夜景をバックに、大きなグラスを手に持ち、時折こちらを見つめ、はにかみながら、松本まりかが歌う。「はじめて〜の〜チュウ〜きみとチュウ〜♪」
いま、そんな『鏡月焼酎ハイ』のCMが物議を醸している。
再び注目
「間接キッス、してみ?」
彼女の持ち味でもある“あざとさ”を前面に押し出した演出に、ネットはザワザワ。「色っぽくてイイ」「めちゃくちゃ可愛い」とファンから喜びの声が上がる一方で、 「イライラする」「流れた瞬間、ミュート」「歌下手すぎ」と酷評も。意見は真っ二つ、好き派・嫌い派で論争が巻き起こっているという。
そして今回の件で再び注目を集めているのが、数年前に放送されていた、同じく『鏡月』のCM。石原さとみが「間接キッス、してみ?」と飲みかけのグラスを差し出す、あのCMだ。妄想を掻き立てるシチュエーション&セリフに悶絶する人がいる一方で、当時も一部の人からは“あざとい”“やりすぎ”などと、反感を買ってしまった。
“コレ系”のCMは、いったい何が引っかかるのか。あざとさ? それともーー。
「松本さんのCMにしろ、石原さんのCMにしろ、誰に向けた視点かといえば、男性に向かって言っている設定。男の目線を意識している設定が“あざとい”ってことであり、決して彼女たちが“あざとい”わけではないですよね」
そう話すのは、週刊女性PRIMEの人気連載『オンナアラート』でもおなじみの、コラムニスト・吉田潮さん。
「私は松本さんのCM、普通にかわいいなって思いますよ。ただ、ほろ酔いの女の人が舌足らずな感じで歌っていたり、縁側でホッコリ酒を勧める姿が、“男性が求めているもの”って感じで、その狙いが透けて見えたとき、“なんかイヤ”と思う人もいるんじゃないかな。
私は檀れいさんの『金麦』のCMがあんまり好きじゃなかった。あれなんかモロに“飯作って待ってる、いい奥さん”的なものが前面に押し出されてたから」(以下同、吉田さん)
そんな中、これらCMに批判的な意見を上げているのは女性で、“女性の嫉妬”がそうさせている……なんて声も聞こえてくるが、これについては、
「女の敵は女じゃないっていうのは、女性はみんなわかってますよ。なのに、松本さんと石原さんがあざとくて、それに対して女がみんな嫉妬してるんだろうって、そういう構図を楽しむ人たちが、ムカつくって話ですよね」
とバッサリ。そもそも、“あざとい”の意味も、女性たちの間では変わってきているのでは、と吉田さん。
「ちょっと前まではあざといって毛嫌いされたものだけど、最近は『あざとくて何が悪いの?』って番組があるくらいだし、あざとい=かわいい、みたいな。小林麻耶とか田中みな実とか、彼女らはあざとさを武器にのし上がってきたわけだし、もはやあざとさは“芸”の一つ。あざといから嫌われる、という風潮でもなくなってきた気がします」
今回の松本まりかのCMに関しては、吉田さんのように肯定派が多いのも事実。CMが炎上していると話題に上がったときには「彼女は台本通りにやってるだけ」「まりか様は悪くない」と言った擁護派も現れた。
ただの「炎上案件」で終わらせないところに、松本まりかの凄みを感じさせる。
「女優として実力もキャリアもある。彼女が売れたのは30代半ばだし、やっぱりいろんな艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越えてきたわけですよ。そんなCMの一つが炎上したところで、彼女は負けないというか(笑)。
それに松本さんは女性票が高い。同じ“あざとい”でも、田中みな実のことが嫌いな人はいても、松本まりかを嫌いな人ってあんまりいないんじゃないかな」
確かに、男性からの支持はもちろん、女性から嫌われそうだけど嫌われないという、不思議な魅力がある。
で、何のCMでしたっけ?
加えて、YouTubeのサントリー公式チャンネルにアップされたCM動画の再生回数を見ても、彼女への(またはCMへの)関心度の高さがうかがえる。15秒バージョンは40万回を突破!
「賛否両論あって、ネットでも話題になり、YouTubeの再生回数も伸びているということは、CMとしても成功といえば成功なのかな。だけど、あれ? これって何の商品のCMだっけ? ってなるのが正直なところ(笑)。
例えば天海祐希さんが出演していた缶チューハイ(-196℃ ストロングゼロ)のCM。あの天海さんのキャラは男の人が求めるものではないけれど、お酒の刺激感とか、爽快感、その商品がどんなものか伝わってくるし、飲んでみたいなってなる。でも『鏡月』のCMは、商品よりも女優に目がいっちゃって、あれを見たからって『鏡月』を飲もう、とまでならない。そういう意味では、CMとしてこれでいいのかな? と思いますが。
ただ酒飲みから言わせれば、『鏡月』はバーやスナックでボトルキープされてる酒って感じだから、話題の女優を使って、これまでのイメージを払拭するためにはいいのかも」
CMは世相を表すもの。今後、女性が出演するお酒のCMも、形を変えていくのでは?
「10年前と今では、性的な役割が変わってきた。洗濯洗剤のCMも、生田斗真、二宮和也、菅田将暉……と、今や男性の起用が多いじゃないですか。洗濯をするのは女性だけじゃないってメッセージもあるのかなと。
お酒のCMも変わってきてるとは思うんですけど、なぜか“割りもの系”は、女性をほろ酔いにさせて、色っぽくするモード。“ウイスキーがお好きでしょう”のCMでの井川遥とか小雪とかもそうだった。ローラの『ジムビーム』のCMみたいに、ただただかっこいいやつとか、女が飲んでウメェみたいなCMがもう少し増えてもいいと思うんですけどね(笑)」
何はともあれ、これだけ話題になることを見越していた企業側の計算勝ちといったところか。10年後、このCMを見たときに、私たちがどう思うか。そこに描かれていた「女性像」にゾッとするか、可愛いと思えるかーー。そこに答えがあるのかもしれない。