《大きい声で言えよ、みんなに伝えて》
《秒数が進んでいくよ。10、9、8、7、はい、名前。6、5、4、3》
《言わないでしょ!? 言うの、言わないの、どっち!?》
立ちすくむ幼い女の子に向けられた、周囲の大人からの高圧的とも取れるきびしい言葉。女の子は萎縮して泣き続けることしかできなかった。
現在、インターネット上で拡散されているこの動画。鹿児島県志布志市にある学童保育施設『太陽の子児童クラブ』に、今年小学1年生になる女子児童が初めて同施設を利用した4月1日に起きた出来事だ。
4月2日に児童の父親と思われる男性が、この動画と共に、《この日は初めての学童でした。この学童は高校生まで通っています。そこで自己紹介があり、初めての場で緊張して自己紹介できなかったみたいで泣きながら1時間立たされてこんな感じだったみたいです》などと、ネットに公開したことが発端となり、瞬く間に炎上となったのだ。
初めての環境でまだ幼い児童が緊張して自己紹介ができなくなる、のはよくあること。問題は、本来なら児童をサポートするべき支援員スタッフが、さらにプレッシャーを与えて追い詰めるような言葉を向けたこと。
この男性のツイッターによると、すでに学童側の責任者から説明と謝罪を受けたようだが、《学童ほかのところに行かせます》と怒りは収まらない様子だった。
週刊女性が同施設に事情を聞こうとするも、電話は一向につながらず。運営の委託をしている志布志市福祉課児童福祉係に問い合わせると、
「私どもも動画を見た限りでは、言葉使い、言動が厳しいと認識しましたので、園とも話をしましたところ“事実です”と認めて“申し訳ないです”と反省しているという話があったところです。(約2分の動画に映っている以外の)前後の詳細な状況だったり、子どもが泣き出した経緯や問題点、解決策について、(園側に)書面で分析してまとめて出していただき、市としても対策を進めることと認識しています」
この児童クラブでは児童に対して、日頃から動画にあるような言動があったのか。
「市のほうには匿名だったりと様々な形で情報が寄せられるのですが、市内16の(認定)施設がありますが、すべてにおいてこのような形のクレームはお伺いしたことはありませんでした。ただ、今回のことがあった以上、施設側と協議していく必要があると考えています」(同児童福祉係)
問題の施設も含めて、これまでは市にクレームが寄せられたり、今回のように保護者が訴えを起こすようなことはなかったとのこと。しかし、動画を見直してみると、やはり言動は行き過ぎにも思えるし、支援員スタッフの声に怯えるように耳を塞いでいる他の児童の姿も見受けられる。
「ヨコミネ式」児童クラブだった
この太陽の子児童クラブは、とある社会福祉法人が運営する施設の一つなのだが、その理事長を務めるのが『ヨコミネ式教育法』を提唱する横峯吉文氏。元参議院議員の横峯良郎氏の実兄で、プロゴルファーの横峯さくら選手の伯父にあたる人物だ。
「ヨコミネ式教育法とは“すべての子どもが天才である”を理念に、心の力、学ぶ力、体の力を身につけて子どもたちの“自立”を促す教育法とされています。テレビで“スーパー園児”と称された、逆立ちやバク転、バク宙を披露する園児を見たことはありませんか? ニュース番組や情報番組でも特集される教育法で、横峯氏自身も出演して持論を展開しています。
一部の番組では、児童たちが泣きながらも歯を食いしばってカリキュラムに懸命に取り組む姿も放送されるなど、甘えさせないきびしい教育法としても知られていますね」(テレビ局情報番組ディレクター)
ヨコミネ式の公式HP上では《よくある質問》として、《叱らない教育についてどう思いますか?》の答えとして、
《子供を叱らずに教育ができるとは思えません。子供はいたずらもしますし、悪いことすることがあります。ワガママを言って、親の言うことわ聞かない場合もあるでしょう。そのようなときに、ビシッと叱ることができなければ、子育てはできないのでは ないでしょうか》(原文ママ)
また《いじめにはどう対応したらいいでしょうか?》に対しては、
《小さい時からの人間関係の問題解決の経験が足りないことに、原因の一つがあるのではないかと考えています。(略)小さい頃から、人間関係で苦労をする機会を与えておくことも、親の愛情の一つだとおもいます》
系列施設である太陽の子児童クラブで起きた騒動も、ヨコミネ式教育法によるものだったのだろうか。『ヨコミネ株式会社』に一連の騒動を問うと、「現在、対応はすべて弁護士の方にお願いしております」とのこと。
指導員に「行き過ぎがあった」
担当弁護士に話を聞くと、「(太陽の子児童クラブは)ヨコミネ式という教育法をやっているところでございます」と、たしかに教育は行われているようだ。
では、女の子に向けた“指導”もヨコミネ式の一環だったのかーー。
「いえ、それは違っております。ヨコミネ式教育法で、この(動画にある)ような言い方をしなさいとか、このように対応しなさいと言っているわけではなく、今回の件については子どもさんに自己紹介をなんとかできるようにしようという風に指導員が考えたときに行き過ぎがあったと。そういう状況でございます」(担当弁護士、以下同)
動画が出回ったことで、同社にも「あれはおかしい」「子どもに対してよくない」といった批判の声が数百件も寄せられているようだ。
「この件につきましては、学童の責任者も確認をしておりますし、やはり適切でない、不適切であると判断しておりまして、保護者の方にはご一報いただきました最初の時に謝罪をいたしました。対応として、きちんと改めていきたいと考えております。
また今回、児童クラブの職員がそのような対応をしてしまったというのは、こちらとしましても指導が行き届かないところでもございましたので、その職員1人の問題というよりは児童クラブ全体として深く受け止めておりまして改善していきたいという風に考えております」
騒動が起きた4月1日から4日後、女子児童の父親は《明日は、入学式…行ってくれるか心配…》と我が子が受けた心の傷を心配している。楽しみにしていた小学校、彼女が無事に通っていることを願うばかりだ。