2020年末に、錦織一清と植草克秀がジャニーズ事務所を退所し、事実上の活動休止状態となった『少年隊』。事務所に残った東山紀之は、舞台『チョコレートドーナツ』でドラァグクイーンに扮したり、映画『おとなの事情 スマホをのぞいたら』でモテない男性を演じたりと、これまで以上に演技の幅を広げている。また、バラエティー番組では、娘に気に入られようとアニメ『鬼滅の刃』や、ガールズグループ『NiziU』に関心を寄せるエピソードを披露。私生活に関するコメントもずいぶんとオープンになるなど、新たな一歩を踏み出そうとしているのが見てとれる。
錦織は3月に東京で開かれる舞台『シャイニングモンスター~ばくのふだ』の演出を手がけており、植草も自身の公式ツイッターやインスタグラムを1月に開設。「そのうちグルメレポーターとしてデビューするのか?」と思えるほど、出先で撮影した料理画像を毎日のように発信している。つまり、三者三様で新スタートを切っているのだ。
そんな少年隊だが、昨年末に32年ぶりとなったベスト盤『少年隊 35th Anniversary BEST』がオリコン週間アルバムチャート4位(デビュー記念日に合わせ土曜発売だったが、通常の水曜発売なら3位相当)にランクインしたり、近年の昭和ポップスブームで“伝説のスター&アイドル特集”が組まれるたびに華麗なパフォーマンス映像が流れたりと、むしろ2人が退所する数年前よりも、グループの存在がクローズアップされている。
実際、ベスト盤の限定盤BOX(定価3万800円)はフリマアプリなどで、約15万〜25万円で取り引きされているし、錦織が演出する舞台の音楽を担当する西寺郷太(ノーナ・リーヴス)がラジオ番組で少年隊の特集を組むと、ツイッターで毎回トレンド入りするほどの人気だ。昨今はSNSにアップしやすい手軽なカルチャーやグッズが流行する一方で、「これはスゴイ!」と思わず人に伝えたくなるほどの本物志向のものもヒットする、という二極化傾向にあるが、少年隊の場合は間違いなく後者だろう。
とはいえ、テレビで紹介される少年隊の楽曲はギンギラギンな衣装と斬新なイントロで魅せる『仮面舞踏会』、あるいは“ザ・宝塚”な美意識の高いダンスで一途に熱唱する『君だけに』、はたまた、シックなジャズナンバーなのに激しく踊りまくる『まいったネ 今夜』が主だ。いずれも前述のベスト盤(通常盤3枚組)のDisc1に収録された'80年代の曲なので、今回はDisc2に入っている'90年代の楽曲も紹介したい。
【1】封印LOVE(1990年4月発売)
'84年に『バージンブルー』がヒットした4人組バンド・SALLYの杉山洋介が作曲を担当したこともあってか、やけに青くさいポップスの『封印LOVE』。特に、ひとつ年上の彼女にデートをキャンセルされたくらいで、ひとり渚に来て潮風にたそがれては“やっぱり彼女しかいないし、抱きしめてほしい”という余裕のなさが、これまでの少年隊らしくない。前年、スウィングジャズの雰囲気で大人の恋の駆け引きに酔いしれる『まいったネ 今夜』を歌っていたとは思えないほど子どもっぽいのだ。
このころ、3人は舞台やドラマへの出演などソロ活動で忙しく、約10か月もシングルが発売されなかったので、ひょっとして原点回帰を狙っていたのだろうか。そんな泥くさい青春歌謡系の楽曲でも、完成度の高いダンスを王子様風の衣装でストイックに決めるというアンバランスぶりだったが、結果はオリコン最高2位止まり。累計売上枚数も10万枚を割り、発売3週目には週間トップ20にも入らないほどの急落ぶりだった。
また、この10か月の間に常連だったテレビ番組『ザ・ベストテン』と『ザ・トップテン』が相次いで終了したうえに、バンドブームの到来によって、田原俊彦や光GENJIなどジャニーズ勢全般が苦戦を強いられていた。そこへきて、レコード・デビュー前に先祖返りしたような楽曲に冷めてしまった人もいたのかもしれない。
