めて技能賞を含めた三賞を受賞して、とてもうれしかった。静岡県出身の力士はとても少ないため、同郷というだけで応援してしまうんだけど、彼は小柄だけど小気味のいい相撲を取るから大好きです。

 千秋楽では、翔猿関に土をつけて見事に技能賞を受賞したわけですが、翔猿関も気持ちのいい力士で大好き。彼は私と本名が同じ“岩崎さん”ということもあって、兄の英乃海関とともに応援しているの。でも、弟のほうが甘いマスクをしているわね(笑)。翠富士関も顔がいいだけに、千秋楽の2人の顔合わせは、私にとっては大一番でした。

王鵬関は名前負けしないか心配

 翠富士関もそうですが、若い力士が台頭してくるとうれしくなりますね。新しい時代の大相撲を担ってほしいと願うばかりです。若手力士の中では、大鵬さん(第48代横綱)のお孫さんである王鵬関に期待している……ものの、名前負けしないか心配。

 期待を込めて「王」にしたのだろうけど、大鵬さんの現役時代の相撲を見ている私からしたら、とてつもなく強かった大鵬さんを越える「王」なんて気が遠くなりそう。「王」ではなく「雄」──、雄鵬くらいのほうがのびのびと相撲が取れたんじゃないかしら、なんて邪推してしまう。響きだって、UFOみたいで話題になりそうじゃない。CMのオファーだって、舞い込んできたかもしれない。

 父親である貴闘力さん(元関脇)もいい力士でしたが、体格はお父さんより大きくて、むしろ大鵬さんに近いものがある。相撲を取っている姿が映えるから、名前負けしない力強い相撲をしてほしいな。

柏戸が、素足でタバコをもみ消して!?

 それにしても、大鵬さん、貴闘力さん、王鵬関……、気がつけば三代にわたる親子鷹の相撲を見ることができている私は、幸せ者よね。私たちが子どものころは、ラジオしかなかった。相撲と野球中継は人気番組で、いつも聞いていたから、物心がついたときには魅了されていた。

冨士眞奈美

 吉葉山さん(第43代横綱)、東富士さん(第40代横綱)といった力士が好きだったけど、とりわけ、柏戸さん(第47代横綱)が好きだった。あの当時は『巨人・大鵬・卵焼き』と言われていたけど、私は『巨人・柏戸・水割り』(笑)。今でもよく覚えているのは、画家の山下清さんと一緒に柏戸さんの伊勢ノ海部屋を訪問したとき、柏戸さんたら、吸っていたタバコを素足の裏で消しちゃって、山下さんも私もビックリした。足の裏を見せてもらうと、革靴のように頑丈だったことを覚えている。

 今ではあまり見かけなくなったけど、あの時代のお相撲さんはスーツを着ることも珍しくなかった。輪島さん(第54代横綱)はとてもスーツが似合う人でしたね。今は、力士本人が車を運転することが禁止されているけど、当時はまだ運転することができた時代 。輪島さんと対談した際、彼はその大きな身体に負けないくらいのリンカーン・コンチネンタルで撮影場所までやってきたの。横綱がリンカーン・コンチネンタルを運転している──、夢も話も大きいわよね。

 対談が終わると、ほんの少しの間だけれど、私を乗せて夜の都心をドライブしてくれた。もちろん、何もなかったわよ。車を自慢したかったんだと思う。その様子がチャーミングだったから。お相撲さんはぶっきらぼうだけど、いい人が多いの。屈折していないから面白いの。


ふじ・まなみ 静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、作家としても知られ、句集をはじめ著書多数。

《構成/我妻アヅ子》