「死因を調べるために解剖をお願いしました。毛を剃ってもらうと、身体にはいくつもアザができていて……」
そう話すのは、ジャーマンシェパードの『アダム』君の飼い主だった奥竜生(おく りゅうせい)さん。“だった”というのは、アダム君は亡くなってしまったからなのだが、その死因をめぐって今、問題が起きている。“事件”は、福岡県北九州市にあるペットサロン『わんわんハウス若松店』で起きた。わんわんハウスは、福岡県と埼玉県に店舗を持ち、経営者は動物の専門学校も設立しているような、“ちゃんとしている”と思われるペットサロンだ。
「“しつけ”で起きた事故死」と説明された
「昨年の10月ごろから『わんわんハウス若松店』にアダムを何度か預けていました。私は建設業をやっているのですが、コロナの影響により地元で仕事が少なくなってしまったことで、県外へ出張することが多くなったんです。うちはトイプードルも飼っているので、アダムを預ける前から『わんわんハウス』にカットに出していました。そこでシェパードを飼うことになったという話をしたら、“大きい犬はちゃんと訓練をしておかないと、小さい子どもとかを獲物と間違えて追いかけたりしますよ”と言われたので、出張が多くなっていたこともあり、訓練も含めて預けることになりました」(奥さん、以下同)
預けていた当初は特に問題もなく、サロンに不信感を抱くこともなかったが、今年1月、事件が起こる。
「そのときも出張があったため預けていました。突然電話がかかってきて、“具合が悪くなり、亡くなりそうだ”と……。まったく意味がわからなかったのですが、すぐに教えられた病院に向かいましたが、僕が着いたころにはすでに亡くなっていました」
『わんわんハウス若松店』の店長であり、経営する専門学校の学園長も務める大山田真美氏から、「シャンプー中の“しつけ”で起きた事故死」という説明をされたという。
「亡くなったことを確認した後、大山田氏のいないところで病院の先生と2人で話し、“病気で亡くなったんですか?”と尋ねました。すると先生が“おそらく病気ではないと思いますよ”と。“あとは解剖してみないとわからない”ということだったので、解剖をお願いしました。その結果が先日出ました。結果は、細胞レベルで病気は見当たらないというものでした。
『わんわんハウス』にも、どういうところでシャンプーをしたのかを確認しに行きました。すごく狭いシンクで、そこで抑えつけていたということでした。狭いところで抑えつけられたら、それは嫌がって暴れるだろうなと。でも、シェパードは体重が40キロもあって頑強なので、軽く抑えただけでは死なないよなとも思いました」
獣医師からの説明、そして現場を見て浮かぶ疑問と不信感。奥さんはその場にいた専門学校の学生やスタッフに、すがるようにこう伝えた。
「一緒に洗っていたという人たちに僕の電話番号を渡しました。大山田氏がいないところで言いたいことがあれば、連絡してきてほしいと。そうしたらその日の夜に“こういうことをやっていました”という連絡があったんです」
首をきつく締め付け、弱った犬を無理やり…
“内部告発”の内容とは──。
「大山田氏は、シャワーをする際、首輪を使って固定していたそうなんですが、息がしづらいくらいきつく締め付け、“伏せ”をさせて顔にお湯をかけていたそうです。犬は鼻に水が入ると痛がったり、肺に入ってしまったり危険なので、プロがそんなことをするはずがないですけど、それをしつけの一環としてやっていたと……。
しかも、アダムが自分で動けなくなるまで何度もくり返して、その後は乾燥機に入れたというんです。乾燥機は犬用なので、そこに入れること自体は問題ないと思いますが、弱っている犬を3人くらいで引きずって無理やり入れるという行為は異常だと思います」
奥さんは告発の内容をもって大山田氏に再度確認したが、彼女はいっさい認めず「しつけの一環で抑えつけたら死んでしまって、事故死です」このような返答だったという。
「解剖によって、病気で死んだわけではないことは確定しているわけですから、アダムは大山田氏に殺されたと思っています。大山田氏自身は訓練やしつけの資格を持っていないんですよ。働いているスタッフが資格を持っているだけで、彼女は持っていません」
“病院完備”とうたいつつ、まるで機能していない
『わんわんハウス若松店』は“病院完備”とうたっていたようだが、そこで助けることはできなかったのだろうか。