しかし、時代背景を気にせずに聴いてみると、覚えやすい歌詞と親しみのあるメロディーで、普通にヒットしていそうな歌謡ポップスなのだ。それでいて、3人が矢継ぎ早に歌う部分は相変わらずクールだし、歌の直前直後で東山が「ザッツライト!」とクールに呟(つぶや)く一方、植草が「胸の奥に刻む名前は君しかいないからね」と少年性を帯びた高音ボーカルで熱唱するという、ツンデレのようなバランス感覚も面白い。
トドメに、タイトルの「封印LOVE」に、愛を閉じ込めたいという「封印」と、君は誰が好きなの? という意味あいの「Who in?」を掛けているのも、その後の“トンチキソング”がクローズアップされるジャニーズっぽさがあって、いいではないか。ちなみに、紙媒体では「印」がやや小さめに印刷されているのも、後輩グループSexy Zoneが「xy」のみ赤字表記であるのと同様、ジャニズムなこだわりを感じさせる。
【2】EXCUSE(1993年11月発売)
『君だけに』や『ふたり』など一途な恋愛を歌ってきた少年隊が、堂々と浮気をするという内容のダンス・チューン。「僕は君を選べない」「彼女にないものを君が持ってた」「ときめいた気持ちに嘘はない」「君は背中を向けていい」「逢えなくたって好きだから」とよくもまぁ、次から次へとExcuse(言い訳)を連発する男。筆者が担当するラジオ番組『渋谷のザ・ベストテン』(渋谷のラジオ)にも、「最高にカッコいい曲なのに、歌詞だけ読んでいるとあまりに身勝手でムカムカする」といった感想が多数寄せられたほどだ。
作詞を手がけた及川眠子によると「今までの少年隊のイメージを変えたくて作った」そうで、確かに、その大胆なミッションは軽々とクリアできているだろう。また、サビの「逢えなくなれば」や「逢えなくたって」で聴かせる3人のハーモニーは見事だし、AKB48のヒット曲を多数手がけている井上ヨシマサのメロディーもとても覚えやすい。そのうえ名曲『ABC』や『仮面舞踏会』を手がけた船山基紀による編曲も本格的なショービズを想起させるほどゴージャスで、どこから見ても一流のポップスだ。
テレビでは、発売前月にドラマのロケで大ケガをして踊れなかった植草が、舞台の後方で椅子に座って歌いつつ、錦織と東山がシンメトリックに華麗なダンスを披露。この“逆境を魅力に変える”パフォーマンスも話題となり、当時からジャニーズ勢の御用達だった番組『ミュージックステーション』には3回も出演。にもかかわらず、オリコン最高36位と、初めてトップ20に入らないシングルとなってしまった。
ただ、当時のヒットシステムは、ドラマ主題歌か清涼飲料水や化粧品のCMなど大型タイアップ曲に集中していて、本作のようなノンタイアップでのヒットがほとんど出ない状況だったこともある。単純に“曲の魅力がなかったから”とは言い切れないので、その先入観を捨てて聴いてほしい。
また、植草は『さすらい刑事旅情編』や『渡る世間は鬼ばかり』といったロングヒットドラマへのレギュラー出演、錦織はヤクザ映画や格闘系アニメ、舞台と多種多様な作品に挑戦、そして東山は大河ドラマ『琉球の風』でジャニーズ勢としては初の主演を飾るなど、ソロとしての活躍ぶりはますます盛んになっていた。
少年隊は'86年から'93年まで『NHK紅白歌合戦』に8年連続で出場しているが、'91年から'93年には大きなヒットがない。にもかかわらず、大勢のダンサーを従えての4分を超えるパフォーマンス時間を与えられていたのは、すでに“ヒット曲を歌うアイドル”ではなく、“日本を代表するエンターテイナー”として制作サイドに認められていたからだろう。現に、この'93年にはゴールデン・アロー賞の『演劇賞』および『大賞』を受賞している。
【3】情熱の一夜(1999年6月発売)
