「朝ドラは事前にリハーサルを入念にさせていただけます。舞台出身の私にとってはほかのドラマに比べて、とてもやりやすい感じです」
こう話すのは、現在放送中の『おちょやん』に薮内清子役で出演した、元タカラジェンヌの映美くらら。杉咲花が演じるヒロイン・千代が役者を目指して飛び込んだ『山村千鳥一座』の一員だ。
「演出の梛川(なぎかわ)義郎さんからは、一座の有能な秘書という感じで演じてほしいと言われました。大切にしたのは、山村千鳥さんを尊敬していて、いちばんのファンが清子ということ」
「宝塚歌劇団」のセリフへの思い
『おちょやん』には、これまで5人の元ジェンヌが出演。だが、映美は現場では誰とも会えなかったという。
「私と在団期間がかぶっていた明日海りおさんとは、私がリハのときに衣装合わせで来ていたんですけど、残念ながら時間が合わなくて会えませんでした」
その明日海だが、'19年末に退団してから、今回が2本目となるドラマ出演。朝ドラは初めてだった。彼女のシーンで話題になったのが、ずっとカメラ目線で“目力”を込めてセリフをしゃべる姿。
「宝塚の舞台だと、ファンサービスでお客さまひとりを視線で狙い撃ちするときがあります(笑)。得意技というわけではないですが、そういうことを生かしたのかな、と思います。
梛川さんが、画面でインパクトを与えることがうまい方なので、ジェンヌのそういった“技”を使ったのかなと。役柄にもマッチしていて、あのシーンは面白かったですね」
インパクトという点では、映美もあるセリフひとつで視聴者をザワつかせた。
《宝塚歌劇団が上演して、大盛況やったそうです》
「台本を見て、私がこれを言うんだ、って。セリフが入った経緯は知りませんが、あのセリフは言いがいがあるというか、“ジェンヌ冥利”に尽きますね。私が宝塚出身と知っている人たちには、すごくうれしいだろうな、と思ったり。何も知らない第三者の顔をして、しれっと言いましたが、わかる人は“あっ”と思いますよね」
朝ドラヒロインとジェンヌの共通点
これまで多くのジェンヌたちが、朝ドラで存在感を出してきた。そんなジェンヌと朝ドラの“関係”について聞いてみると──。
「朝ドラのヒロインは、何か目標があってそこへ向かっていきますよね。タカラジェンヌも、自ら宝塚歌劇団の舞台を志して入団し、切磋琢磨していくので通じていると思います。
劇団を離れて思うことは、宝塚ってすごく美しい世界だということ。青春がいっぱい詰まっていて、そこを脇目も振らずに駆け抜けていく。朝ドラヒロインの世界と共感する部分はすごくあります」
映美自身、『おちょやん』を見て、ヒロインの生き方に力をもらっているという。
「私と同じように、朝ドラからそういう“元気”をもらっている人がたくさんいると思います。だから、みなさんをそうやって応援できる作品の一部になりたい。また出させていただける機会があるのなら、みなさんの元気の源になりたいですね」
『清く正しく美しく』という歌劇団のモットーと、朝ドラの“爽やか”“ピュア”というイメージの世界観とは相性がいいということ。
舞台で“スター”として輝きを放ったジェンヌたちは、朝ドラでも新たな輝きを見せる──。
えみ・くらら '79年6月15日生まれ。'99年に宝塚歌劇団に入団。'01年に月組娘役トップ就任。'04年に退団後、ドラマ、舞台、映画と活躍の場を広げている。朝ドラは『純と愛』に続いて『おちょやん』が2作目の出演
《取材・文/蒔田稔》