「その病院というのが、普段は物置のような状態になっていて、まるで機能していないようなところだったんです。病院には先生がいるわけですが、週1回『わんわんハウス』が経営する学校で生徒を教える日にしか来ていない。そのため預けられた犬の体調が悪くなっても、先生がいない日のほうが多く、いつでも診てもらえるわけじゃなかったんです。もし先生がいる日に診てもらっていたら、助かっていたかもしれないと思うと……。
また、これも告発で知りましたが、一時放置した後に、“そろそろ病院に連れていかなくてはまずくないですか?”という話になり、併設の病院とは別の病院に連れていったそうです。でも、そこに着いて5分くらいで亡くなったと……。同様の事故は、ほかの店舗でも起こっていると聞きました」
亡くなるまでの対応は遅いが、亡くなった“後”の対応は非常に早かった。
「病院で亡くなったことを確認した後、すぐに“示談の話が弁護士からあるので、この日に来てほしい”と。示談をするつもりはありませんと伝えて、そこから彼女側からいっさい連絡はありません」
現在『わんわんハウス』のホームページはトップページしか閲覧することができなくなっており、そこには代表取締役である大山田氏の名義で以下のような文章がある。
《この度わんわんハウス若松店にて生後4ヶ月から半年に渡りお預かりしていました犬が亡くなる事故がありました。この様な事故が起きた事について、大変申し訳なく思っております。飼い主様に対しましては、弁護士と相談の上、誠意を持って対応して参ります》
店長の大山田氏本人に話を聞くと
被害者に示談の意向がないことを知ってからは、いっさい連絡がないというが、当事者は今回の件をどのように捉えているのだろうか。大山田氏本人にも話を聞いた。
「現場を任せていた者とのやり方の対立がありまして、首輪を外すかどうかで何度も争いました。でも、私はスタッフを守ることのほうを重んじているんです。亡くなったアダムには申し訳なく感じますが……。私は38年間業界にいますが、どちらかというと最近の傾向は犬を崇拝することになっていますよね。“お犬さま”がいて、私たちにも過度なケアを求めるお客さまがいます。お客さまの言われるように全部やらなくてはいけないと言ったら、申し訳ないですが、とてもこの商売はやれません」
首輪については、息がしづらいくらい締め付けていたらしいが……。
「実際に作業場を見てほしいのですが、アームを首につけるだけだと、犬がうろうろしてしまって、犬自体も危ないんです。特に爪切りのときなどは、さらに首輪でくくり付けて固定しないと噛まれてしまいます。今回のことは“犬を守れ”と言いますが、私は人の命のほうが大切なので、人がやりやすいようにしないと仕事にならないんです」(大山田氏、以下同)
アダムの飼い主である奥さんは、アダムは噛むような犬ではないと話していた。
「確かに噛まなかったですが、飼い主さんが首輪をしない方だったんです。だから苦しかったのかもしれません」
「噛もうとしたので、そうさせまいと頭を抑えた」
大山田氏は、自らの視点から当時の“状況”を次のように説明する。
「アダムにはしつけをして“伏せ”ができるようにしてあります。その状態でお湯をかけたら、3回ぐらい暴れたんですよ。今までもずっと暴れていて、そのときはむしろ私がいるからおとなしかったんですね。3回目までは伏せをさせることができたんですが、4回目は錯乱するように大暴れが始まった。そのときにスタッフのAを噛もうとしたので、そうさせまいと頭を抑えました」
今回のアダム君のシャワーはAさんというスタッフが担当し、大山田氏はそれを手伝っていたという。
「お湯をかける人がいなかったから、手伝ったのです。内部告発はやっていない人がしたものですよ。スタッフを守りたいですから、矛先が私になっていてよかったです。実際に飼い主さんが店に来たときは、“お前も首を絞めてやろうか!”“Aを殺すぞ!”と言ってきてすごかったんですよ。“この嘘つきが、下に降りろ!”とも怒鳴られました」
言い方はよくなかったかもしれないが、大事にしていたペットがわけのわからない形で事故死とされてしまった状況もある。
「もちろん気持ちはわかります。でも、6か月預かったうち、家に連れて帰るのは月に2日。多くても4日ぐらいなんですよ。飼い主さんになつくわけがないですよね」
飼い主と食い違う主張
アダムはどのような犬だったのか。飼い主の奥さんは「おとなしい」と言っていたが、ここにも相違がある。
「全然おとなしくないです。吠えて大変だったので、生徒には触らせることができませんでした。でもしつけはしなくていいと途中で言われてしまったので、それ以上のしつけはできなくなってしまったんです。昨年11月にイベントで子どもさんを招待したことがあり、そのときにアダムはしつけができているから大丈夫だと思って、放し飼いにしたんです。そしたら、子どもに向かって突進していくという事件が起きてしまった。そのときから危ないなと思っていました。40キロもある大型犬なので、噛むことはなくても危険なんですよ」
