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男は人気キャラクターがあしらわれたかわいいメモ用紙に、自分の連絡先とメッセージを書き記し、女性のカバンにそっと忍ばせた──。
警視庁代々木署は2月9日、ストーカー規制法違反の疑いで会社員の三浦洸平容疑者(33)を逮捕した。
「連絡がほしい」
顔も知らぬ『メモ男』による犯行
被害者は都内に住む20代の女性。三浦容疑者は女性に一方的な好意を抱いていた、という。捜査関係者が明かす。
「三浦容疑者は被害女性に対し、昨年5月から8月にかけて3回、“連絡がほしい”旨と、自らの連絡先をしたためたメモを彼女のカバンの中に入れていました」
帰宅後に見知らぬ男からのメッセージを見つけた女性の心中は察するに余りある。音もなく背後に忍び寄り、メモを入れて去っていく、顔もわからない『メモ男』による犯行。女性は警察に相談した。
警察はメモに書かれた連絡先から三浦容疑者と接触し、口頭や書面で再三、被害女性に近づかないように注意をした。しかし、警察の警告は自分と彼女の恋路を邪魔するハードルだとでも思ったのだろうか。
「三浦容疑者は、自分の気持ちが満たされなかったことから行動もどんどんエスカレートしていきました」(全国紙社会部記者)
昨年12月28日、三浦容疑者は被害女性につきまとい行為をした。
「三浦容疑者が買い物中の被害女性を見かけ、彼女が店を移動すると、その後をつけた。そこで話しかけるでもなく、被害女性が別の店に入ると、その様子を外からジッと見張っていたそうです」(前出・社会部記者、以下同)
さらには今年に入ってからも、被害女性がコンビニで買い物をしているところに遭遇すると、その姿をうかがっていたというのだ。
「防犯カメラを確認すると、女性につきまとう彼の姿が映っていました」
三浦容疑者は警察の警告も聞き入れずに、女性へのつきまといを続けた。その結果、ストーカー行為とされて逮捕となったのだ。
「つきまとい行為に対しては容疑を否認しているようです」
一方、複数の女性にメモを入れたことは認めている。前出の社会部記者によると、
「2019年8月以降、カバンの中に三浦容疑者が書いたメモが入っていた、という女性から相談が警察に相次いで寄せられていたそうです。その数は実に10人以上とみられます」
いくら丁寧(ていねい)な言葉で書かれていたとしても、顔も見えない『メモ男』からのアプローチは被害女性たちにとって恐怖以外の何者でもない。
三浦容疑者は女性たちの気持ちをおもんぱかることなく、自分の歪(ゆが)んだ恋心と欲求をぶつけていった。
警視庁では余罪についてもさらに調べを進めている。
「どこでメモをつけられたのか…」
被害者の苦悩
前出の三浦容疑者のような『メモ男』に苦しめられているケースはほかにもある。
東京都の島田綾子さん(30代・仮名)が、そのときの経験を明かしてくれた。
「帰宅してカバンをふと見ると、セロハンテープで何か紙がつけられていることに気づきました。なんだろうと思って確認すると、そこには名前や連絡先、そして“地下鉄でお見かけして気になったので、よかったらメールください”というメッセージでした……(写真参照)」
その文言にゾッとした島田さん。さらに恐怖を感じたのは、そのメモがいつ貼りつけられたのかがわからないことだった。
「相手は私の顔を知っている。でも、私はその人の顔を知らない。どこかで見張られているのではないかと考えたら、本当に怖いし、気持ちが悪かった……」
以降、その男からメモがつけられることはなかった。だが、島田さんは“あのときの気持ち悪さが記憶から消えることはない”と話す。
『メモ男』による事件がどれくらい起きているのか──。記者が調べてみると、匿名のお悩み掲示板には同様のケースで嫌な思いをした女性からの投稿が数多く寄せられていた。
罪を認めない限り、
繰り返すストーカー行為
第三者がカバンにメモを入れたり、貼りつけたりする行為は犯罪に当たるのだろうか。
刑事事件に詳しい『末原刑事法律事務所』の末原浩人弁護士に聞いた。
「残念ながら、今回のような内容のメモを1度カバンに入れたり、貼りつけたりしただけでは、その人物を直ちに処罰することは難しいと思います」
冒頭の三浦容疑者のケースは、同じ女性に対してカバンの中に3回メモを入れたり、防犯カメラにもつきまとい行為をしている様子がうつっていたりした。それらの行為が決め手となって逮捕に結びついた。
「女性に気づかれずにメモを入れるためには、後ろをうろうろしたりして、しばらく隙をうかがう必要があります。その行動自体はストーカー規制法上のつきまといに該当すると思います」(前出・末原弁護士、以下同)
しかし、同じ女性に対してつきまといを複数回繰り返さないと、ストーカー行為とは認定されない。
「警察はまず、口頭注意や書面による警告を行います。警告を受けたことで、つきまといなどを止める人も少なくありません」
三浦容疑者は、警告を受けてもなお行為を続けていた。こうした場合、ストーカー規制法により2年以下の懲役、または200万円以下の罰金が科せられる可能性がある。しかし、初犯の場合は罰金刑となるケースが多いという。
「三浦容疑者は罪の意識が希薄だったのだと思います。彼の中では“自分はストーカーなどと言われるほどのことはしていない”という感覚だったのではないでしょうか。しかし、今回の行為を客観的に見たら、ストーカー行為に該当することは否定し難いと思います」
自分の行為で相手が迷惑をこうむることを想像できない。執着とひとりよがりな考え方に取り憑(つ)かれていたことがこの事件を引き起こした。
メモを貼られたらできるだけ触らず
警察にすぐ相談を
もしカバンの中に見知らぬ人からのメモが入っていたら、どのように対応したらよいのだろうか。
「できるだけ触らないようにしつつ、それを持って警察にすぐ相談してください。相手を特定できれば警告を出してもらえるでしょうし、警告はのちの逮捕への足がかりともなります。場合によっては、周辺の見回りを強化してくれることもありますので、とにかくひとりで抱え込まないようにしましょう」
だが、被害者たちは彼らに怯(おび)えながら生活をするか、引っ越しを余儀なくされる……。あまりにも理不尽な犯行なのだ。
前出の島田さんは、現在も当時の通勤経路を利用できないでいるという。
「しばらくは電車に乗るときには常に周囲を警戒したり、うかつに外も出歩けなかったり……なんで私がこんな思いをしなきゃいけないんだ、って憤りと許せない気持ちでいっぱいです」
加害者は声をかけるのを躊躇(ためら)い、メモを渡すという行為で純愛を気取っているのかもしれない。だが、やられたほうにとっては、顔が見えない相手に見張られているという恐怖を抱えたまま生きていくことになる。
『メモ男』たちは、自分たちの行いが卑怯な行為ということを自覚しなければならない。