左から長嶋一茂、石原良純、高嶋ちさ子

 バラエティー番組の視聴率レースで常にトップ争いに加わっているのがテレビ朝日の『ザワつく!金曜日』(ザワ金)(金曜午後6時45分)。『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)、『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)、『笑点』(日本テレビ系)と毎週デッドヒートを演じている。

 2月第2週(8日~14日)の場合、『笑点』が14・7%でトップで、以下は『イッテQ』と『一軒家』が14・2%、『ザワ金』が14・1%でという結果だった。わずか0・6%内に4番組がひしめき合った(数字は世帯視聴率、ビデオリサーチ調べ、関東地区)。もちろん『ザワ金』がナンバーワンになる週も珍しくない。

 この番組が長嶋一茂(55)、石原良純(59)、高嶋ちさ子(52)のトークを中心とした内容なのはご存じのとおり。2018年に深夜番組として始まり、昨年10月から現在の放送時間帯になった。

 3人はトークのプロではない。元プロ野球選手、役者で気象予報士、ヴァイオリニストなのだから。番組側が奇想天外な企画を用意しているわけでもない。それなのに大ウケとはどういうことなのか。

キーパーソンは長嶋一茂

 それは3人のキャラが格別だからにほかならない。また、3人がトークのプロでない分、それぞれの言葉が新鮮だ。

 高視聴率の背景には昨年10月以降、放送開始が午後6時45分になったこともあるだろう。数字がグンと伸びた。他局が午後7時から番組を始める中、15分先にスタートしているのは大きい。

 とはいえ、番組の人気を押し上げたのは何と言っても3人の面白さ。中でも抜きん出ているのは一茂だ。『ザワ金』のキーパーソンに違いない。一茂のタレントしての才能を早くから見抜いていた明石家さんま(65)はさすがである。

 一茂が巨人を最後に球界から去ったのは1996年。その1年前、さんまは一茂に「やめたらどうするんや?」と尋ねていた。さんまは「やめたら、俺の番組に来いや」と続けた。

 さんまは一茂が引退すると、実際に『さんまのSUPERからくりTV』(TBS系)など自分の番組に起用した。義理ではない。一茂の面白さが分かっていたからだ。

 では、一茂の何が面白いのかというと、1つは自分を正直にさらけ出すところ。例えば『ザワ金』のクイズコーナーでは「クイズ王」と自称しているが(本気でそう思っているらしい)、良純とちさ子が簡単に正解した問題をあっさりとハズす。すると、全力で悔しがる。

 冗談か本気か、一から撮り直しを要求することも。それを進行役のサバンナ高橋茂雄(45)がたしなめると、「高橋、てめー!」と体育会系のノリで怒る。

 こう書くと、面白いというより、困った人だが、実際に一茂を見ていると、大笑いしてしまう。不快にはならない。惚れ惚れするくらい天真爛漫だからだ。国民的スーパースター、父・長嶋茂雄氏(85)のDNAを強く感じさせる。

 茂雄氏は「長嶋語」を駆使し、それがファンには魅力の1つ。一例は「魂を込めて打てば、野手の正面をついたゴロでもイレギュラーする」。一方、一茂も独特の論理展開を行う。

評価を気にしないから忖度なし!

長嶋一茂

 1月29日放送で、あおり運転が話題になると、「あおる奴らはヨガをやれ!」と強い口調で提言した。見ていて「えっ?」と戸惑ったが、一茂によると「あおる奴らってのは精神的に余裕がなく、不安だから、あおる!」からなんだそうだ。

 確かにヨガは精神の安定にも役立つとも言われる。とはいえ、あおり運転防止とヨガを一足飛びに結び付けるのは一茂くらいだろう。それを熱弁するのだから、やっぱり面白い。

 ちさ子は同日放送で一茂に向かってこう言った。

「普通なら、ろくでもない息子に育つのに、まともに育ったわねぇ」

 一茂の立教高校(現立教新座高校)時代、その銀行口座には残高が常に100万円あったと聞かされたからである。

 残高が減ると、その都度、母親の故・亜希子さんが100万円になるよう補填してくれた。つまり、お小遣いは青天井だったことになる。

「おふくろが勝手に振り込んでいた。3か月、4か月家に帰らず、(野球部の)寮だったから」(一茂)

 それにしたって金額がデカイ。立教大を出るまで「ローン」と「税金」の存在を知らなかったそうだが、それも不思議ではない。

 茂雄氏のDNAに加え、スーパーお坊ちゃまだった過去が、一茂を並みのタレントとは異次元の存在にしている。その口からは平凡な人間では想像もつかない言葉が飛び出す。だから、引き付けられる。

 良純もお坊ちゃま。こちらもスーパーと付けて差し障りないだろう。なにしろ父は元東京都知事で作家の石原慎太郎氏(88)。慶応幼稚舎時代は神奈川県逗子市の自宅から東京・恵比寿の学校までタクシーで通っていたというのだから。

 誘拐などを防ぐためだろうが、逗子から恵比寿まで50キロ以上。並みのお坊ちゃまではマネできない。

 一茂とは共通点がある。2人とも他人の評価を全く気にしないと公言してはばからないところだ。

 日本中の誰もが知る著名人の父を持ち、子どものころから他人の視線を浴び、あれこれ言われ続けてきたので、いちいち評価を気にしないようになったのだろう。だから『ザワ金』での2人の発言には忖度が感じられないし、なんでも開けっ放しで話している。

 ちさ子は俳優の故・高島忠夫さんの姪で父は元キャニオン・レコード取締役の高嶋弘之氏(86)。番組内でのポジションは気丈な末娘といったところで、一茂や良純を「ボケ」などと罵倒する。だが、当の2人はニヤニヤしている。ちさ子の言葉には嫌味が感じられないからだ。

 番組を長く観ているとわかるが、ちさ子は相手が嫌がることは言わない。信頼関係が出来ている人にしか毒づかない。ちさ子は6歳年上の姉・未知子さんがダウン症ということもあり、共生の大切さを知っているのだろう。

 3人の組み合わせは50代最強と言って良いはず。『ザワ金』の人気は納得なのだ。

高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立