長嶋茂雄

 女優・冨士眞奈美が古今東西の気になる存在について語る当企画。今回は、愛してやまないプロ野球について。数々の名選手と対談するなど、実は元祖“野球女子”でもある冨士さんが語る野球との思い出とは──。

第4回 プロ野球の名選手

 球春、到来。昨年はコロナの影響で開幕が後ろ倒しになりましたが、今年は例年どおりオープン戦も行われ、野球ファンとしては心が躍ります。海の向こうでは、大谷翔平選手が143メートルの特大のホームランを打つなど、私もテレビの前で手に汗握って応援しています。今年の大谷選手は、ものすごく活躍するんじゃないかしら……なんて、贔屓(ひいき)の球団や選手に対してワクワクとドキドキが交錯する、この感覚こそ開幕直前の醍醐味(だいごみ)。

 野球との出会いは子どものころ。当時、野球中継はラジオから聞こえてくるのが当たり前。おまけに流れてくるのは、巨人戦と相場が決まっている。大多数の子どもが巨人ファンになるのは必然的で、気がつくと私も大の巨人ファンになっていた。

 私が子どものころの巨人軍には、川上哲治、青田昇、千葉茂、錚々(そうそう)たるメンバーが名を連ねていた。セ・パに分かれる前の「東西対抗」と呼ばれる時代のベースボール。私は、川上さんが大好きだった。

 当時、『野球少年』(芳文社)という雑誌があって、「今年も頑張ってください、応援しています」なんて雑誌あてに川上さんへお年賀状を送っていたほど。返事が届くかなと思って、毎日ポストを確認していたのは懐かしい思い出

 返事は来なかったけど、「今年は川上選手への2万通の年賀状が届きました」と誌面で報告されているのを見て、子ども心に驚いたなぁ。返事が来ないのも納得。

 川上さんが監督になった後は、長嶋茂雄、王貞治のONに夢中になった。長嶋さんとは対談させていただいたり、お話しをする機会に恵まれることが少なくなかった。一茂さんが生まれる前から知っているんだもの

長嶋茂雄さんの素顔

 世間一般では、長嶋さんといえば“突出している人”という印象が強いかもしれないけど、とっても思いやりの気持ちが強い、素敵な方。例えば相づちを打つとき、「そうなんですよね、冨士さん」と、必ずと言っていいほどセンテンスの最後に相手の名前をつける。自分の意見を述べるときも、「僕はこう思うんですよ、冨士さん」と相手をおもんぱかる。この会話術は、素敵。

 私にとって長嶋さんは神様のような存在。私は、誠実な長嶋主義者。長嶋さんの野球は「善意の野球」だと思っている。言葉遣いや立ち居振る舞い、そのすべてが善意で包まれているような印象を受けた。

冨士眞奈美

 長嶋さんはもちろんだけど、プロ野球選手って、カッコいいのよね。田淵幸一さん、山本浩二さん、故・星野仙一さん。実物も素敵だけど、テレビにもかぶりつく。

 私が一時期、中日に“浮気”していたときは、落合博満さんとも。奥さんの信子さんとはとても仲がよくて、よくお会いしたわね。

「福嗣のおむつ入れに買ったけど、使わなくなったから」って、特注のパイソン革の大きなバッグをもらったほど。詳細は、また今度。福嗣君も、あんなに立派になってね

 話は戻って、長嶋さんが監督をなさっていた時代は、よく球場へ足を運んで、一喜一憂した。第2次巨人監督時代の2001年のペナントレースの終盤、東京ドームのラストゲームだった10対11で負けたスワローズ戦も現地で見ていた。スリリングで、魅せる野球。

 でも、その敗戦が響き、優勝を逃した長嶋さんは勇退した。長嶋さんのユニフォーム姿はもう見られないかもしれない。だけど、わが家のトイレにはその年のカレンダー─、松井、清原、マルちゃん(マルティネス)、由伸、清水らが長嶋さんを囲んで一枚に収まっている姿が、飾られたまま。野球にも、出会いと別れがある。だからこそ、応援のしがいがある。


ふじ・まなみ 静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、作家としても知られ、句集をはじめ著書多数。

《構成/我妻アヅ子》