斉藤由貴

 '80年代、アイドルとしてスターの階段を駆け上がった斉藤由貴(54)。そんな彼女も今年で35周年を迎えた。個性派女優として多くの作品に出演、私生活では3度の不倫騒動を起こしても不死鳥のように復活する、彼女の半生を振り返る──。

 斉藤由貴が、今年でデビュー35周年を迎えた。'17年には不倫相手が自分の下着をかぶった写真が流出、“パンツ不倫”をした女優というイメージが強いかもしれない。

 しかし彼女、'80年代を代表するアイドルのひとりなのだ。'84年に『ミスマガジン』でグランプリを獲得すると、翌年には『卒業』でアイドル歌手デビュー。その年に『スケバン刑事』でドラマ初主演、'86年には朝ドラ『はね駒』でヒロインを務めた。ドラマウォッチャーの吉田潮さんは斉藤について、

「下積みなしで芸能界の階段を一気に駆け上がりましたよね。当時、事務所からの寵愛がすごいな、って思っていました」

『スケバン刑事』のときから女優としての斉藤を見てきた吉田さん。彼女の出演したドラマで印象に残っているものを聞いてみると、

'93年の『同窓会』(日本テレビ系)ですね。このドラマ、当時としてはかなり冒険した作品で、ゲイを題材にしたドラマなんです。今に比べてカミングアウトが難しい時代に、ゲイをテーマとして扱い、西村和彦や山口達也といった男性出演陣の全裸シーンが、ほぼ毎回ありました

 その1話目の斉藤の登場シーンが衝撃的で忘れられないという。

毛じらみに感染して、“痒い”と股間をボリボリかくんですよ(笑)。それまでは清純派というか、そこそこキレイな役ばかりやってきた彼女がこんな役をやるなんて……。驚きましたね」

 デビューしてから約10年間は、ほぼ途切れることなくドラマや映画に出演し、演じる役の幅をひろげてきた斉藤。その中で'91年には尾崎豊、'93年には川崎麻世を相手に不倫騒動を起こす。

「私、実は初めて女性のアイドルで好きになったのが、斉藤由貴なんです。取り繕ったり、ぶりっ子したりというアイドルとはちょっと違う、今までにない“純粋さ”を嗅ぎ取ったはずだったんですけど、ふたを開けたら“魔性の女”だったんだと(笑)」(吉田さん、以下同)

 この騒動のあと、'94年に一般男性との結婚を発表。斉藤自身、この時期のことをインタビューで、

《あのときはいろいろやんちゃしていまして(苦笑)。たぶんマネージャーさんも「由貴ちゃんはそろそろ結婚してもいいんじゃないか」と思っていたんじゃないでしょうか》

 と振り返っている。デビュー10年、まだ20代での結婚を許した事務所の接し方も、斉藤という女優を育てるのに合っていたのでは、と吉田さんは話す。

「斉藤由貴」という独自の立ち位置

「彼女の所属事務所・東宝芸能は、沢口靖子や長澤まさみ、最近だと上白石萌音という、人気女優を途切れることなく輩出しています。その中でもスキャンダルが多く、いちばんの問題児が斉藤由貴だけど、女優として育てていくのがうまいんですよね

 ほかの所属女優とは違う、女優としての“立ち位置”を用意してきたのではないか、とこう続ける。

初めのうちは主演作もありますけど、結婚してからはバイプレーヤーとしての魅力が出ていると思いませんか? ちょっと色気があったり、ワケありだったり。悪女まではいかないけれど、めんどくさそうなやっかいな女という役では、すごくしっくりくるんですよね。これは彼女独特の立ち位置だと思います」

 ただの美人女優ではない、いろいろな役を演じることにより今に至っていると吉田さんは分析する。

「三谷幸喜監督の映画『記憶にございません!』では、ちょっと癖のある料理人、宮藤官九郎のドラマ『吾輩は主婦である』(TBS系)では、妄想癖のある主婦──。派手に目立ったりはしないけれど、彼女ならではの役を演じていますね」

 女優として独自の道を進む斉藤。プライベートでは不倫を繰り返すなど、自由奔放な生き方をしてきた。この生き方は女性の目にはどう映るのか?

「インタビューの受け答えや、雰囲気を見ていると“不思議ちゃん”。これは私の主観ですが、男性をたぶらかすというより、彼女は自分自身がいちばん好きなんじゃないかな、って。自分自身がこんなに好きな“斉藤由貴”を男性が求めるのは当たり前でしょ、と(笑)

 とはいえ、嫌いな人は本当に嫌いなんだろうと吉田さん。だが、最近の若い人は斉藤が“魔性の女”と呼ばれていることを知らないと思うと話し、

「尾崎豊を知らないという人も増えてますから。彼女自身も20世紀の“やんちゃ時代”は、なかったことにするくらいの潔さでいるんじゃないかな」

“黒い部分”が魅力に……

 '17年の不倫騒動では、決まっていた大河ドラマ『西郷どん』の出演を降板するという事態にもなった。前回、前々回とは時代が違うから、としながらも、これで少しは学んだのではないだろうか。

“2度あることは3度あった”2017年の不倫会見時の斉藤由貴

「降板は痛手ですよね。言葉が悪いかもしれないけれど、“たかが”不倫で仕事を奪われる時代になっちゃったから。彼女もちょっと考えたと思いますよ。

 でもスキャンダルが一切ない、吉永小百合とか沢口靖子とかに私は興味が湧かないんです。人間として真っ白な人より、少し黒い部分があったほうがおもしろいじゃない

 35周年ということで、歌手として自身の曲をリアレンジ。セルフカバーアルバムをリリース。

歌手を自称するのもおこがましいほど、私には歌の技量がない

 と、歌手としての自分を自嘲する斉藤。では、女優としての彼女にドラマウォッチャーとして望むことを吉田さんはこう語る。

ドラマには絶対に必要な人だと思っています。かわいらしさを残しながら、図々しさもある、主役という王道ではない部分を、ちゃんと担える人です。 

 竹内結子さんの遺作となった『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』(フジテレビ系)で、ふんわりとしながらも、突拍子もない過去の栄華を語る事務員を演じていましたが、これは斉藤由貴以外できない役でした。こういう役、もっと見たいですね」

 あと、どうしても演じてほしいキャラがあるという。

今後は色ボケしたおばあさんとか(笑)。3回の不祥事を乗り越えてきたんだから、ご本人が芸能界をやめると言わない限り女優を続けてくれると思います。作品を先頭に立ってリードしていく女優ではなく、気がつくとはびこっている、みたいな存在で楽しませてほしいですね」

PROFILE●吉田 潮(よしだ・うしお)●コラムニスト、イラストレーター、テレビ評論家として『週刊新潮』で『TVふうーん録』を連載中。『幸せな離婚』(生活文化出版)『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)など著書多数