マイナンバーカードをお持ちだろうか。
2015年10月にマイナンバー制度がスタートして5年半が経過。2021年4月1日時点での交付枚数が3596万枚を超え、交付率は28%に達したが、つまりは4人に1人しか持っていないのだ。
菅義偉政権が推し進める「行政のデジタル化」に、マイナンバー制度は欠かせない。そこで昨年9月、最大5000円分のポイントを還元する「マイナポイント制度」を導入したが、思うようには普及が進まず、今年3月末まだったポイント還元の期限を9月末まで延長、さらに対象となるカードの申請期限も4月末まで1か月延長するなど、必死に申請を呼びかけている。
そんな中、普及の起爆剤として期待され、3月中の本格運用を目指していたマイナンバーカードの保険証利用が、プレ運用期間中のトラブルによって今秋以降に延期されることとなった。
菅首相は、3月末の衆議院内閣委員会で、マイナンバー制度に関する国費支出が累計で約8800億円に上ると明らかにした。野党に「コストパフォーマンスが悪過ぎるのでは」と指摘され、「確かに悪過ぎる」と認めざるをえなかった。政府は「2022年度末には、ほぼ全国民が取得」を目標にしているが、国民のマイナンバーに対して慎重な態度を変えるのは簡単ではなさそうだ。
そこで、おせっかいながら「マイナンバーを普及させるために、どのようなメリットがあればよいか」を50代の男女1000人に聞いてみた(アンケートは2021年4月フリージー調べ。以下に紹介する回答は原則として原文ママ)。
菅首相の役に立てれば幸いである。
最初に断っておくと、いちばん多かった声は「わざわざ時間をかけて取る必要が、今はない」ということだ。持っていなくても不自由しないから、持たない──。至極当然だ。もし持つなら、持つだけのメリットが必要で、そのメリットとして、まずは「現金給付をしてほしい」という大合唱から紹介していこう。
現金給付をお願いします
「カード申請すると5000ポイントって! 楽天カードのパクリ? 初めてCM見たときは爆笑しました。5000ポイント欲しさに楽天カードも作らないし、マイナンバーカードも作りません」(58歳・女性)
「ポイントではなく現金で支給すればいいと思う。高齢の方にポイントといっても使いこなせないと思うから」(54歳・女性)
では、その希望金額はいくらか?
「10,000円にしたら増えると思う」(55歳・女性)
「50,000円なら」(59歳・男性)
「5,000ポイント(=5,000円)ではインパクト弱いので、10万円にすればいっきに増える」(50歳・男性)
「10万円のキャッシュバックがあればいい」(55歳・男性)
「20万円もらえれば、作ってもいい」(50歳・男性)
「100万円くれたら登録するけど」(56歳・男性)
実は「10万円」が多数派の声。それ以上の金額のコメントを見ていると、「普及のため」というより「それは自分がほしい金額?」と突っ込みを入れたくなる。
一時的な現金やポイントではなく、カードを恒久的な還元を期待する声が続く。
恒久的にポイントがつく
「ポイントの還元率をもっと多くする」(58歳・男性)
「一時的なポイント還元ではなく、買い物等の利用の度に常時何パーセントかの割引があること」(58歳・男性)
「継続的なポイント還元」(50歳・男性)
さらに、消費税を始めとする税金対策に使えるようにしたらどうかという提案も。消費税、所得税、住民税、固定資産税、さらに50代にとっては、贈与税や、相続税も気になるところ。こうした税金が少しでも安くなるなら、すぐにでも作りたいという人は増えるだろう。
税金が安くなる
「マイナンバーカードを持っている人に対する税金の軽減」(57歳・女性)
「マイナンバー減税。マイナンバーカードを持つと自動的に税金が控除される! これしかないでしょう」(51歳・女性)
「確定申告で、税金が控除されるとか、消費税が5%になるとか。そうなったらすぐに作ります」(55歳・男性)
財布の中はポイントカードでふくらみ、買い物するたびにカードを探している人もいるはず。肝心な時に「あれ、ポイントカード見つからない」ということもあるのではないだろうか。もしマイナンバーカードがポイントカードになれば、各社のカードを何枚も持ち歩く必要はなくなり、ポイントも一括管理できる。“ワンカード”化は大きなメリットだ。
