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「昨年の緊急事態宣言のとき、同僚の20代前半の子は、昼職へうまく転職できたようですが、私は年齢のせいもあってか、就職活動は失敗続き。厳しいですね。まだ夜の街で仕事をしています」

 そう話すのは、新宿・歌舞伎町のキャバクラ店で働くシングルマザーの貫美奈代さん(30代後半=仮名)だ。10年以上、同じ店で働いてきた。企業の接待などで夜の街が使われることが減り、かつてないほど危機的な状況に陥っている。

「なんとか生活」キャバクラ嬢の厳しい現実

 不要不急の外出の自粛が叫ばれる中、最も感染リスクが高いとして“名指し”されたのが「夜の街」だった。

 美奈代さんが働いていた店は、通常は20時から翌1時までが営業時間だ。しかし、昨年の緊急事態宣言で、5月25日の宣言解除のときまで、店は休業になった。さらに東京都の感染拡大防止対策として、夜の街は20時までの時短要請が出された。通常の営業ができない状況が続いた。

 そこへ追い打ちをかけたのが今年1月7日からの、2度目の緊急事態宣言。店は時短営業をしているものの、開店休業の状態だ。

「仕事にならないです。そのうえ子どもが2人いるので、厳しい生活が続きます」

 美奈代さんの子どもは小学2年生と保育園児。下の子は24時間対応の保育園や託児所に預けている。母子3人で暮らす都内のマンションは家賃10万円ほど。収入が大きく減った今、負担は大きい。

そろそろ子どもの部屋が欲しいなと思っていたときに、コロナ禍になりました。今後の進学などを考えて貯金もしてきましたが、予定していた収入がなくなったため、貯金を切り崩して、なんとか生活しています」

 キャバクラ嬢のほとんどは店との雇用関係はない。個人事業主扱いとなり、報酬は歩合制だ。店が休業すれば、収入はゼロになる。稼ぎがあっても、社会保険料や住民税、所得税を支払うと、報酬が高いとは言えない場合も多い。そのうえ、ヘアメイク代や衣装代、交通費、プレゼントなどの交際費、携帯電話代などの経費も自腹だ。

 ただ、美奈代さんは持続化給付金を申請し100万円が支給され、生活費の足しにしている。そうした一定の救済措置があるとはいえ、この支給は1度きり。一方、コロナの影響がいつまで続くのかは未知数だ。

「これまでも病気などで出勤できないことがありました。そんなときは交際相手が援助してくれましたが、昨年の緊急事態宣言のあとから連絡がとれなくなりました」

 短期バイトで家賃分の収入は得ているが、キャバクラでの稼ぎは大きく減り、転職活動もうまくいかない。先の生活の見通しがつかないままだ。

シンママ家庭の少女がSNSで訴える理由

 子どもの立場から、シングルマザー家庭の経済的な困難について、《#麻生さん一律給付は必要です》というハッシュタグとともに、ツイッターで発信をしている少女がいる。シングルマザーを母に持つ、小学6年生の鈴木真希ちゃん(12=仮名)だ。

《私の家は母子家庭です。とてもお金が無いです。親の月のお金は20万くらいです》

《お母さんは朝も夜も働いてましたが夜のスナックの仕事がなくなりました》

《#拡散希望 #コロナ終息まで給付金を出して》

シングルマザー家庭の窮状を訴えた、小6女児によるツイート。Wワークする母はコロナ禍で夜の仕事を失った

 このようにツイートした理由を、真希ちゃんはこう打ち明けた。

「麻生太郎さんが、(2度目の)給付金を支給しないと発言していたから。世の中には私たちみたいに、お金に苦しんでいる人もいます。そのことを広めたかったんです」

 真希ちゃんの母親は、昼間は、ヤクルトなどの商品を配達する“ヤクルトレディ”として20年以上、働いてきた。夜はスナックに勤めWワークをこなしていたが、コロナ禍で失業してしまった。

「スナックの仕事がなくなったので、今は旅館のアルバイトをかけもちしています」

 この4月には中学校へ入学する真希ちゃん。制服のほか、学校指定の通学カバンに体操服、上履きなど、入学準備にはまとまった費用がかかる。

「制服は、知り合いのお姉さんから譲ってもらうことになりました」

 自助、共助だけでは困窮から抜け出すのは難しい。給付金という公助を求める真希ちゃんの声は届くのだろうか?

