大失態を起こした日本テレビ

 日本テレビの情報番組『スッキリ!』が、まったく言い訳のできない、言い逃れのできない差別発言を放送した。

「放送直後の局への抗議の声は少しずつでしたが、“差別発言ではないか”という指摘がネットで広まるにつれ、抗議電話、抗議メールが増えました。何か問題があると1日当たり数百件単位にはなるのですが、12日は1日で1000件を超え、局内も慌てふためき、夕方のニュースで謝罪し火消しに走ったというわけです」

 と、青ざめた表情で明かすのは同局番組スタッフだ。

 差別発言が飛び出したのは、 動画配信サービス「Hulu」で配信されるアイヌ女性のドキュメンタリー『Future is MINE - アイヌ、私の声 -』をVTRで紹介する際のことだった。お笑い芸人の脳みそ夫(41)が、なぞかけで「この作品とかけまして動物を見つけたときと解く。その心は「あ、犬」と、そう言い放ったのだ。

虚偽報道事件で社長が引責辞任

 問題をいくつかに分けて考えてみる。

 発言者の芸人のなぞかけは、日本の歴史、アイヌの歴史をまったく知らないばかげたもので、無知をさらけ出したものである。

 日テレがメディアに回答した答えにも問題が横たわり、

「あれは逃げ口上です」

 と、全国紙放送担当記者が指摘する。

 日テレは各メディアに対するコメントとして「当該コーナーの担当者」という表現を使い、差別認識がなかったと言い訳をした。さらに放送前の確認も不十分でした、と問題の矮小化を図っている。

 前出・全国紙放送担当記者が解説を加える。

日テレが言うところの『担当者』が、一体どのレベルか分からない。チーフディレクターなのか、デスクなのか、プロデューサーなのか。

 さらにひどいことは、放送前に確認していなかったことを明かしたことです。日テレは約10年前に、報道番組の『真相報道バンキシャ』で“裏金虚偽証言”報道事件があり、社長が引責辞任をしました。その際、現場に厳命されたのは、事前チェックを必ず徹底すること、でした。

『バンキシャ』のスタッフルームには新たなブースを設け、プロデューサーら数人で必ずオンエア前のチェックをしています。それを『スッキリ!』はしていなかったことを明かしてしまった。

 これは大問題ですよ。プロデューサーの責任はもちろんですが、経営陣の引責も考えなければならない。避けられないでしょうね」

岸部シローさんを知らなかった

 しばらく前まで日本テレビの番組スタッフだったという男性は、

「番組作りの体制を見ると、こういうことが起こりうる事態だと思いますよ」

 とあきれつつ、こう続ける。

「『スッキリ!』の制作ルームは日テレの6階にありますが、そこに入ると一目瞭然で、スタッフは20代、30代がほとんどです。彼らを統括するプロデューサー、部長が40代。

 昨年の夏、タレントの岸部シローさんが亡くなったときも、若い人は岸部さんのことを誰も知りませんでしたからね。その程度の知識のスタッフがV(動画)をつないで公共の電波にのせるわけですが、そりゃ怖いですよね

 さらに声を強める。

「若い人だけで番組は作れる、という驕りがテレビ局にはあるんです。新聞や雑誌などでは、ベテランの記者もいて、若手もいて、とバランスが保たれている。テレビ局は若い人を使ったほうが人件費が安く済むと考える。報道より先にそろばん勘定。

 要するに“コスパジャーナリズム”なんですよ。ベテランのスタッフがいて、事前にチェックできれば、今回のアイヌの人に関する差別発言、差別ネタは防げたと思いますよ」

 お笑い芸人の発言に端を発したとはいえ、日テレは「担当者の無知」「事前チェックの手落ち」を言い訳にした。

 制作体制の構造的問題として今回の差別発言をとらえ、老若男女のスタッフによる取材体制&チェック体制を取らない限り、いつまた、同じ差別発言をしてしまっても不思議ではない。

〈取材・文/薮入うらら〉