アジやイワシ、赤ワインやコーヒー、ココナツオイル、えごま油……認知症予防にいいといわれる食材は数あれど、実際、医師たちはどんな食事をしているの? 3人の賢者が口をそろえてあげたのは……!

※画像はイメージです

昭和の食卓が最適!?

日本の一般人が西洋食を日常的に取り入れ、いろいろな食材を食べるようになった1970年代中ごろの昭和の和食が、認知症のリスクを下げることがわかっています

 そう語るのは、老年医学の専門医、山口潔先生だ。今回の企画では認知症に詳しい3人の医師に“認知症予防として自分が食べているもの”を伺ったところ、なんと全員が口をそろえて“昭和の和食がベスト”と回答! イメージはごはんと味噌汁、焼き魚と野菜サラダ、そして漬物。そこにパンと目玉焼き、スープと果物など、完全な和食に洋食が加わった、“和洋折衷食”だ。

「ごはんと味噌汁、主菜に副菜が2つ。こういった一汁三菜スタイルの和食が、認知症予防には最適です。栄養バランスにすぐれ、さまざまな栄養素を複合的にとることができます」

 と、脳神経内科医の内野勝行先生。

 読者世代は子どものころ、「なんでも食べる子、元気な子」と呪文のように親や先生に言われてきたが、これが認知症予防の原点だったのだ!

 DHAなど認知症予防の成分は近年続々と登場したが、結局はまんべんなく食べることが重要。実際に3賢者の食卓を拝見しよう。

“脳のゴミ”を減らす「1975年型の和食」

アルツハイマー型認知症は、アミロイドβという脳のゴミがたまる病気です。40代からアミロイドβを脳にためない食事をとることが予防につながります

 と内野先生(以下同)。それはズバリ、

“1975年型の和食”です。和食文化に、西洋食がちょうどいいバランスでまざり合った食事です。現在、認知症によいといわれる成分が多く、それが作用し合って相乗効果を生んでいます

金町駅前脳神経内科院長・内野勝行先生撮影/矢島泰輔

 東北大学の研究グループの報告によると、この「1975年型和食」が血糖値や悪玉コレステロールを下げることがわかったという。

「高血糖状態はアミロイドβを増やすことがわかっています。糖をとりすぎて血液中に糖が急激に増えると、それを処理するために大量のインスリンが分泌されます。すると、それを分解する酵素が必要になります。その酵素はアミロイドβを分解する役目もあるため、糖の分解に使われてしまうとアミロイドβが蓄積してしまうのです」

「1975年型和食」は、野菜やキノコなど食物繊維が豊富で血糖値を急激に上げることが少ない。

 また、抗酸化力が高い食材も「1975年型和食」には多く含まれているという。

「抗酸化物質は認知症予防に重要です。活性酸素は細胞を錆びつかせる悪者で、アミロイドβを増やすことがわかっています。さらに、アミロイドβが増えると、活性酸素がさらに増えるという悪循環に陥ってしまうのです」

 鮭の切り身やエビなどに含まれるアスタキサンチンをはじめ、和食によく使われる食材には抗酸化物質が多い。

昔ながらの和食には、まぐろやイワシなど魚が多く、DHAやEPAが含まれています。こちらも認知症予防として知られている栄養素です

 しかし、「1975年型和食」を毎日作るのは、現代人には難しい。そこで、

「和食の食材をスープにして、冷凍しておけば楽ちんです。きちんと作れないときは、それを解凍し、卵や豆腐などを加えるだけでOKです」

 それも難しいときはサプリメントを利用して栄養を補ってもいい。

「私のメソッドは、型にはまらないこと。栄養が不足していたら、サプリメントで補ってもかまいません」

 ストイックになりすぎることが、逆に認知症リスクを高めるとか?

ストレスは認知症リスクを高めます。笑いながら楽しく食べることが、何よりも重要な認知症予防。お子さんやお孫さんと一緒にスープ作りを楽しんで、アミロイドβという敵をやっつけましょう!

「1975年型和食」の例。ごはん、味噌汁に主菜と副菜2つの一汁三菜が基本。朝はスープでOK。

サプリメントで栄養調整
『万能トロッカ』。内野先生が開発した和食の栄養素がとれる、その名も「トロッカ」。DHA、EPA、アスタキサンチンなど認知症予防に適した栄養素がぎゅっとつまったサプリメント。

金町駅前脳神経内科院長・内野勝行先生
脳神経内科医。帝京大学医学部医学科卒業後、都内病院の神経内科や千葉県の療養型病院副院長を経て現職。豊富な臨床経験から認知予防をわかりやすく解説。

孤独な食事はNG!

食品摂取の多様性が低下すると認知症になりやすい、という研究結果があります

 と山口先生(以下同)。 まさに、なんでも食べる子、認知症にならない子なのだ。

ふくろうクリニック等々力院長・山口潔先生

「日本の研究で、食品摂取の多様性が低いグループに比べ、最も高いグループは約44%、認知症機能低下リスクが少ないという結果が出ています」

 バラエティーに富み、栄養バランスのよい食事が認知症予防に適した食事だという。

65歳以上はやせている人のほうが早死になので、体形は気にせず何でも食べましょう

 中高年の肥満は生活習慣病につながるが、やせすぎはよくないのだ。また、

現在、フレイル(要介護のリスクが高い状態)は認知症の前兆であることがわかっています。フレイルを予防することが、すなわち認知症の予防につながると考えています

 フレイル予防の食事とはどんなもの?