DV被害者や、生活保護を拒む当事者も

 夜の仕事をしているシングルマザーの居場所を作りたい─。そう思ったのが、キャバクラなどを中心に「夜の世界」で、キャストやスタッフとして働いてきた石川菜摘さん(30)だ。

 昨年の緊急事態宣言のとき、埼玉県川口市を活動拠点に『ハピママメーカープロジェクト』を設立した。水商売や風俗店で働くシングルマザーが主な対象だが、コロナ禍ということもあり、シングルファーザーやナイトワーク以外の生活困窮者の支援も行っている。

 2月上旬。川口市内のスペースを借りて、石川さんらは食料支援を行った。支援団体や個人から寄付された米やバナナ、りんご、インスタント食品、おむつなどを、家族構成や子どもの年齢などを考慮して、ボランティアが段ボールに詰めていく。

 午後になると、支援を求める人たちが集まってきて、そこは当事者たちの交流の場にもなっていた。

(コロナ禍で)支援を求める人が増えてきています。なかには、夫のDVから子どもと一緒に逃げてきた人もいます。その場合、離婚が成立していないため、行政の支援が受けられないケースも。

 生活保護を受給できる状況なのに、人様に迷惑をかけられない、と無理をして働く人もいます。県外からも相談があり、地元の団体につなげる間、一時的に食料支援をしています」

ハピママではLINE相談のほか、SNSでの情報発信にも力を入れる

 昨年の緊急事態宣言と2回目の宣言後とでは、「夜の世界」を取り巻く状況も変わった。石川さんは言う。

「前回、お店は全面的な休業でした。今回は、17時から20時までは開けている店もあります。ただし、夜は二極化しています。売り上げがいいキャバクラ嬢とそうではない人との格差もありますし、店ごとの差も大きい。求人自体はあるんですが、お客からの指名が弱い(少ない)子は厳しいですね」

 石川さん自身、昨年の緊急事態宣言で勤務先のキャバクラが出勤停止となり、厳しい生活に。2度目の宣言が出たあと、転職活動を始めた。

「求人に応募すると、“すでに受付は終わっている”と言われることもありました。オンラインの説明会で終わったこともあります。

 でも、私はまだマシです。大卒で、昼職の経験があるので。しかし、高卒で、夜1本しか経験がない場合は厳しいです。子どもがいると、さらに大変です」

 同じく「ハピママ」のスタッフのひとり、平良美里さんも、元キャバクラ嬢だ。長男(6)と次男(4)の子ども2人がいる。

 シングルマザーになったのは次男が生まれたころ。当時の夫が家に帰らなくなったのだ。不倫が原因だった。現在は離婚が成立している。

(不倫は)私が臨月のときからだったようです。当時は働いていなくて、お金がなかったんです。どうしようと焦っていたときに、フードバンクを頼りました。(頼れる場所ができて)気持ちとしてもラクになりました

食料支援の日、平良さんは訪れる母子に話しかけ丁寧な対応をしていた

 2度目の宣言が出るまではキャバクラで働いていたが、店が休業となったために、現在は無職に。元夫からの養育費はもらっていない。

元夫とは音信不通です。お金の話をする機会もありません。子どもと会いたいのかどうかさえ、わかりません

 平良さんはこれまでの貯金を切り崩して生活をしている。両親からの援助はない。そんな中、4月から長男は小学生になる。入学準備の説明会がコロナ禍で延期となり、どのくらい費用がかかるのかわかっていない。

就労支援と給付金を組み合わせた支援を

 コロナ禍でシングルマザー世帯への影響は深刻だ。「労働政策研究・研修機構」の調査によれば、「失業者・休業者」の割合は、’20年5月末時点で男性が4・2%、女性は9・1%。とりわけ影響が大きいのはシングルマザーで、子育て中の女性の11・5%に対し、母子だけの世帯は13・6%にのぼる。

 職業別に見ると、「宿泊・飲食」の打撃が大きい。就業者は7・5%減少した。つまりは、テレワークができない飲食業で、かつシングルマザー世帯の経済的ダメージが大きいと言える。

 一般社団法人『ひとり親支援協会』の調査でも、コロナ感染拡大により、ひとり親の73%が減収したと回答。この調査対象が、居酒屋などの飲食店で働くひとり親という前提だが、

緊急事態宣言を受けて、仕事やシフトが減らされているのが現状で、生活が逼迫しています。現行の支援制度は借り入れのため、いつかは返済をしないといけません。ハードルが高いので、給付金の支給をお願いしたい

 と、今井智洋代表理事。さらに、「現行制度への容易なアクセスと、新たな給付金の支給、就労支援を合わせた取り組みが必要」と提言する。

 冒頭の美奈代さんには迷いがある。

今後、宣言が解除されてもしばらくは、お客さんは戻ってこないと思います。でも、朝や昼の営業のキャバクラは盛況という話も聞きます。転職がうまくいかないので、朝キャバや昼キャバで働くことも考えないといけないですよね……

 感染源として「夜の街」が名指しされ、時短要請も行われた。そこで働くシングルマザーの窮状は見過ごされやすい。相談のハードルを下げ、当事者へのサポートを届ける必要がある。