2回目の緊急事態宣言を受けて、東京ディズニーランドおよび東京ディズニーシーは閉園時間を午後7時に早めて、入園者数も大幅に制限した。昨年9月に美女と野獣のアトラクションなどの新エリアを開業させたが、多くのゲストが我慢を強いられている。
来園者数は年間3,000万人以上
1回目の緊急事態宣言で、東京ディズニーランドおよび東京ディズニーシーは、2月29日から6月30日までの間、約4ヶ月も休園した。運営会社のオリエンタルランドにとって、初めて経験する事態である。
東日本大震災の際は、被災により約1ヶ月休園したが、運営再開後には多くのゲストが訪れて、年間では十分に高い利益を確保した。
しかし、さすがに今期は厳しい。
今回は休園期間が長かっただけでなく、運営再開後も人数を制限せざるを得なかった。今年度上半期の入園者数は、前年同期の82.9%減と激減である。
ゲスト1人あたりの売上高は、2020年4月1日にチケット価格を改定したこともあり(大人の1デーパスポートが7,500円から8,200円に大幅アップ)、上半期実績で14.1%も増加した。しかし、これだけ入園者数が落ち込むと、まさに焼け石に水である。
4~12月まで純損益は287億円の赤字で、2回目の緊急事態宣言により、通期も大赤字になることは避けられない。
東京ディズニーランド・東京ディズニーシーの入園者数は、コロナの影響がなければ、年間で3,000万人以上の人が訪れる。他のレジャー施設と比べても桁違いである。昨年閉園した「としまえん」の入園者数は100万人ほどなので、他のレジャー施設とは比べ物にならない。
年間3,000万人というのは、どれくらいの規模なのか。
「夢と魔法の王国」と称する東京ディズニーランドだが、東京ディズニーリゾートを「国」とみなし、訪れるゲストを外国人旅行者と考えてみれば、この「国」のすごさがわかる。
コロナ前、訪日外国人旅行者は年間で3,000万人超だった。つまり、東京ディズニーリゾートと変わらないのだ。
面積では、テーマパークエリアが約100万平方メートルで、駐車場、ホテル、イクスピアリなどを含めた東京ディズニーリゾート全体は約200万平方メートルにも及ぶ。これは、バチカン市国の約5倍で、モナコ公国と同じである。
「夢と魔法の王国」は、リアルな国にもなれるのではないか。そんな夢想もしたくなる。
京成電鉄の今後を握る
オリエンタルランド
当然ながら、東京ディズニーリゾートは観光業界、鉄道・航空業界にとって非常に大きな存在である。
来園者の約4割近くは関東以外(海外含む)から訪れており、新幹線や飛行機を利用する人も多い。
羽田空港を発着するリムジンバスは、東京ディズニーリゾートエリア便が10~15分間隔で、新宿エリア便には及ばないものの、池袋エリア便、渋谷エリア便よりも高頻度である(いずれも現在は大幅減便している)。東京ディズニーリゾートがなければ、新幹線や飛行機の本数も減るに違いない。
その東京ディズニーリゾートを訪れる人が、今年に限っては、例年の1/3以下になる見込みだ。各業界に大打撃を与えて当然である。
その中でも、京成電鉄は特別な痛手を受ける。オリエンタルランドの株を約22%保有しているため、鉄道・バスの利用者減少だけでなく、もっと直接的な影響を受ける。
京成電鉄といえば、成田空港への輸送は担っているものの、JRに比べて沿線が発展しておらず、華やかな印象はない。東京ディズニーリゾートとは真逆のイメージである。
しかし、ディズニーランドの誘致を考えたのは、京成電鉄の川崎千春(「崎」は正しくは「立さき」)だ。のちに同社社長になった人物である。オリエンタルランドも、京成電鉄本社の片隅からスタートした。
三井不動産もオリエンタルランドに出資したが、保有比率を下げたため、現在では京成電鉄が圧倒的な筆頭株主だ。
コロナの影響がなかった2018年度で見ると、京成電鉄(連結)の営業利益は316億円、経常利益が507億円である。営業利益と経常利益に大きな差があるのは、営業外収益にオリエンタルランドの数字が入るからだ。子会社ではないため営業利益には含まれないが、「持ち株法による投資利益」として連結決算に入る。
京成電鉄を他の大手私鉄と比較すると、営業利益では見劣りするが、経常利益はそれなりの規模になる。小田急電鉄(連結)は営業利益が521億円、経常利益が497億円なので、オリエンタルランドのおかげで、京成電鉄は経常利益で小田急電鉄と肩を並べる。
今年度の京成電鉄は、当然ながら営業利益が大赤字になる。そのうえ、オリエンタルランドの赤字により、経常利益がさらに悪化する。中間決算時点では、経常利益が267億円の赤字になると予想された。
京成電鉄の営業利益は、運輸業だけで7割を占めており、他の電鉄会社と比べて運輸業への依存度が突出している。言い換えれば、驚くほど他事業が発展していない。
これは、経営不振の時期に事業撤退した名残であり、それを現在まで引きずっている。
上野にもあった京成百貨店は、いまでは水戸に残るのみ。成田空港への輸送は担うが、外国人旅行者を泊めるホテルも少ない。致命的なのは、大きな利益を生む不動産業の規模が小さいことだ。
コロナ禍にあっては、ホテルや観光施設の規模が小さいことは不幸中の幸いだ。支えとなるべき不動産業は小さいが、運輸業以上に足を引っ張る事業はない。
オリエンタルランドは、今年度は赤字だが、回復は早いだろう。海外から訪れる人は全体の1割ほどで、インバウンドの影響も限定的だ。
今後の京成電鉄は、オリエンタルランドさえ復活すれば、営業利益は赤字のままでも、経常利益で黒字化できるだろう。ディズニーランドの誘致成功は、他の事業の低迷を補って余りある。
文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『明暗分かれる鉄道ビジネス』『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』などがある。