他のカードとの連携
「PASMOやSuicaと連結すればいいのでは」(55歳・女性)
「キャシュカードとの連携や店のカードとの連携。財布が薄くなる」(52歳・男性)
「ポイントが欲しくて取得しましたが、役に立ったことも利用したことも1度もありません。地方にある戸籍謄本すらマイナンバーカードでとることができないのに愕然としました。コロナ禍の給付金の際にも稼働しなかった。頭の固い、インターネットに疎い、やる気のない役人より、優秀なIT企業に委託して改造してもらって、使える使いやすいマイナンバーカードにする必要がある」(56歳・女性)
以上のように、持つことで“トク”なことがあれば、みんなが持つようになるという意見が目立った。次に多かったのが「行政サービスをもっと受けやすくする」という声。
各種の手続きを優先させる
「各種行政サービスの優先処理を行う。更新手続きをオンラインでできるようにする。他のQRコード決済のように、利用ごとにポイント還元」(54歳・男性)
「確定申告の簡素化、ポイントプログラムの充実など」(56歳・男性)
「銀行や不動産などの相続手続きに必要ないろいろな書類が要らなくなる。年金のもらい忘れ防止のため、申請を促すお知らせを送ってもらえる。区役所や市役所、市民センターホール体育館など公共施設の駐車場が割引になるなどお願いします」(52歳・女性)
さて、ここからはマイナンバーカードの普及にネガティブな声を紹介していこう。2021年になってカード申請者の数は増加傾向にあるとはいえ、前述の通り普及率は30%に満たない。その理由を分析していくことで、どうしたら普及させられるかが見えてきそうだ。
手続きを簡便化する
まず、手続きに時間がかかり面倒だという意見。もっと手続きを簡便化できないのか、取得のシステムに不満があがった。
「マイナンバーの手続きが面倒すぎます。私はかなり前に発行しましたが、年配の方など難しいなと感じました。もっと簡素化してほしいです」(54歳・女性)
「マイナンバーをまだ作っていない方が回りにもたくさんいます。作るのが面倒とか、使い方がわからないとかです。簡単に作れて、さらに使い方をアピールしたり、使うとポイントが貯まるとか、どうですか?」(58歳・女性)
「手続きの簡略化。土日もやること」(50歳・女性)
「何歳以上は学校で作る、など子どもから作ればいいと思います。どんどん普及するでしょう。大人の場合は、会社などでも出張で写真を取ってくれて、その場で入力して、申請終わり。受け取りのために役所にいくのは、業務扱いで、有給や欠勤にはしない、とする。スマホの写真を自分で取って、申請だと、いい写真が撮れないので、やっぱりちゃんとしたカメラで撮ってもらいたい」(52歳・女性)
セキュリテイに問題あり
マイナンバーカードが普及しない決定的理由が、セキュリティに関する不安だ。
「カードを持つと個人情報が国に握られてしまう」という声や「もし自分の情報が漏洩したときに誰が責任をとってくれるのか。国は責任をとらないし、いまどうしても必要とも思わないので、作る必要はない」
となる。懸念する声が50通以上寄せられた。
「これだけ情報漏洩の事件が起きている中、ネットで管理をするのは不可能に近いと思う。いろいろな物をリンクさせる事の危険性は、皆が既に気づいている。便利さと安全性のどちらを大事にするかで結果が出てくる」(55歳・女性)
「セキュリティ対策を万全にしなければ、意味がない。委託先が海外だとか、ナンバーを打ち間違えていたとか、お役所仕事はワキが甘すぎる。国内できちんと管理し、絶対に海外からアクセスできないようにしないと、どこでどんな風に使われるか、わからない」(52歳・女性)
「とにかくセキュリティの甘さが心配。もらえるポイントとかのメリットがどうとかではなく、日本のITが世界並みにならなければ、安心して申請はできない」(53歳・女性)
「まずは、個人情報管理と運用に関するしっかりした体制を作ることから始めなければ無理」(57歳・男性)