「先ほどの多様性の高い食事、それから必要量のタンパク質を摂取して、フレイルの原因の1つであるサルコペニア(筋肉減弱症)にならないようにすることです。筋肉は60歳を過ぎたころから急速に減っていきます。また、筋肉をつくる力も少なくなり、70代に入るころには、20代の半分になっています」

 サルコペニアの予防は、タンパク質をしっかりとること。

「加齢とともに食が細くなってくるので、高タンパク質の食品を選ぶといいでしょう。朝昼夜、3食ともタンパク質食品を食べましょう。ヨーグルトや豆腐など、食べやすいものでかまいません。最近は、高タンパク食品や食品にタンパク質の量が表示されているものもありますよ」

 ほかの栄養素では、DHA、EPAなどオメガ3系の油、ビタミンC、E、B2、B6、B12、葉酸も認知症予防に適している。

 さらに、食に関わる環境も重要だという。

栄養バランスにすぐれた食事でも、孤独を感じながら食べると認知症につながります

 ここで大切なのは、孤独と孤独感の違い。

「ひとり暮らしの食事より、同居なのに家族と別にひとりで食べるほうが、孤独感が強いことがわかっています」

 孤独感を感じないためには、外食もいいという。

行きつけの店で、マスターと話しながら食べるのもいいかもしれません。快刺激が認知症予防になることがわかっています。楽しく食べることが重要なのです。

 アルツハイマー型認知症は20年以上かけて、ゆっくりと進行する病気。これだけ長く原因を積み上げた病気は、もしかしたら薬ではそう簡単に治せないのではないかと思ってしまいます。40歳を過ぎたら、予防が何よりも大切なのです

お酒ならワイン!
 お酒を飲むならワインがオススメ。赤ワインに含まれるレスベラトロールという抗酸化物質が話題となったが、ほかにも抗酸化物質が豊富

ふくろうクリニック等々力院長・山口潔先生
老年医学の専門医。浜松医科大学医学部卒業、東京大学医学部附属病院老年病科特任助教を経て現職。高齢者医療と認知症、MCIの予防に取り組む。

昔ながらの和食でタンパク質を!

年齢を重ねたら、身体にいい栄養素よりも脳にいい栄養素に目を向けてください

 と、栄養に関する著書もある佐藤先生。例えば、運動時にとることがすすめられているアミノ酸のBCAAを運動せずに多くとると、脳の神経伝達物質となるアミノ酸、トリプトファンなどが脳に入りにくくなる。

稲毛病院・佐藤務先生

「身体と脳の栄養は同じではありません。認知症予防には脳と身体の両方の栄養が必要で、高齢になると脳の栄養を意識したほうがいいでしょう」

 脳と身体の両方にいい食事のポイントは、タンパク源をバランスよくとること。

肉、魚、大豆、乳製品、卵、これが5大タンパク質といわれています。この中から毎食2種類以上とりましょう

 肉の種類は何がいい?

「鶏むね肉にはイミダゾールペプチドという、身体と脳の両方に働く抗酸化物質が豊富に含まれています。特に地鶏の“熟成阿波尾鶏”には、イミダゾールペプチドがブロイラーの2倍以上含まれているので、よく食べています。脳は有酸素運動をしているので、活性酸素がたくさん出ます。抗酸化物質は脳の健康に非常に重要な物質なのです」

 脂質ではDHA、EPAなどのオメガ3、それからアラキドン酸などオメガ6も必要だ。さらに、

「野菜、海藻、キノコ、発酵食品、薬味、酢の物を積極的にとります。つまり、昔ながらの和食ですね。ごはんと味噌汁、タンパク源は5種類中2種以上、野菜、海藻、キノコを使用したおかずをとります。薬味(ネギ、大根おろし、わさび、からし、しょうがなど)を利用し、デザートに果物をとります。

 キノコは、動脈硬化予防で知られるシイタケ、認知症予防のヤマブシダケがオススメ。発酵食品は、味噌、漬物、ヨーグルトがいいでしょう」

 佐藤先生は、野菜に強いこだわりが。

「野菜は、自宅の屋上で作り、半分以上、自給自足をしています。残留農薬と残留肥料の問題があるからです。特に残留肥料は胃内でニトロソアミンとなり発がん・糖尿病のリスクが上がります」

 自宅で野菜を作ったり、毎食、バラエティーに富んだ和食を食べるのは、現代人にとっては難しいのでは?

サプリメントを利用してもいいですよ。脳のためにはDHA、EPA、レシチン、イチョウ葉エキス、マルチビタミン・ミネラル、アラキドン酸、抗酸化物質(コエンザイムQ10、アントシアニン、カロチノイド類)が入っているものを選んで

 昔ながらの和食、足りないときはサプリメントを利用して人生100年を元気に乗り切ろう!

野菜は自宅で栽培
 自宅の屋上で野菜を収穫。すべてプランターで栽培。ピーマン、トマト、ナスなど数十種類の野菜を毎年収穫。昨年はミニトマトが1686個、大根は94本、タマネギ142個などプランター栽培とは思えない。写真は収穫野菜で漬けた漬物

稲毛病院・佐藤務先生
整形外科/健康支援科部長。宮崎医科大学卒業。昭和大学医学部統合医学科講師兼任。日本ビタミン学会代議員。ビタミン外来にて脳の栄養学を指導。

(取材・文/山崎ますみ)