※写真はイメージです

「新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染が拡大した昨年3月の緊急事態宣言のときに犬猫ブームが起きました。コロナ禍で“外出できない”“人と会えない”といった孤独や、癒しを求めて動物を飼い始めた人が増えたんです。住宅事情からなのか、若い人は小型犬を飼う傾向にあるようです」

 そう話すのは、大阪府の『まねき猫ホスピタル』院長の石井万寿美獣医師。

コロナ禍に限らず、
地震・台風・水害に備えて

 ペットショップやペットオークションは大盛況。動物愛護団体などが主催する犬猫の譲渡会にもたくさんの人が集まったという。

 出会ったペットを家族として迎え入れたのなら飼い主は当然、責任を持って育てる義務がある。

 そしてイザというときにペットを救えるのも飼い主だけだ。

 それはなにもコロナ禍に限らない。地震や台風、水害といった緊急事態はいつ起きるかわからない。

 だからこそ、ペットも人間も平時からその心構えをしておこう。

 まず、直近で気をつけるのは新型コロナの動物への感染。人から動物へと感染した例が海外で報告されているからだ。身近な動物である犬や猫が新型コロナに感染したという例も複数あるという。

 前出の石井院長は、「日本では検査をしていないので実数はわかりません」と前置きをしたうえで、

「それほど多くはないと言われていますが、罹患している犬猫がいる可能性も」

 特に注意が必要なのが猫。

「感染した猫に呼吸器症状や消化器症状があったケースも報告されています」(前出の石井院長、以下同)

 呼吸器症状というのは咳やくしゃみ、鼻水などの症状のこと。さらには息が荒くなったり、鼻孔がぴくぴくと動いたり。下痢や嘔吐などがみられることがあったという。

「こうした症状は猫風邪にも似ているので判断が難しい。おまけに体調の悪い猫は飼い主の見えにくいところに隠れたり、触られるのを嫌がったりするので、なかなか病状に気づきにくい。なんらかの異変があれば、すぐに獣医師に相談してください」

キスや口移しもNG、
接するときはマスクを

 さらに猫はコロナ後遺症があるとの研究も発表された。

「東大医科学研究所の河岡義裕教授らによると、感染した猫は回復しても肺にダメージが残ることがわかりました」

 中には呼吸器症状がなかったものの、後遺症だけがあった猫がいたという。

「高齢の猫や糖尿病などの基礎疾患があると症状が重篤化するリスクも高まるので注意してください」

 また、猫がほかの猫にウイルスをうつすこともあるので、複数匹を飼っている人はより気をつけて様子をみよう。

 犬や猫にはどのように新型コロナが感染するのか。

「人間と同じで、飛沫感染と接触感染です」

 飼い主の咳やくしゃみで飛び散った飛沫が、動物への感染経路となる。

 飼い主は人間だけでなく、ペットにもうつさない心がけが必要なのだ。

「感染の疑いがある場合は、口移しで食べ物をあげたり、キスをするのは控えましょう。一緒に寝ているなら寝室も分けたほうがいい。ペットと遊ぶ前には手を洗い、消毒し、マスクをつけましょう」

 エサをあげるときも同様の対策をして、動物に飛沫がかからないようにすること。

ペットの預け先を
あらかじめ決めておくこと

 そして感染していないときにこそ、万が一のことを考えて、備えておこう。

 新型コロナの恐ろしさは症状がいつ急変するかわからないところ。だが、中には“動物がいるから”との理由で、入院や宿泊療養に踏み切れない人も少なくない。

 そこであらかじめ誰にペットを預ければいいかを決めておくことが重要だ。

「症状が重くなると、エサやトイレなどの世話はひと苦労です。単身世帯や高齢夫婦世帯は、必ず考えておいてください」(公益社団法人『日本動物福祉協会』の町屋奈獣医師)

 ペットの世話を託せる家族と同居していなかったら、自宅で面倒を見るのはあきらめ、預かってもらったほうが安心して自分の治療に専念できる。

 それに犬を飼っていれば、感染を広げないため散歩にも行けない。犬のストレスはどんどんたまることに。

 だからこそ、信頼できる友人や親戚、またはペットホテルや動物病院など、イザというときに預けられる先を確保しておくことがベター。

 ただし、ペットホテルや動物病院には飼い主がコロナ感染しているとペットの預かりを断ることもあるという。

「事前に必ず確認しておきましょう」(前出の町屋獣医師、以下同)

最寄りの避難所に
ペットを連れて行けるか確認

 新型コロナ以外の理由で預けられている犬猫がほとんど。そのため滞在スペースは感染拡大を防ぐため、わざわざ隔離した場所を用意することに。数に限りがあったり、飼育場所自体を確保できないことがあるのだ。

