一世帯あたりの餃子購入額をめぐる「浜松市VS宇都宮市」の首位争いは毎年恒例となっている。総務省が2月5日に公表した最新調査では、浜松市(静岡県)が前年比260円増の年間3766円をマークし、同3693円のライバル、宇都宮市(栃木県)、同3670円の新星、宮崎市(宮崎県)を抑えて日本一に返り咲いた。
多くの国民が知る2強対決は、昨年上半期で首位に立った宮崎市が絡むことでますますおもしろくなりそうだ。
しかし、なぜ、餃子なのか。
総務省統計局によると、家計調査は、国民生活の実態を把握する目的で1946年7月から毎月実施してきた。全国168市町村の約9000世帯を対象とするサンプル調査だ。
餃子については、冷凍食品や外食での支出は別のカテゴリーに分類されるほか、具材や餃子の皮を購入して自宅で手作りした場合も「購入額」には含まれない。
つまり、スーパーの総菜コーナーで販売する調理済みの餃子や専門店の持ち帰り用などがおもな対象となり、サンプル世帯の支出合計額が“餃子愛”をはかるバロメーターになっているというわけ。
餃子が分類される調理食品には、ほかの総菜などもあり、すし弁当、おにぎり、調理パン、うなぎのかば焼き、天ぷら・フライなど多種多彩。しかし、何でもあるわけではなく、例えば「酢豚」は「その他」にまとめられる。
「比較的買われる品目を選んでいます。5年に一度見直す機会があり、各家庭で酢豚が餃子ぐらい買われるようになれば単独の品目として選ばれるはずです」
と総務省統計局の担当者。
コロッケ日本一のライバル関係は?
うなぎのかば焼きなどは多少値が張るため、餃子のような大衆食と思われる品目について調べた。
例えば《コロッケ》。全国の県庁所在地都市と政令市の計52市について過去3年の平均購入額をランキングした最新データ(2017〜19年)によると、1位は福井市(福井県)=2933円、2位は大津市(滋賀県)=2764円、3位は京都市(京都府)=2721円だった。前回(14〜16年)は京都市=3012円、福井市=2973円、大津市=2796円の順で上位3都市の顔ぶれが変わっていない。
果たして、餃子における浜松市と宇都宮市のようなライバル関係にあるのか。購入額トップを目指してしのぎを削っているのだろうか。
京都市の広報担当者は「少なくとも市としてコロッケ購入額日本一を目指して取り組んでいることはありません」としてこう話す。
「京都市はコーヒーやパンの購入額で日本一になったことがありますが、それも日本一を取りに行っているわけではありません。民間主催でパン祭りをやったぐらいです。コロッケに特化した観光PRや産業振興策は打ち出しておらず、従って福井市や大津市とライバル関係にはありません」
大津市はどうか。
広報担当者は「なるほど、コロッケバトルですか」と取材の趣旨を理解した上で、困惑ぎみに話す。
「コロッケで町おこしするような市内のイベントはないと思います。聞いたことがありませんから。京都市、福井市はいずれも隣県の都市で、なぜこのあたりでコロッケ購入額が多いのかはわかりません。大津市では1個20円で販売するスーパーもあり、私も個人的にはよくコロッケを買います。しかし、多くの市民は特に“コロッケ好き”という自覚はないと思いますよ」
福井市も、コロッケ購入額を増やす取り組みはしていないという。ならば、どうして購入額が上位なのか。
「明確な理由はわかりません。ただ、福井市は共働き世帯が多いため、そもそも人気の総菜であるコロッケの消費が伸びていることなどは考えられるかもしれませんね」(同市の広報担当者)
3市に共通しているのは、コロッケ購入額の増減を気にする様子がないこと。ある市の担当者は「もし全国的にみてコロッケが観光客誘致などに役立ちそうならば、餃子バトルのようによきライバル関係を築ければいいのかもしれませんが」とリップサービスするが、現状では意識していないことの裏返しでもある。
ハンバーグは那覇市、カレールーは鳥取市
前述の過去3年平均データで《やきとり》をみると、最新分、前回分とも青森市(青森県)がトップで、差額でも2位[最新では千葉市(千葉県)、前回は福井市(福井県)]を引き離している。《しゅうまい》も同じ構図で横浜市(神奈川県)が川崎市(同)を抑えて強い。
《ハンバーグ》は那覇市(沖縄県)が連続トップを守っているが、2位[最新では甲府市(山梨県)、前回は水戸市(茨城県)]に大差はつけておらず、餃子のケースのように年間500円差以内にとどまっている。
那覇市の広報担当者の話。
「市内でハンバーグの購入額が多いことが話題にのぼったことはないと思う。某フライドチキンの消費が多いと取り上げられたことはあるが、那覇市のウリとしてはハンバーグよりもステーキのほうが有名ですね」
家計調査における調理食品は、スーパーの総菜などが対象となる半面、外食は対象外のため、市内のいわゆる名物グルメとはリンクしにくいのかもしれない。餃子のように、持ち帰りできる専門店が林立する環境がないとバトルは盛り上がらないのか。
調理食品を離れて、《カレールー》の購入額に着目した。最新3年、前回3年とも鳥取市(鳥取県)がトップで、いずれも新潟市(新潟県)が100円以内の僅差で追っている。餃子バトルとは異なるが、ルーの購入は家庭でカレーをつくることにつながるから“カレー好き”が多いといえるかもしれない。
鳥取市の広報担当者は「カレールーの購入額が多いことは知っており、毎回、気にはしています」と話す一方、
「しかし、カレーで町おこしするようなイベントはない。新潟市をライバル視するようなこともありません」
新潟市の広報担当者も、
「観光・産業振興分野ともカレーを推すような施策はやっていません。個人的には、住んでいて“カレーの町”という印象はありませんね」
とバトルに発展しなさそうだった。
“ポスト・餃子バトル”はあるのか?
餃子バトルの当事者である浜松市に聞いた。同市は餃子だけでなく、《うなぎのかば焼き》でも王座を奪い返したばかり。さらに《アイスクリーム・シャーベット》でも上位に食い込んだことがある。
「餃子対決が話題になりますが、行政主体ではなく、民間団体がPRしたりイベントを開くなど頑張っているんです。市はそうしたイベントなどを共催や後援することはあっても、そこまで順位にこだわっているわけではありません。もちろん、1位を取れればうれしいんですが」
と観光・シティープロモーション課の担当者。“ポスト・餃子バトル”について聞くとこう返ってきた。
「名産のうなぎのかば焼きはずっと1位だったのが昨年落ち、また返り咲きました。ブランディングの一種として注視しています。アイスのほうは、数年前にメディアから“1位ですよ”と指摘されて知りましたが、浮き沈みがあるんです。餃子では、コロナ禍前は宇都宮市や宮崎市の店も招き、市内でイベントをすることもありました。順位よりも、地域の食文化として、ほかの都市と一緒に盛り上げていければいいなと思っています」
ライバルが強くなければ盛り上がらないのは必定。餃子に続くバトルの種はどこにあるのだろうか。
◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)
〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する