第54回 キンタロー。
女性芸能人にとって、育児はビジネスチャンスでもあります。多くのお母さんたちに共感してもらう育児ネタを提供することができれば、仕事の幅が広がるからです。
しかし、育児というのは明確な正解が少なく、人によって考え方が違うデリケートな分野でもあります。なので、一歩間違うと「この人、ヤバいんだ」というマイナスのレッテルを貼られてしまうこともあります。
軽い気持ちでネットにアップしたことが、大騒ぎになる。今、ネットの怖さ、育児の難しさをいちばん感じているのは、お笑いタレント・キンタロー。かもしれません。
ブログの内容が「モンスターペアレント」だと炎上
キンタロー。の1歳の娘さんが一時預かりを頼んでいた預け先で転び、ケガをして帰ってきたそうです。預け先からは謝罪があり、病院にも連れていってもらうなどの対応をしてもらったそうですが、パニックになってしまったキンタロー。はオフィシャルブログにケガをしたお子さんの写真とともに、その経緯をアップ。翌日のブログにも《正直なんで外なのに手を離したのって 頭の中モヤモヤもしてしまいました》《どんな状況だったのか話を聞いても 何で?何で?って頭の中でやってしまいまして》と、自分の気持ちをつづっていました(現在は削除)。
おそらく、他意はなかったと思いますが、保育士さんを責めているようにも感じられる文章なだけに、炎上。「キンタロー。はモンスターペアレント」とか「ヤバい」と言われ、謝罪するはめになったのでした。
初めての育児で、ご両親などに頼ることができず、すでに謝罪もしているキンタロー。を誰も責められないと思いますが、「心配しすぎて暴走する」キンタロー。のヤバさは、実は今に始まったことではないように思います。
キンタロー。はブログで自身を「不安になりやすい性格」と繰り返し書いていますが、お子さんができる前に彼女が不安に思っていたのは、夫が浮気をしないかどうかでした。
元カレの裏切りから夫を信用できず…
2017年放送の『ちょっとザワつくイメージ調査 もしかしてズレてる?』(フジテレビ系)に出演した際、キンタロー。は、元カレに裏切られ続けたことから、「オトコは信用できない」と思っていると話していました。まず、電話をかけて夫の居場所を確認。電話に出ないときはGPSサービスを使って居場所をチェックするそうです。もし夫が「〇〇にいる」と申告してきた場所とGPSの示す場所が違っていた場合は、再度、確認すると話していました。夫が1人で家にいるときは、女性を連れ込んでいないかペットカメラで確認するなど、「夫が浮気をしている前提」での証拠探しに余念がありません。
芸能人ですから、キャラでやっているのかと思ったのですが、オフィシャルブログに《好きで(浮気の証拠を)探している訳ではない》《(浮気の証拠を)探すのは疲れる》と書いていますから、「やめたいけど、やめられない」状態だったのでしょう。もし本当に束縛をやめたいのなら、まずは自分の不安が「正しい」のかチェックすることから始めるといいのではないでしょうか。
「ウソの不安」が生まれやすいのはなぜか
私たちは誰でも、自分のことはわからないのに、他人のことは客観的に判断できるという特性を持っています。ですから、このケースを男女逆転して考えてみましょう。
あなたが彼氏に「元カノに浮気されたことがあるから、キミの居場所をGPSで監視させて」と言われたらどうですか? どうぞどうぞという言う人はごくわずかで、多くの人が「それは、元カノの話であって、私には関係ない」と思うでしょう。自分がされた場合に「意味不明、おかしい」とわかる行為を、なぜ相手に押しつけてしまうのか。それは「元カレに浮気されたから、夫も浮気するに違いない」という考えが単なる思いこみ、もしくは「ウソの不安」に過ぎないからです。失恋や対人関係での傷など、強いストレスを経験すると「ウソの不安」が生まれやすいと考えられています。
「『ウソの不安』であろうと、愛しているなら、私の不安につきあうべきだ」と言う人もいるでしょう。
それでは、彼氏や夫にこんなふうに言われたら、どう思いますか?
「元カノとつきあっているときに、借金を作ってしまった。僕のことを愛しているなら、キミが返してくれないか?」
おそらく、ほとんどの人が「何言ってんの? それは自分でどうにかしてくれ」と思うことでしょう。
無自覚に抱えてしまう「ココロの借金」
自分で作った借金は自分で返すのが原則なのと同様に、元カレや親、友達など、今のパートナーに出会う前にできた心の傷は、自分でどうにか折り合いをつけるしかありません。パートナーと安定した関係を築くことで、いつのまにかその傷が癒えるという可能性はあります。しかし、最初から、「私の心の傷は、あなたが癒して当然」というスタンスを取ることは、「私があなたに出会う前に作った借金、あなたが返してよね」と言うくらい、相手にとっては理不尽かつ意味不明なことなのです。
誰でも心に傷はあるものですし、その傷が他人への理解や優しさに変化することもありますから、傷は一概に悪いものとは言いきれません。しかし、自分が傷ついていることに無自覚だと、自覚なくパートナーに過大な要求をしてしまう。これを私は「ココロの借金」と呼んでいます。
パートナーにしてみると、「ココロの借金」は自分に返済義務はありませんから、「ココロの借金」を押しつければ押しつけるほど、二人の関係はうまくいかなくなるでしょう。しかし、本人は「ココロの借金」を押しつけている自覚がないので「またわかってもらえなかった」「また浮気された」と不安が強くなる悪循環に陥ってしまうのです。
もう1つ、不安が強い人の特徴として、「他人を責める」ことが挙げられます。「ウソの不安」に翻弄されている人ほど、不安をおそれます。なので、不安にならないために「この人が悪い」という明確な“犯人”を作りあげ、その人を責めたり排除することで、“安心”を得たいのだと思いますが、自分の信用が低下してしまうというデメリットも生じます。
キンタロー。がなぜ不安になるのかは、過去の出来事をさかのぼる必要がありそうですが、女性が不安になりやすいのは、身体の構造上の問題でもあります。「幸せホルモン」とも言われるセロトニンは、精神を安定させる働きがありますが、このセロトニンの働きを整え、不安や焦燥感を抑えるのはエストロゲンという女性ホルモンです。しかし、女性ホルモンは刻々と変化するので、当然、エストロゲン量も変化します。自分の女性ホルモンの周期をチェックして「今は不安になりやすい時期なんだ」と割り切ることも必要かもしれません。
不安が強い人は医師や専門家に相談するのをおすすめしますが、実は誰にでもできて、医学的効果もあるとされている不安対策もあります。上述したとおり、「幸せホルモン」とも言われるセロトニンが少ないと、不安になってしまうのですが、セロトニンの分泌を促すためには、リズム運動がいいとされています。キンタロー。と言えば、社交ダンスの名手ですから、不安になったら、マンボやジルバなどを踊りまくればいいのです。
先のことを考えたら、誰だって不安要素はたくさんあるでしょう。キンタロー。も不安を探すより、今確実にここにある幸せを意識してほしいと思います。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」