冬ドラマも中盤から終盤へ。始まる前はワクワクしてたのに、いざふたを開けてみたら「あれれ?」という作品もちらほら……。主なドラマはほぼすべて視聴しているという、ドラマ評論家の吉田潮さんが、この冬の「がっかり残念ドラマ」をぶった斬る!
菅野美穂が馬鹿に見える
「'21年冬のがっかりドラマですか? 3つ挙げられますね」(吉田さん、以下同)
がっかり第3位に選ばれてしまったのは、菅野美穂主演の『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(毎週水曜夜10時~日本テレビ系)。かつては人気小説家だった天然な母(菅野美穂)&しっかり者のオタク娘(浜辺美波)の恋の行方を描く。初回視聴率は10.3%だったが、第7話(2/24放送)では9%に。
「せっかくの北川悦吏子脚本なのに、なんか上滑りしちゃってる感じですね。“伝家の宝刀”トヨエツを投入しても、かなり厳しい。そもそも初回からドタバタしすぎだったし、水無瀬碧(みなせあおい)を演じる菅野美穂が馬鹿に見えて仕方ないっていうか(笑)。
“恋愛小説の神様”って設定なら、もうちょっとちゃんと描いてあげればいいのに。オワコン扱いされた作家が“ちきしょー!”と新たな作品を作るような展開であれば、まだよかったんだけど、ただただ迷惑な40女になっていて。それがもったいない。菅野美穂にとっても、もったいない」
娘の空(浜辺美波)と光(岡田健史)の、同志から発展するような恋愛要素の描き方はさすがと前置きしながらも、
「出だしの段階では出版社でオワコン扱いされていたのに、光も担当編集者・漱石(川上洋平)も整体師の渉(東啓介)も人気歌手のユウト(赤楚衛二)も、水無瀬碧のファン。若い男性キャラクターが全員“みんな私に夢中”って、どうなの? 空気を読まない女が、ただただチヤホヤされるばかり。
なんか浮ついているというか、ちぐはぐ感が否めません。女性の自己肯定感を高めるという意味ではいいのかもしれないけど(笑)、恋愛って苦難の道だと思うんですね。もうちょっと苦い部分がほしい気がしますけど」
ただ、母と娘の物語は嫌いではないという吉田さん。
「『ウチ彼』は母と娘の、運命共同体みたいな話。仲がいいのはいいんだけど、2人の対比の妙を見せようとするあまり、片方をものすごく馬鹿にして、もう片方をものすごく卑屈にして。だから菅野美穂はあんな馬鹿みたいに見えちゃってるのかな?
あと、ところどころが昭和テイスト。たい焼き屋のゴンちゃん(沢村一樹)の設定も、やっぱりどこかが古い。ラブコメの王道といえば王道なんですが、言いたいこと言い合える幼馴染っていう。空の“かーちゃん”などといった物言いや“O型からAB型は生まれない”の布石など、今は令和なのに、そうやって昭和が匂ってくるのも、また別のちぐはぐ感が。雲の壁紙の巨大なベッドの上で、母と娘が会話してるのも世間からズレてる感がありますね。やっぱり脚本が悪いのか、それとも演出がひどいのか」
冒頭では、前回までのあらすじを登場人物が説明しているが、
「ああいう演出もいらないって思っちゃう。ドラマの製作過程では“船頭多くして船山登る”みたいなところがあって。“これ、こうじゃないほうがいいんじゃない?”と口出しをする人がいっぱいいすぎて、いろんな意見が取り入れられた結果、この取っ散らかり感なのかもしれないですけどね」
実際の田舎はそんなじゃない
ワースト2位は、高畑充希主演の『にじいろカルテ』(木曜夜9時~テレビ朝日系)。東京の大病院の救命救急の現場で働く医師・真空(高畑充希)は、難病である多発性筋炎を発症する。仕事を続けるため、選んだのは山奥にある虹ノ村診療所。村の人々と触れ合いながら、成長していく。初回視聴率は12.1%だったが、第6話(2/25放送)では10.7%。2桁をキープしている。
「岡田惠和のオリジナル脚本。オリジナルはやっぱり脚本家の色が出るから、ちゃんと評価したいと思ったんですが、入口からとにかくメルヘン」
この作品をどういう心持ちで見たらいいのかがわからず、ずーっと白目をむいている状態だという。
「村の人たちと和気あいあい、ピーヒャララ♪ なんか童話というか、絵本みたいな話になってるんですよ。ほのぼのしたものが好きな人にはいいかもしれませんが、実際の田舎は排他的な面もある。そんなところが1ミリもない。村人たちがみーんな“高畑充希ウェルカム!”なわけですよ。ほんわかするにも、ほどがあります」
さらには女性キャラクターが魅力的でない点にも顔をしかめる。
「雪乃(安達祐実)はまだら認知症、嵐(水野美紀)は夫に逃げられた女、氷月(西田尚美)は不妊治療をしても子どもを授からなかった。なんか“20~40代の女性が抱えていそうな悩みを集めてみました”みたいな感じがすっごい雑!」
