左からウエンツ瑛士、松本人志、マツコ・デラックス

『ダウンタウンなう』『夜の巷を徘徊しない』『アナザースカイ』など、次々と発表される「ロケ番組」の終了or移動。だが一方で新番組も。民放各局のロケ番組に、いま、何が起きている? コラムニスト・テレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

 連日、民放各局で春の改編説明会が行われ、終了する番組、新たにスタートする番組、リニューアルする番組の詳細が次々に報じられている。

 中でも目立つのは、ロケ番組の苦境。『火曜サプライズ』(日本テレビ系)、『ダウンタウンなう』(フジテレビ系)、『夜の巷を徘徊しない』(テレビ朝日系)が終了し、『アナザースカイ』(日本テレビ系)は2時間も遅い深夜帯、『噂の!東京マガジン』(TBS系)はBS-TBSに事実上の降格となるなど、ネガティブな状況に追い込まれている。

 ただ、その一方で新番組の中には、『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(中京テレビ・日本テレビ系)のようなロケのウェートが高いグルメ番組がある。ここまでの報道を見る限り、ロケ番組の終了や移動は「コロナ禍の影響」と言われているが、本当にそれだけが原因なのだろうか。

 終了・移動する番組と、放送続行する番組や新番組との違いも含め、ロケ番組の現状を掘り下げていく。

コロナ禍は理由の1つに過ぎない

 まず終了・移動する番組にコロナ禍の影響があったのか? 民放各局の改編説明会を見る限り、必ずしもそれだけとは言えない様子が伝わってきた。

『ダウンタウンなう』は、「コロナ禍で店に行ってロケをする『本音でハシゴ酒』が難しくなった」と影響の大きさを認めつつ、「代替企画として放送されている『酒のツマミになる話』が好評」「6年間で500組以上のゲストに出演いただき一定の役割を終えた」という総合的な判断であることを強調していた。

『夜の巷を徘徊しない』は、コロナ禍でマツコ・デラックスが深夜の街を歩くロケがしづらくなったことで、昨秋に『夜の巷を徘徊する』から番組名を変更。ただ、コロナ禍が「終了のきっかけの1つになったことは事実」としながらも、あくまで「4月改編に伴い総合的に判断した結果」とした。

 また、日本テレビも『火曜サプライズ』『アナザースカイ』の終了・移動理由にコロナ禍を挙げず、「総合的に判断」とコメントしている。

 どの番組も、「コロナ禍は理由の1つ」であり、「ほかにも理由はある」というスタンスに過ぎないのだ。これは特に意地を張っているわけではなく、偽らざる本音だろう。実際、『ぴったんこカン・カン』(TBS系)、『バナナマンのせっかくグルメ!!』(TBS系)のようなド真ん中のロケ番組でも続行するように、「やろうと思えばできないことはない」のだ。

 終了・移動するロケ番組には共通点があり、逆に続行するロケ番組にも放送を続けていく上でのポイントがある。

注目はリポーターの人気とやる気

 ロケ番組の命運を分ける最大のポイントは、「誰がどういうロケをする番組なのか」。

 タレントではなく主にスタッフがリポーターとなるロケ番組なら、「現場の人数を最小限にできる」「タレントにリスクを背負わせなくて済む」などの理由から放送のハードルが低くなる。つまり、コロナ禍でもレギュラー放送していく上での支障は少ない。

 また、タレントがリポーターとなるロケでも、「売れっ子なのか、若手なのか」の違いで放送のハードルは大きく変わる。

 「若手に外のロケを担当させて、売れっ子はスタジオで見守る」というタイプの番組ならまだいいが、『ダウンタウンなう』のような大物芸能人がロケに出る番組はもともとハードルが高い企画のため、コロナ禍などのきっかけで「終了しよう」という話になりやすい。

 そもそもロケをするタレント本人が前向きでなければ、コロナ禍でのロケ番組は成立しないし、売れっ子や大物に無理してロケをさせることは各局にとって得策とは言えない。その意味で、売れっ子芸能人たちがリポーターを務める上に、アポなしロケが売りだった『火曜サプライズ』の放送続行が難しいのは当然だろう。コロナ禍の今、「アポなしロケをやりたい」という人気芸能人はほとんどいないからだ。

 さらに、ロケ番組が「ファミリー向けか、中高年層向けか」の違いも、終了・移動と続行・新番組の差を分けている。昨春の視聴率調査リニューアルによって民放各局がスポンサー受けのいい10~40代に向けた番組制作を進めはじめた。その点、視聴年齢層が高いと言われる『ダウンタウンなう』『アナザースカイ』『噂の!東京マガジン』は、無理して放送を続ける必然性はない。

 新たなロケ番組をスタートさせるケースでは、ファミリー向けの内容であることが前提条件となる。コロナ禍で広告収入減に悩まされる中、スポンサー受けのいいファミリー向けの番組なら、多少のリスクを承知で挑戦する価値があるからだ。

「コロナ禍のロケ番組というリスクがあっても、ファミリー層の個人視聴率が獲れるのならやろう」が本音ではないか。

店員と客のリスクがあるロケはNG

 ファミリー向けの番組制作を進める上で欠かせないのが、グルメ系の企画。グルメはファミリー最大の共通語として親子視聴をうながすジャンルであり、コロナ禍の真っ最中であるにもかかわらず、『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』がスタートすることからも、それがわかるだろう。

 また、このところ『ジョブチューン』(TBS系)や『ウワサのお客さま』(フジテレビ系)のようなグルメチェーン店の企画を目玉にした番組が多いことも、グルメ=ファミリー向けの図式を裏づけている。

 そのほかのポイントとしては、「店員や一般客のリスクが高いロケになっていないか」。『火曜サプライズ』『夜の巷を徘徊しない』のようなタレントと店員や一般客の接触シーンがあるロケ番組は、何かと批判を受けやすい。それを避けるために、お取り寄せ企画やクッキング企画で場をつなぐにしても限界があるだけに、「改編のタイミングで終了させられやすい番組だった」と言えるのではないか。

木村隆志(コラムニスト、テレビ解説)
ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。