さらには、預ける“理由”についても主張は双方で異なる。
「マンションで飼っていて、ドッグランのある一軒家に引っ越すはずが、頓挫したようなんです。それでほとんどこちらで預かっていました。料金については、実際に入金があったのは最初の2か月分だけで、その後の4か月は未納のまま。それどころか、別に“イブ”というプードルも飼っているんですが、その去勢手術費用も払ってもらっていません」
スタッフや学生は、社長とは違う
奥さんに“内部告発”をした『わんわんハウス』のスタッフ・Bさんにも話を聞いた。ちょうど、警察の事情聴取から帰ってきたところだという。
「私はただ真実を語っているだけで、別に被害者側に立っている訳ではありません。警察が私に説明を求めてきたから応じたんです」
Bさんは店を辞めることを考えていたが……。
「このことがあり、辞められなくなったのです。ネット上で騒ぎになってからは、毎日誹謗中傷の電話対応にあたっています。“殴り込みに行くで!”とか、“社長を出せ!”と怒鳴り込んできますからね。店の前にも興味本位の方々が来ますし、1人のときは鍵をかけないと怖くていられません。防犯カメラも設置しました。学校の卒業生も迷惑していまして、就業先では、ここの卒業生であることで後ろ指をさされていると、私にたくさん問い合わせがきます。彼らを守るためにも、私たちスタッフや学生は、社長とは違うのだとアピールすることが必要だと思ったのです」(Bさん、以下同)
「アダムに凶暴性はなかった」
大山田氏は、犬以上に「スタッフを守ることのほうを重んじている」と語っている。
「立場を考えれば社長の気持ちもわからなくはないですが、飼い主が見て納得するような世話をしなければいけない。大事な犬をどうやって気持ちよくさせるか、嫌なことを受け入れてもらえるかがトリマーの仕事だと思います。私は自分の犬を無理やり押さえつけたり、頭からお湯をかけるようなことはできません。
社長は、トリミング時は座れないくらいきつくリードを張り、無理やり立たせる。首が苦しいから、バレリーナみたいにつま先立ちを強要されます。噛む犬に対しては効果的ですが、すべてにやるべき方法とは思えません。犬だって1匹、1匹性格が違うのです。噛まない犬に関しては首輪を外すべきです。
シャワーにしても、いきなり頭からかけるのではなく、普通にシャンプーするだけなら、アダムだってさせてくれた。アダムは噛む犬ではないから、首を固定する必要はなかったんです。
社長に何か意見を言うと、“私の学校なんだから、私のやり方に従って”と言われてしまう。でもそのやり方では、生徒の勤め先では通用しない。自分で考えさせなくてはダメなんです」
大山田氏は担当したスタッフはAさんであり、内部告発はやっていない人からだったと話している。
「詳細は生徒に聞きました。12月はじめにアダムを洗ったときは、社長のサポートを私がやりましたが、アダムのお腹が大きく膨らんでいました。頭からお湯をかけるので、たくさん飲んでしまったんです。アダムにとってシャワーは恐怖でしかなかったと思います。それと、実際にアダムの面倒を見たのは社長ではなく、私ともう1人のスタッフですよ。毎日見てきた中で、アダムに凶暴性はなかったことは断言できますね」
大山田氏がなんと言おうと証言がある
動物愛護法では、『愛護動物をみだりに殺し,又は傷つけた者は,2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処せられる』と定められている。つまり、それが“事故”であるならば、罪は認められないという解釈となってしまう。今回の“被害者”である奥さんは、この状況について次のように語る。
「大山田氏がなんと言おうと、世間の人がどう思うかだと思っています。証言がこれだけあるなかで、彼女が“殺意なんてなかった”、“そういうことをしていない”と言ったとしても、証言がこれだけある。その証言を聞いた人が彼女の言っていることが正しいと思うのか、ということではないでしょうか。
今はより多くの人に知ってもらうことで、こんなことをするサロンを利用しないようにしてほしい。僕にはそういったことしかできないと思っています。法律で裁けないのなら、みんなに知ってもらって、そういうところに行かないようにしてもらうことが一番なのかなと」
動物を愛する気持ちは、みんな同じなはず。新たな被害者が出ないことを切に願いたい。