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「毒親」という言葉が登場するなど、親子関係に悩んでいる人たちは少なくない。親との縁切りはどこまで可能なのだろうかーー。(取材・文字/ノンフィクションライター・大塚玲子)

 先日から、元貴乃花親方と息子・花田優一氏の対立が注目を集めています。『週刊女性』が優一氏の言い分を、『週刊文春』が貴乃花の言い分を掲載し、それぞれ相対立する主張を展開。どちらも自分にとっての「真実」を話しているのでしょうが、世間は父親であり且つ知名度の高い貴乃花の話に耳を傾けがちです。

 子どもは親を選べません。取り替えてほしい、と思うような親のもとに生まれてしまう子どもは、昔も今も、少なからずいます。

 子どもの目の前で殴り合い、罵り合いを続ける親。おかしな宗教にはまり、子どもが教えに従わないと「地獄に落ちる」と脅す親。酒を飲んでは寝ている子どもを起こし、壁に叩きつける親。子どもに己の性欲をぶつけ、その人生を破壊してしまう親――。

 そんな害悪な親のもとに育った彼女・彼らが、親と縁を切るためには、どうしたらいいのでしょうか? 法的な解決がどこまで可能か、ベリーベスト法律事務所の宮本健太弁護士に解説してもらいました。

「ひとり戸籍」で気持ちがラクに

 先日、筆者が話を聞かせてもらったある女性は、子どものときに母親の再婚相手と養子縁組されていました。ところが、その男は彼女が「お父さん」と呼ばないと激昂し、実父との面会も禁じる押し付けがましい人物だったため、彼女はこの男と縁を切るため「ひとり戸籍」をつくろうとしたそうです。

「ひとり戸籍」というのは、親から虐待を受けた人などから、ときどき聞く言葉です。一体「ひとり戸籍」とはどんなもので、法的にはどういった効力があるのでしょうか? 宮本弁護士は、こう説明します。

ひとり戸籍にするには、分籍の手続きをとる必要があります。分籍とは、現在の戸籍から分かれて、一人で戸籍をつくるという手続きのことです。役所に届け出をすることで可能です。ただし、分籍の届け出ができるのは『成年に達した者』と定められているため、未成年者は分籍の手続きをとることができません」

 筆者が話を聞いた女性も当時は17歳だったため、結局「ひとり戸籍」にはできなかったと話していました。ただし代わりに「子の氏の変更許可」の申立てをして、実父の戸籍に入ることができたということです。「子の氏の変更許可」の申立ては子どもが15歳以上であれば本人が行えますが、15歳未満の場合は親など法定代理人が代理する必要があります。

 では「ひとり戸籍」にすると、何が起きるのでしょうか。宮本弁護士によると、親子関係を解消するような法的効果はないとのこと。ただし、経験者から話を聞くところ「気持ちがラクになる」効果はあるようです。子どものとき母親から虐待を受けて育ったある女性も、地元を離れる際に分籍を行って「ひとり戸籍」にすることで、気持ちを切り替えるきっかけにできた、と話していました。

親がしつこくつきまとってくる場合

 しかし、法的な親子関係が解消されなければ、親のせいで子どもが被害をこうむる可能性は残るでしょう。たとえば、もし親が子どもにしつこくつきまとってくるような場合には、どうしたらいいのでしょうか。

親につきまとわれ、実際に生活の平穏が害されているような場合は、接近禁止仮処分の申立を検討するべきでしょう。この手続きをとるには、仮処分命令の発出を裁判所に求める必要があります。

 仮処分命令が出ても、つきまといが止まらない場合は、強制執行(間接強制)を行うことができます。間接強制というのは、命令に従わない場合に一日当たりいくらという金額を支払うことを強制させる手続きで、命令違反に対する抑止力が期待できます」(宮本弁護士)

 それでは、親が亡くなって借金の相続を求められた場合は、どうなるのでしょうか。

「親が他界した場合、子どもは原則として親の財産を相続することとなります。相続をする場合、プラスの資産のみならず、マイナスの借金も引き継がれますので、親の借金が資産を上回る場合は、相続放棄の手続きを取るべきでしょう。相続放棄をする場合、『自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内』に、家庭裁判所にその旨を申し出る必要があります」(宮本弁護士)

 ではさらに、親が生活保護を申請した場合はどうでしょうか。現状多くの場合、生活保護の申請が行われると行政は親族に扶養照会を行い、扶助を求めます。子どもが、これを断ることはできるのでしょうか。

親子には生活扶助義務というものがあります。これは、お互いに生活に困ったなら助けなければいけないという義務です。そのため、たとえば親が生活保護を受給するというとき、子がこれを支えられないか、つまり生活扶助義務を果たせないかについて、役所から照会が入ることがあります。

 もっとも生活扶助義務は、自身の生活状況等を考慮したうえで、余力のある範囲で、生活に困窮する親族を扶養する義務であると考えられております。ですので、自分の生活水準を下げてまで扶助する義務はありません。役所からの生活保護の扶養者照会が来たとしても、自身の生活に余力がなければ、断っても差支えはないでしょう

 なお、このように子どもが親の扶助を断ることは可能なわけですが、逆に子ども側が生活保護の申請を行った場合も親に連絡が行ってしまう点は、注意が必要です。

とにかく周りの大人にSOSを

 では、親権についてはどうでしょうか。本人が未成年の場合、親権をもつ親は養育や監護の義務を負います。もし子どもが親から虐待やネグレクトを受け、親から親権を奪ってほしいというときは、何か打つ手はあるのでしょうか。

親権停止の審判を経て、親権を停止させる方法があります。親権停止とは、親による親権の行使が困難または不適当で、子どもの利益を害するという場合に、子ども本人やその親族等の請求により、家庭裁判所が2年を超えない範囲で親の親権を停止させる手続きです。

 従来は親権『喪失』の審判しかなく、親権『停止』の手続きはなかったのですが、親権を完全に奪うとなると過度な介入になってしまうことなどから、停止の手続きが新設されました」(宮本弁護士)

 子ども本人が親権停止の請求するためには、まず味方になってくれる大人とつながる必要があります。親などから虐待やネグレクトを受けているなら、警察、児童相談所に通報することは可能です。学校のスクールカウンセラーさんや養護の先生、担任の先生などに相談するのもいいでしょう。話が通じない大人もいるでしょうが、助けてくれる大人に出会えるまで、どうか粘ってほしいものです。

 どれほど酷い親でも、一緒に住んでいない人にはわからないことが多いですし、また子ども自身も、その親しか知らないため自分が虐待を受けていると気付きづらいものです。あるいはもし気付いても、親を悪く言ったり、通報したりするのは気が咎める、と感じる人も多いでしょう。

 でももし親のせいで生きるのが辛いと感じているなら、どうか自分の心や身体を守ることを、最優先してもらいたいものです。その際、この記事にあるような方法で、親との縁切りを試みることも一案と思います。

大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。出版社、編集プロダクションを経て、現在はノンフィクションライターとして活動。そのほか、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。多様な家族の形を見つめる著書『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(ともに太郎次郎社エディタス)など多数出版。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。