作詞を松井五郎、作曲・編曲を馬飼野康二が手がけた、エロティックなほど情熱がほとばしるラテン・ナンバー。これは、'99年春にリッキー・マーティンが大ヒットさせた『リヴィン・ラ・ヴィタ・ロカ』をいち早く日本に持ち込みたいとジャニー喜多川氏が意識したのではないだろうか。『リヴィン〜』は、同年7月に郷ひろみが『GOLDFINGER'99』として日本語でカバーし、「A CHI CHI A CHI」という意表をついた歌詞や、警察ざたになるほどのゲリラLIVE、さらに郷のド派手なパフォーマンス力で自身最大級のヒット(リミックス盤も含め約55万枚)となったが、少年隊の『情熱の一夜』は、この1か月前に発表されている。
しかも、郷ひろみが洋楽をキャッチーな歌謡ポップスに昇華したのとは対照的に、少年隊のほうは、5分間の間に曲調がどんどん変わっていく。軽快なリズムに乗って歌う序盤から「ほんとはどんな 夢を見てたのか」と心の内を吐露するようなスローな中盤。そのあと、どんどん欲望の渦に巻かれていくようにテンポが速くなり、高音ボーカルがエスカレートする終盤に続くという、いかにも舞台映えしそうな構成だ。
これは、3人が続けてきたミュージカル『PLAYZONE』での披露を当初から意識していたのか、のちに演出家としても活躍していく錦織のこだわりだったのか、とにかく広瀬香美にも歌ってほしいほど難しい。さらに彼らの場合は、激しいダンスをしながらの歌唱であり、単に突っ立って歌う素人とはワケが違うのだ。近年はYOASOBIの『夜に駆ける』やKing Gnuの『白日』などハイレベルなボーカル曲も多いので、オリコン最高24位だからと曲を飛ばさずに、じっくり聴いてほしい。
ちなみに、この'99年から'02年にかけて、少年隊はバラエティー番組『少年隊夢』や『少年タイヤ』を担当していたが、3人の活動はますます拡散していた。東山はゴールデンタイムの主演ドラマ俳優として活躍。森光子が足しげく自宅に通うことを面白おかしく書きたてられてもポーカーフェイスでいられたのは、毎日腹筋2000回など、超ストイックに心身を鍛え続けていたからだろうか。
錦織は、ぶっきらぼうな短髪にサングラスと、敬愛する矢沢永吉風のいでたちに。舞台で声を張ることが多いのか、はたまた朝まで演劇論に花を咲かせていたのか、声がどんどんハスキーになり、キラキラなテレビスターとは異なる道を歩み始めた。“歌もダンスも本格的”という類いまれな演出家となるべく地固めをしていたのだ。
植草はメタボ体形でもないのに、3人で並ぶとどうしても“フィーリングカップル5vs5の5番”的な話のオチを受ける立場にいながらも、'20年の新録音盤に至るまで、高音ボーカルを難なくこなすのが心ニクイ。今後も、ソロ歌手としてさらなる活躍を期待したいほどだ。東山に正論でツッコミを入れられても(これもヒガシの愛情表現だろう)、足の大ケガで回復に相当なダメージを負っても、歯を出してケラケラと笑い続けるというのは、ある意味、相当の大器ではないだろうか。
以上、'90年代の3曲だけでも長くなってしまったので、また機会があればベスト盤のDisc3収録のシングルのカップリング曲や、アルバムオリジナル曲もおすすめしてみたい。その中の1曲に『星屑のスパンコール』という、ジャニーズの後輩たちにも歌い継がれている人気曲があるのだが、その歌詞にある、
「もう一度アンコール もう一度アンコール またいつか会えるよね SEE YOU AGAIN」
という言葉を信じて、古くからのファンも、近年、動画やテレビで覚醒(かくせい)してしまったファンも、少年隊を応援し続けるのだろう。
彼らは解散はしていないのだから、3人がそれぞれの世界で輝き続ける限り、またいつか会える可能性もゼロではない。それまで、今回紹介した3曲をはじめ、噛むほどに味が出てくるスルメ系の楽曲満載のベスト盤を楽しんでみてはどうだろうか。
(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)