見知らぬ女子中学生が無料通話・メッセージアプリ『カカオトーク』の電子掲示板に投稿したのは、
「家出したい」
という思春期にありがちな悩みだった。
これをめざとく見つけ、咎(とが)めるどころか、
「泊まるところのお金を出してあげるよ」
と下心を隠して家出をそそのかしたのは、東京都中野区の区立中学校の主任教諭・船山恭宏容疑者(43)。
「夏休み中の昨年7月下旬、被害少女を2日間にわたって都内のホテル2か所に連れ込んだ未成年者誘拐の疑い。買い物に行くと言って外出したまま帰宅しない娘を心配した親が警察に相談し、捜査員が2日目の夜にホテルの部屋にひとりでいたところを無事に保護した。防犯カメラの映像などから約半年間の内偵捜査を経て、2月2日に逮捕にこぎつけたのが現役教師だった」
と全国紙社会部記者は話す。
保護されたとき少女がホテルにひとりでいたのは、船山容疑者側の事情とみられる。
「わざわざホテルを変えているが、2日間ともずっと一緒にいたわけではない。自分の家族は心配させたくないからか、一緒に泊まらず深夜に帰宅し、翌日、また少女を連れ出して日が暮れる前に自分だけホテルをあとにしている。少女に性的被害は確認されていない」(同記者)
船山容疑者は、少女の親の承諾を得ずにホテルに連れ込んだ事実を認め、「あわよくば性行為できると思った」などと供述しているというから“口説けなかった”ことになる。
ホテル代は約束どおり支払っている。
しかし……。
「リーズナブルな価格が売りのビジネスホテルで1泊平均3000〜4000円程度。周辺のラブホテル相場よりも安い。妻子持ちの教師だから、お小遣いではこの価格帯が精いっぱいだったとみられる」(前出の記者)
自宅のインターホンを押すと
自宅は練馬区内の一戸建て。7年前に3000万円のローンを組んで中古で購入しており、洋風でしゃれた造りだ。近所の住民は、引っ越してきた当時のことを振り返る。
「引っ越しのあいさつなんてありませんでした。旦那さん(船山容疑者)は顔を合わせても会釈するでもなく陰気な感じ。若い奥さんは女友達を何人か呼んで、うれしそうに新居の説明をしていましたよ。小学生になったばかりの娘さんがいるんだから、もう少し近所付き合いをしてもいいのにね」
別の住民によると「物静かな夫婦」という。
船山夫人に事件前後の様子などを聞くため自宅のインターホンを押すと、「はーい!」と快活な女性の声。しかし、取材を申し込むや声色が変わり「お断りします。帰ってください」と切られてしまった。努めて明るく振る舞っていたのだろう。
教師としての仕事ぶりはどうか。
勤務先の中学には6年前に赴任し、専門科目は理科。高校受験に挑む3年生の学年主任とクラス副担任を務め、女子バレーボール部の顧問でもある。
「中堅教諭として部活動の指導を含め、さまざまな役割を果たしていました。ふまじめな点は見当たらず、特に問題はありませんでした」
と中野区教育委員会の担当者。
不思議な魅力に好意を持つ女子生徒も
在校生によると、「先生のなかでは人気があったほう」(男子生徒)だという。
「ふざけすぎると怒ることもあるけれど、普段はおもしろいし、授業の進め方もうまい。そんなイヤらしいことを考えているような大人には見えなかった」(同生徒)
卒業生のなかには、事件がショックすぎて泣きだす教え子もいたという。
「多くの生徒に親しまれていて、卒業制作として船山先生を題材にした作品を作り上げた子もいたほど」(卒業生の関係者)
人気を集めた要因は何か。前任校である離島の中学で教わった女性はこう話す。
「物知りで、中学生相手でもバカにせず真剣に向き合ってくれたんです。学者のような雰囲気があり、話は常に論理的で、違うものは“違う”とはっきり言う。ひと言でいっちゃうと“変わり者”なんですが、何を考えているかわからないような不思議な魅力に好意を持つ女子生徒もいました」
サイエンティストらしい話しぶりはいまも記憶に残っているという。
《僕は、人間が進化していくとこうなるんじゃないかと予測しているよ。文明が進んで身体を使わなくなるため痩せ細り、考える機会が増えて頭は発達して大きくなる。見るものも多くなるから目も大きくなる。すると、みんなが目にしたことのある宇宙人のイラストに近づいていくよね》
生徒の好奇心をくすぐるのがうまかった。
離島の中学では男子バスケットボール部の顧問だった。立て続けに運動部を指導しているが、スポーツマンタイプではないらしい。イケメンとも言いがたい。ただ、独特の存在感とやさしい語り口は女子生徒に受け、バレンタインデーには義理チョコが集まっていたという。
「当時からお腹が少し出ていたけれども、私も“好きな先生”でした。いつの日か、船山先生が島に来てくれて一緒にお酒を飲めると思っていました。大人としてまた会いたかったです」
と卒業生の女性は残念がる。
容疑者宅の庭先には、離島のシンボルを模した石細工があった。忘れがたき思い出なのだろう。道を踏みはずしそうになったとき、これまで指導してきた大勢の教え子の顔は思い浮かばなかったのか──。
◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)
〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する