まるで、女性向け掲示板サイト『大手小町』のトップ記事を集めて作ったようなキャラクターだと吐き捨てる。
「わかりやすい病気を抱えさせて、女の連帯を描くつもりなんだろうけど。身の上話して、涙ぐんで、缶蹴りしてアハハハハと笑って、手に手を取り合う。なんかもう、田舎もなめてるし、女もなめてるし。女同士、連帯はしますよ? 連帯はするけど、傷のなめ合いだけでほっこりみたいな描き方は、真実味がまったくない。女の人って、そんな馬鹿じゃないですよ」
『ドクターX~外科医・大門未知子~』『BG~身辺警護人~』などを放送してきた、テレビ朝日の木曜夜9時としては異色作だが、
「うまくいけばシリーズ化も狙える枠に、ほっこりモノがポッコリと入っちゃったわけですね。新たなお客さんを獲得しようという狙いだったら、全然悪くないと思うんですよ。ただ私はこの作品が大嫌いというだけで(笑)」
世界が終わる気がまったくしない
冬ドラマ、がっかりナンバーワン! その不名誉に輝いたのは、竹内涼真主演の『君と世界が終わる日に』(日曜夜10時30分~日本テレビ系)。通勤中にトンネル滑落事故にあい、閉じ込められてしまった響(竹内涼真)。数日後に脱出すると、街は生き血を求めて人間を食らう“生ける屍”に占拠されていた……! 初回視聴率は8.4%だったが、第6話(2/21放送)では7.1%。
昨年は自粛期間中などに、多くのゾンビ作品を見たという吉田さん。
「映画も見ましたが、Netflixでいったら『キングダム』っていう韓国ドラマ。吉沢亮のほうじゃないですよ。チュ・ジフンが主演で、すごくクオリティが高い。ゾンビの造形がすごくて、動きもめちゃ速い。舞台の作り方もお金があるからか素晴らしい。“今時のゾンビはこんなにハイレベルなのか!”と思い知り、アメリカの『ウォーキングデッド』もシーズン10まで一気見しました。やっぱり面白くて、世界が熱狂する理由がよくわかりました」
『キミセカ』は日テレとHuluの共同製作。製作費もある程度あり、“日本だってこんなゾンビドラマが作れる!”という気骨を見せてくれるのかと思いきや、
「もう超しょぼいわけですよ。まずゾンビが少ない。『ウォーキングデッド』は何万ものゾンビに囲まれ、映像の迫力がすごいんですよ。でも、『キミセカ』だとゾンビが50人……最大でも100人くらい。だから、全然世界が終わる気がしないんですよね。これくらいだったら、自衛隊が制圧するでしょって感じ。タイトルが大げさです。
もちろんコロナ禍ですから、ゾンビ役のエキストラを集めるのも大変だろうと慮(おもんぱか)る部分はあるにしても、アメリカ産や韓国産のゾンビドラマがウケてる中で、日本産がこれかよっていう……ね。なまじ期待してしまったばかりに、あごが外れそう。もう、そのあごが地面につくくらいがっかりです」
さらには『ウォーキングデッド』からパクったようなキャラクターも散見されるという。
「例えば、竹内涼真が演じる響は弓道の名手なんですが、弓矢でゾンビをバシバシ倒していくのは『ウォーキングデッド』のダリル。もう、弓矢ってだけでダリルを想像してしまうわけです。ミショーンっていう女性キャラは日本刀でゾンビをバッサバッサ倒していくんですが、『キミセカ』ではハル(田中道子)が刀を振り回していて」
さらに本家『ウォーキングデッド』は、女性キャラクターがとても生き生きと描かれている点も魅力的だという。
「キャロルっていう女性は夫のDVに悩まされていたけど、でも娘を守るためにゾンビと戦うスキルを身に着ける。女性の自立みたいな部分も描いてるんですよね。そして、世界の終わりみたいな状況でも、子どもを産む女性もいる。それぞれのキャラクターの成長や自立、負けない強い心みたいな部分も描いているんです。
『キミセカ』にもDVを受ける女性(安藤玉恵)は出てくるんですが、その夫は響(竹内涼真)によって成敗されて。なんというか……ちゃちい。女性キャラクターたちは響に従うばかり。従順で受動的。もうちょっと能動的に描いてほしかったですね。本家との格差しか感じません」
吉田さんのダメ出しは止まらない。キャラクターはパクっても、スケールや深みまではパクれなかった『キミセカ』だが、シーズン2はHuluで配信される。
「厳しいですよね。“また続きはHuluでかよ”っていうね。これがもう最近の日テレのやり口なんですけど、それに“ケッ”と思っている視聴者はけっこう多い。『キミセカ』は『ウォーキングデッド』を見ていない人であれば楽しめるのかもしれないけど、いかんせん、見ちゃった人間からすれば、わざわざHuluに入って劣化版を見るなんて意味ないですし(笑)。せめて“Hulu入ろうかな?”と軽く悩むくらいには、地上波でやってる段階で、ちゃんとオリジナルの面白さを見せてほしかったと思いますね」
春から始まるドラマには、がっかりさせられませんように。