「昔は明るくハキハキした娘さんでね。母親と一緒にチワワを連れて散歩したりして、とても仲睦まじかった。どうしてこんなことに……」
近所の住民は、続ける言葉が見つからない。
実母を殴った上で、灯油をかけて焼死させる
3月5日、事件は長野県安曇野市の雄大な自然に囲まれた新興住宅街で起きた。午後2時20分ごろ、帰宅した張新月(しんげつ)さん(58)はすぐさま異変に気づいた。自宅の一部が燃えていたからだ。さらにそこには妻の明亜(めいあ)さんが倒れていた──。
「新月さんはすぐに119番通報。火事はボヤ程度で消えたものの、明亜さんは心肺停止状態ですでに死亡。死因は焼死で、現場には複数の血痕があったようです」(地元メディア記者)
長野県警と安曇野署は殺人の疑いがあるとして、捜査を続行。それから3週間以上を経た3月29日、現住建造物等放火と殺人の疑いで逮捕されたのは、明亜さんの長女で住所不定、無職の張康恵(26)容疑者だった。
「容疑者は実母をボコボコに殴ったうえで、そばにあった石油ストーブの灯油をかけ、火をつけて焼死させてしまったのです。犯行後は約60km離れた長野市内のアパートに身を寄せていましたが、そこで身柄を確保されています」(同・地元メディア記者)
康恵容疑者とはいったいどんな女性だったのだろうか──。
父親の新月さんと母親の明亜さんは、母国の中国で結婚し、長女の康恵容疑者が誕生。数年後に、家族3人で日本へ移住した。次女が生まれたころは、現在の自宅から2kmほど離れた場所にあるアパートに住んでいた。家賃は月6万円、間取りは3DKだった。
そして、約17年前に今回、事件が起きた新居を購入。ベランダも庭も広く、建物そのものも近隣より大きい。家族念願の一戸建てのマイホームだった。
近所に住む主婦は、
「お父さんは大手メーカーのエンジニアでね。几帳面な方で、庭の植物への水やりはまめにするし、愛車の手入れも丁寧にしていました。
町内会にも積極的に参加していて、公共スペースの草むしりにもちゃんと出てくれるし、夏祭りでは役員をやってくれました。休日には友人を集めて庭でBBQパーティーを開いたりと、本当に社交的」
亡くなった明亜さんも、穏やかな優しい人だったという。
「切れ長の目をした美人さん。専業主婦で、家庭菜園に勤しむ姿をよく見かけましたよ。家族仲もいいし“いい奥さん”のイメージしかないですね」(同・主婦)
小学校時代はクラスの人気者
そんな微笑ましい一家に育った康恵容疑者はなぜ凶行に走ったのか──。小学校の同級生が次のように証言する。
「ヤッちゃんは小学生のころからスラリと背が高くて、きれいでした。友達が自然と集まってくる、みんなの輪の中心的な存在でした」
別の近所の人は、
「いつもローラースケートをして、この辺を遊び回っていましたよ」
活発に動き回る“やんちゃな子ども”のイメージが強かった康恵容疑者。
中学校に入ると、勉強がズバ抜けてできるようになったという。康恵容疑者の妹も賢く、国立大学を卒業。現在は関西方面の大学の研究員として勤務している。まさしく、エリート一家なのだ。容疑者の同級生は、
「すべての教科がトップクラスの成績でした。美人で勉強もできるから、目立つ存在。でも、性格は控えめだった印象です。目立つことを嫌がっていた感じがして……」
前出の近所の住民からはこんな話が──。
「康恵ちゃんは中学生になって、だんだんと人の輪に入っていけなくなって、学校を休みがちになっていったみたいですよ。それでも頭はいいから、県内屈指の名門高校に入ったんだけど、そこでも不登校になってしまったようで……」
康恵容疑者は結局、高校を中退したようだ。
金欠になるたびに、実家を訪れていた
大きな挫折を味わった彼女はその後、糸が切れた凧のように何もせず近所をプラプラしていたという。
「1度も定職に就いたことはないかもしれないね。話してみるとわかるんだけど、すごく子どもっぽい。頭はいいんだけど、なんだか幼さを感じました。ずっと甘ったれだったんじゃないかな、特にお母さんには」(同・住民)
数年前、実家を出た康恵容疑者。アルバイトをしながら、友人の家を転々とする生活をしていたという。
「昨年、道でばったり会った彼女は、メイクも服装も派手になったなと感じました」(別の近所の住民)
金欠になるたびに、実家を訪れていたという。
「母親と彼女が外まで聞こえるほどの大声で話していることがありました。中国語だから内容はわからなかったけど、ケンカしていたのかもね」(同・別の近所の住民)
エリート一家の中で、ひとり落ちこぼれてしまった康恵容疑者。ふがいない自分への怒りをすべて母親にぶつけてしまったのだろうか──。
妻を失ってしまった父親の気持ちは、計り知れない。だが、いま最も喪失感を抱いているのは、甘えられる相手を殺めてしまった、ほかならぬ康恵容疑者本人だろう。