 新型コロナは少し落ち着きつつあるが、自然災害はいつ発生するかわからない。

 2月13日に東北地方で震度6強の地震が発生したことは記憶に新しい。

 防災ライターの当山みどりさんが説明する。

「災害時にペットと離ればなれになってしまったり、“ペットを残して行けない”と避難をせず、命を落とした飼い主も少なくありません」

 ペットの新型コロナ対策は、災害への備えにもなる。一緒に生きのびるための備えをすることも飼い主の責務。

 最初に想定したいのは被災し、避難生活を送ることになったときのことだ。

 最寄りの避難所にペットを連れて行けるかを確認しよう。受け入れがなかったら、ペットと避難できる避難場所が近隣にあるのかを探すこと。

 最悪の場合は車中避難をしたり、遠方の親戚や友人に預けることも検討してほしい。

「対応は避難所によってさまざまです。屋外に張られたテントや建物の一画で飼い主と共に過ごせるところもあれば、ペットは専用のスペースに分けられる場合もあります」(前出の当山さん)

平時からしっかりと
しつけをしておくこと

 また、ほかの避難者の迷惑にならないように配慮し、平時からしっかりとしつけをしておくことも大切だ。

「犬猫がケージやキャリーに入って過ごす訓練やトイレトレーニング、人に飛びかからないためのしつけは必須です」(前出の町屋獣医師)

 犬が無駄吠えをしないための訓練もしておきたい。

「避難所に来る人の中には、動物の鳴き声やにおい、抜け毛などを気にする人もいます。過去の災害時にはそれでトラブルになったことも」(前出の当山さん)

 無用なモメ事を避けるため、しつけができなかったクセやペットの性格で気になるところを紙に書いて、預け先や避難所で渡すことも大切だ。

「避難所や預け先で逃げ出してしまったときのことも想定すること。首輪に名札をつけたり、マイクロチップを装着させ所有者がわかるように対策をしましょう」(前出・同)

1か月は困らないエサを
ストックして

 前出の石井院長は、ある事例を明かした。

「ある飼い主さんは自分が新型コロナに感染したときに飼い犬のエサの買い置きがなくて困ったそうです」

 そこでエサやペットシーツ、猫砂などは最低でも1か月分くらいは自宅にストックしておくこと。

 災害時、動物のエサはなかなか手に入らなくなる。

「人間優先のためエサが支援物資として回ってくるのはだいぶ後です。年齢や疾患によっては支援されたエサが食べられないこともあります」(前出の当山さん)

 下のリストを参考にして必要なアイテムを用意し、袋にまとめよう。

  ◇   ◇   ◇  

緊急事態のために準備したい
アイテムリスト

<必ず準備しよう!>

□フード1か月分(缶詰や特別食があればそれも入れる)
□リード(もしくは猫、小動物用のハーネス)
□水
□フードと水を入れる容器
□ペットシーツ
□猫用トイレの砂やトレー
□ウエットティッシュ
□フン処理用の袋
□ゴミ袋
□おもちゃ
□キャリーやケージ
□タオル
□動物が普段使っていてにおいがついたもの
□下記の動物の情報(預けるときに必須)
□動物の写真(飼い主と一緒に写っているものがあればなおよい)

<あるとなお安心>

□身元確認ができるもの 例)マイクロチップ・名札など(預け先で逃げ出してしまったときなどの備えになる)
□獣医師が処方している薬や処方食のメモ
□洗濯ネット(猫がパニックになったときなどに入れるため)

  ◇   ◇   ◇  

 同時にペットのワクチン接種やノミや寄生虫の予防、駆除、不妊・去勢手術なども必ずしておくこと。

動物たちに最後まで
幸せな一生を送らせてあげて

 飼えなくなったときのことを想定しておくのも飼い主の責任だ。

 1度飼ったのなら責任をもって最後まで面倒をみる、終生飼養が大前提。だが、それは「絶対に1人の飼い主が最後まで」というわけではない。

 コロナ感染後に後遺症が続いてペットの世話ができずにネグレクト状態になってしまうことも。コロナや災害で失業し、ペットのエサどころか、自分の食事もままならなくなるケースもあるだろう。

「無理して飼い、生活が破綻することもあります。ですから、次にちゃんと幸せに飼ってくれる人に命をバトンタッチすることも大切なんです。どうか動物たちに最後まで幸せな一生を送らせてあげてください」(前出の町屋獣医師)

 前述のようなやむをえない事情だけではない。

 SNSの可愛い画像に感化され安易に飼う。飽きて世話がめんどくさい、と無関心になる無責任なケースだ。だが、飼育のストレスから虐待につながるなら次の飼い主を探したほうが動物も幸せだ。

 手放す際は譲渡先や団体の施設を訪ね、動物が安心して過ごせる場所かなどを確認。譲る相手の身分証明書を確認するなど、細心の注意を払うことを心がけてほしい。譲渡先での虐待や多頭飼育につながることもあるからだ。

 適切な世話をしてくれる人間がいない状態はペットの大きなストレスや心の傷になることを忘れてはいけない。

「世話をしてくれた人がいなくなり、劣悪な環境に置かれることは動物にとって不幸なことです」(前出・同)

 ペットは孤独を癒してくれるおもちゃではない。同じ命だ。ペットを救えるのは飼い主しかいないのだ。


教えてくれたのは…

石井万寿美先生 『まねき猫ホスピタル』院長。Yahoo!などで動物に関する記事も執筆している

町屋奈先生 公益社団法人『日本動物福祉協会』調査員で獣医師。動物福祉の啓蒙活動のため、研修会などを開催

当山みどりさん フリーライター。国内外の被災地で支援活動に参加。防災関係の記事を多数執筆