「健康保険証の代わりに使える時期も延期になり、特典がどうだとか、サービスうんぬんよりもセキュリティの強化や運用体制の強化こそが必要だ」(59歳・男性)
政府を信頼できない
現状のセキュリティに不安アリと同じような意味だが、もうちょっと深刻なのが、マイナンバーカードを運営する政府を信用できないという声。
「これからいくら特典やサービスを付けたとしても、国への信頼がない限り普及しないと思います」(55歳・女性)
「マイナンバーカードより、政府の透明性、信頼性が上れば、自然と普及するでしょう」(53歳・女性)
「メリットというより国民から信頼される政府でないとダメ。内閣に忖度して公文書を書き換えるような役所では、とてもマイナンバーみたいな個人情報の塊を安心して申請しようとは思わないのではないか」(57歳・男性)
「メリットなどは不要である。推進、運用しようとしているのが現政権であることが問題なのだ。内閣総入れ替え、取り巻き官僚の総入れ替えが済まなければ、どんな政策であろうとどんな制度、システムであろうと、とても信用できないから申請には反対だ」(57歳・女性)
「信用していない政府に全てを任せるのは怖いので、まずは信用を得るところからでしょうね」(53歳・女性)
必要なし
セキュリティが心配。現政権に不信がある。その結果、出す答えは「いらないね」となっているのが現状のようだ。
「そもそもマイナンバーカードの必要性を感じない。落としてしまったらその後の処理が大変だと思う。個人情報などのセキュリティの確固たる保護が必要。今の日本のITリテラシーや能力ではムリだと思いますが……」(53歳・女性)
「必要性を感じてないから作らないだけ。メリットを感じれば言われなくてもみんな作ります。なぜ必要かを国民に告知するのはマイナンバーカードを作った側なのでは?」(54歳・女性)
「マイナンバーカード作りました。でもほとんど使うこともなく手に取ることもなく、存在さえ忘れています。今の私の生活に必要だとは思いません。いつか必要になるまでしまっておきます」(56歳・女性)
義務化しかないのでは
ここまで警戒心を持たれ、敬遠されているマイナンバーカード。普及させるための最後の一手としてあがった意見は「義務化」だ。
「普及させるには義務化するしかない。イヤだけど」(57歳・男性)
「メリットがいくらあってもダメだと思います。法律で強制的にする以外にないと思います」(54歳・女性)
「メリットよりデメリットが大きいと感じている国民が多いのでは……。マイナンバーカードの完全義務化しかないと思いますが」(50歳・男性)
「いくら機能を追加しても今のままでは100%普及させるの無理だと思う。マイナンバーカードという形ではなく、IDカードとして所持を義務付けするのはどうだろう」(59歳・男性)
未来の社会には必要
最後に、それでもマイナンバーカードはあったほうがいいという声も紹介しよう。
「マスコミのネガティブキャンペーンが減れば普通に増えると思う。あったほうが便利なんだから」(51歳・男性)
「国のPRが不可欠ですよ」(54歳・女性)
「わざわざ作るのは面倒だし、今は必要でもないけど、でも自分もこれから高齢になり、年金や介護などで、あれば便利になると思う。カードの利便性を高齢者に向けてもっとアピールすべき」(59歳・男性)
◇
マイナンバーカード普及に向けたさまざまの声があがった。「必要ないから作らないけれど、メリットがあるなら作ってもいい」という人、「個人情報がもれるから作るのは不安」という人、「積極的に申請して持つつもり」という人、こうした本音の声の中に、普及に向けたヒントが埋まっているはずだ。
締めくくりに、この声をまとめにしたい。
「現在、国民が願っていることは、コロナの収束と生活の安定なので、ワクチンとの紐づけも良いと思う。マイナンバーカードを作成した国民に、1人あたり30万円の地域振興券を配布し、地元の小売店のみ使用可能とする。瀕死にあえぐ小売店舗の救済にも役立つし、店側の努力次第では新しいお客の獲得にもつながる。そうなれば地元の市町村に税金が入るだろう。菅総理。麻生大臣に申し上げたい」(56歳・男性)
(取材・文/水口陽子)