「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
堺正章と岡田美里の結婚会見(1989年)

第52回 岡田美里

 独身女性向けの記事で、「出世する男性を見極める法」なるものをときどき見かけます。どうして女性たちが「出世しそうなオトコ」を求めるのか。それは「そういう人と結婚すれば、人生は安泰」と思っているからではないでしょうか。

 2月23日に世界銀行が発表した、経済的な権利をめぐる男女格差を調査した年次報告書によると、日本の順位は190カ国・80地域のうち80位タイに低下したそうです(昨年は74位タイ)。居住地の選択や旅行などの「移動」では、男性と女性に差はなく満点ですが、就職や待遇面、セクハラなどのへの対応を測る「職場」や「支払い」の項目では、昨年も今年も評価は半分の50点ずつにとどまっているそうです。

 個人の能力云々の前に、世の中が「女性にお金を与えない」仕組みになっているのなら、女性が「自分であくせく働くのではなく、将来有望な男性と結婚したい」と思うようになるのも無理はありません。しかし、高収入な男性との結婚はそれなりにハイリスクな気もします。

妻に暴力をふるう名経営者の“裏の顔”

 2月6日、妻であるシンガーソングライター・谷村有美の足や腕などをゴルフ器具で殴った疑いで、夫の原田泳幸氏が逮捕されました。原田氏と言えば、アップルコンピュータ日本法人社長、日本マクドナルドホールディングスCEO、ベネッセホールディングス社長を歴任した名経営者。そんな人が妻に暴力をふるう裏の顔があったとは驚きですが、2月13日配信の『FRIDAY DIGITAL』によると、谷村は少し前から夫の暴力に悩んでいて渋谷署に相談していたそうですから、この問題は今に始まったことではないのかもしれません。

『FLASH』(3月1日号)によると、拘留されていた原田氏と連絡を取っていたのは、前妻との間にもうけた娘・A子さん。同誌の取材に対し、A子さんは「父は『いつもの夫婦間の、ちょっとしたケンカ。なんで俺が逮捕されなくちゃいけないのか。しかも勾留まで……』とショックを受けています」「本人は、『報道があまりに一方的だ』と戸惑っている様子でしたし、私もそう思います。実際、谷村さんは入院などされていないようですし」と、谷村もしくは報道が「大げさ」であるともとれるような発言をしています。

 夫婦ケンカくらいはどこの夫婦でもするでしょうが、暴力をふるってはいけません。入院していないから、大した暴力ではないと片づけるのもいかがなものか。A子さんは前妻の子ですから、谷村に対していろいろ思うところがあるのかもしれませんが、親子して「暴力は絶対にいけない」という意識が希薄なのではないかと思ってしまいます。

「夫が高収入だから」口に出せないというリスク

 夫に暴力をふるわれたとき、周囲に打ち明けたり、適切な行動を即座に起こせる女性はごく少数派だと思います。暴力を振るわれた驚きや恐怖で二の足を踏んでしまうのでしょうが、特に夫の社会的地位が高い人ほど、逃げられないのではないでしょうか。

「社会的に成功している人は、立派な人物である」とか「男性の価値は、経済力である」というバイアスが強い人に話してしまうと「仕事が大変でストレスがたまっているから」「あなたの言い方が悪くて怒らせたんじゃない?」と暴力を振るわれた側が責められてしまうこともあるかもしれません。

 谷村のように夫が会社社長ということになれば、本人の社会的評価はもちろん、会社にも迷惑をかけることになりかねない。経済力や社会的影響力に著しい差があると、夫の報復を恐れて、声を上げることができなくなってしまう女性もいるでしょう。「夫が高収入だから」口に出せない、逃げられないというリスクも存在するのです。

 一般論で言えば、高収入男性との結婚生活に向いているのは、“沈黙力”の高い女性だと思います。配偶者に不満のない人はいないと思いますが、だからといって、それをベラベラ他人に打ち明けてしまうと、話に尾ひれがついたり、新たな嫉妬を買ったりとトラブルの元になりかねません。いろいろあっても、何もないような涼しい顔ができる人が向いていると思いますし、これは生まれついての能力だと思います。しかし、長所と短所は紙一重です。“沈黙力”が高い女性がDVの被害者になると、逃げ遅れてヤバいことになる可能性はありますから、ちょっとでもおかしいと思ったら、専門家の指示を仰いでほしいところです。

 そういえば、今週はじめに「元・高収入夫の妻」が話題になりました。俳優・堺正章の元妻、岡田美里です。

 娘である女優・堺小春が『世界一受けたい授業』(日本テレビ系)で、堺正章と父娘共演し、岡田はその感想をオフィシャルブログにつづっています。そこで、岡田は離婚したあとも、堺と娘たちとの交流が途絶えないように努力していたこと、その結果、娘たちはパパが大好きなまま成長したと明かしていました。ここまでなら“いい話”なのに、岡田が《(堺のことを)私は、今でもあんまり好きじゃないですケドね(笑)》と書いてしまったがために、ネットでは「別れた夫を悪く言うなんてヤバい」という声が上がりました。

 でも、この方、昔からこんな感じでしたよ。

「それくらいで文句を言うなんて」とバッシングされた

 2001年に堺正章と離婚、会見を開いた岡田は、離婚の原因として、自身の心の傷を打ち明けます。父親であるタレント、E・H・エリックさんはアルコールを大量に飲んでは家庭で暴力をふるっていたそうですが、自身の流産後にそのトラウマが出てきてしまい、堺が怖くなってしまったそうです。

著書『「しあわせ」のかたち PTSDからの旅立ち』の出版記者会見(2001年)

 こういう経験者しかわからない、「心の傷」の代わりに話題になったのが、「堺家に届けられるお中元やお歳暮があまりに多すぎて、それらをさばくのがストレスだった」と岡田が話したことでした。当時は「女性はよき妻、よき母として生きよ」という圧が強い時代でしたから、「それくらいで文句を言うなんてヤバい妻だ」とバッシングされました。しかし、「物をもらう」というのは、いいことばかりではありません。

 私が会社員だったころ、ちょうだいものが多い上司の家にお手伝いに行ったことがありますが、本当に大変だった。外出はできないし、日持ちしないものが同じタイミングで届いて、冷蔵庫にしまいきれない。その上、おいしかったうれしかったとお礼状を書くことも必要になるでしょう。贈り物も度を過ぎると、一種の暴力になってしまうのだと知りましたが、その一方で、思うのです。それを記者会見で言うのはどうなんでしょうか。送った人があの会見を見ていたら嫌な気持ちになるかもしれないという想像力や“沈黙力”があれば、あのエピソードを披露しなくてもよかった気がします。

 しかし、上述したとおり“沈黙力”は生まれつきですから、努力しても身につかないし、そもそも努力する必要もない。堺と離婚した後、岡田はスポーツインストラクターの男性と再婚し離婚、オフィシャルブログによると、現在は事実婚状態のパートナーがいるそうです。「主人がお世話になっております」と頭をさげる生活より、自分の才覚でビジネスを立ち上げてバリバリ稼ぎ、パートナーにそれを支えてもらうスタイルのほうがこの方には合っていたということでしょう。

 自分に向かない、合わないことをすると、どんどんヤバくなっていくと思います。女性の置かれる環境は厳しいがゆえに、壁にぶちあたりやすいものですが、「自分には向かないこと」リストを作っておくと、ヤバ化が防げるかもしれません。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」