4月は子どもの不登校が始まりやすい時期。もし、子どもに「学校に行きたくない」と言われたら? 「頑張って」と背中を押す、あるいは「わかった」と休ませるのか……最初の親の言動が大きく影響するという。子どもへの望ましい接し方から、隠れたSOSの見つけ方を不登校新聞編集長の石井志昴氏に聞いた。
小中高校生の自殺と不登校が増加傾向
文部科学省によると、2020年に自殺した小中高校生は前年より140人増の479人で1980年以降過去最多を記録。
一方不登校生徒の数は令和元年が23万1372人で、平成30年の21万7251人と比べ約1万4000人増と大幅に増加している。今子どもに、そして学校で、一体何が起こっているのか──。
「学校の中の息苦しさがどんどん高まってきているのを感じます」と話すのは、『不登校新聞』編集長の石井志昴氏。自身も中学時代不登校を体験し、これまで400人以上の不登校児を取材した経験を持つ。
「学校の締めつけが年々厳しくなっている。例えばチャイムが鳴る前に着席する小学校のチャイ着運動や、グループごとに目標を決めて達成を目指す取り組みなどです。
自立心や協調性を育むという本来の目的の反面、ノルマを実行しないと連帯責任にもなり、同調圧力が生まれる。結果として、シカトや悪い噂を流すといったいじめのきっかけに」
教室という狭い世界の中で、軍隊並みの徹底した規律で統制が敷かれる現在の学校教育。その枠からはずれた子どもは孤立し、行き場をなくしてしまうこともある。不登校はもはやよその家庭の問題ではなく、ひょんなきっかけで誰もが当事者になる可能性を秘めている。
親のNG行動
●理由を聞く
いじめ、友達や先生との関係、勉強など、理由は1つではない。言葉にならない思いを無理に聞くのは避けて。
●何かをしながら聞く
家事をしながらなど片手間はやめる。子どもと向き合い、ちゃんと話を聞いているよという態度を示すのが大切。
●せかす、話を遮る
子どもの話はとかく脱線しがち。そこでせかしたり遮ったりせず、気のすむまで話をさせてあげること。
●叱咤激励する
叱りつけたり励ましのつもりで頑張ってと背中を押すのは逆効果。強制的に登校させても同じことの繰り返しに。
親が言いがちな地雷ワードとは
新学期が始まり、不登校の生徒が増えるとされるこの時期、もし自分の子どもに「学校へ行きたくない」と言われたら? 石井氏によると、親が子どもに絶対にやってはいけないNG言動があるという。
「いちばんのNGは“なぜ行きたくないの?”と理由を迫ること。これは大半の親が踏んでしまう地雷です。子どもが学校に行きたくないのはいくつもの理由があって、その複雑な事情を言葉で説明するのは難しい。だから問い詰められると困ってしまうんです」
叱咤激励し、無理やり登校させるのもNG。親としてはよかれと思っても、子どもにとっては逆効果だと指摘する。
「子どもは学校に行けないほどボロボロに傷ついている。行きたくない子を無理やり行かせる、いわゆる登校圧力でうまくいった例はごくわずか。
学校側の対応も、まずは学校に来るようにと圧力をかけることが多いけど、わが子を思うほど先生は子どもひとりひとりを見てはいないケースもあるので、そこは注意が必要です」
とはいえ、行きたくない理由がわからなければ、親のほうも戸惑ってしまう。学校が本当につらいのか、もしくはズル休みをしたいだけなのか、その判断に迷ったときは?
「体調や行動の変化で子どもが本当に苦しんでいるかを見極めて。体調の変化で顕著なのが頭痛や腹痛、食欲不振。行動の変化でよくあるのは、ペットやきょうだいをいじめてストレスを発散させるケースです。あといじめられていると、自分が汚い存在だと思い込んでしまい、手洗いやお風呂の回数が増えることも」
「学校へ行きたくない」は、学校生活で疲れきった子どもがようやく言葉にできたSOSのサイン。はたして親は、そのとき子どもにどんな言葉をかけたらいいのだろうか。
「いちばんうれしいのは“わかった”というひと言。自分自身そうでしたけど、すごくラクになりました」
不登校経験者がうれしかった言葉
まずは子どもの意思を尊重し、受け入れる。そのうえで、親としてわが子のために何かしてあげられることは?
「“もしよかったら今の気持ち話せる?”という感じで、子どもの気持ちを聞いてあげてください。重要なのは、話ではなく気持ちを聞くこと」
学校に行けない理由を問い詰めるのではなく、話したいことを聞く。子どもの気持ちがわかれば、親も具体的な対処の方向性が見えてくる。
なかには親や周囲を拒絶し、話を避けようとする子どももいるが、「その行動自体が彼らのメッセージ」と石井氏。
「周りをシャットダウンする子どもは、そうやって自分を受け入れてもらえるか試しているんです。気持ちを解きほぐすのは、そんなあなたでも受け入れているよという態度。
それは本当に簡単なことで、“ご飯できたよ”など普通に一緒に暮らすだけ。そうやって愛情が染みわたり、本人が自然と話したくなるのを待って。必ずそのときは来ます」
いざ子どもが話し出したからといって、焦って先を急いではダメ。気持ちを聞く際、心がけたいポイントがある。
「話を途中で遮ったり、否定しない。傾聴するということです。悩んでいるときは特に話があちこち迷走したり、ダラダラ長くなりがちだけど、本人は話すことで気持ちを発散しているので、最後までとことん聞いてあげてください」
『傾聴』はカウンセリングの技術のひとつ。親子間の問題だけではなく、人間関係全般に通じるスキルだ。
「『オウム返し』も効果的なカウンセリング技術のひとつ。“悲しかった”“悲しかったんだね”と最後の言葉を繰り返して共感を示してあげる。
例えば“殴ってやりたかった”など親として同調したくない言葉でも、否定せず“殴ってやりたかったのか”とオウム返しをしていると、本人自身がそんなことをしてはダメだと現実に戻ってくるんです」
子どもの話にひたすら耳を傾ける。親に大きな忍耐を強いる時間になるが……。
「苦しいことがあったとき、気持ちの整理をすることで大人になる。その過程にいると思って、ここは親の頑張りどころ」と石井氏。
親の言動でうれしかったことは?
実際、不登校児の取材で“親の言動でうれしかったことは?”と聞くと、最もよく挙がるのが“気持ちを聞いてくれた”だという。
「あと、“ありがとう”の言葉を挙げる子も多いですね。不登校の子は周りに手助けしてもらい、ありがとうと言う立場にいることが多い。だから犬の散歩や洗い物など、些細なことでも感謝されると自分が存在していていいんだとすごくうれしいんです」
不登校は、学校生活で傷つき、疲れ果てた子どもの自己防衛の手段。周囲がそれを受け止め寄り添うことで、長期の不登校や引きこもり、自死という最悪の結末を防ぐことにつながると石井氏は語る。
「大人だって心が疲れたら休むことも必要ですよね。子どもも同じで、疲れたときの最大でいちばんの処方箋は休息。
そもそも1週間休める子ってなかなかいないもの。2〜3日休めば少し落ち着いて、また自分から学校へ行ったりもする。学校がすべてではなく、不登校はいろいろな生き方のひとつ。
そう考えると、親も子も少し心がラクになる。学校で苦しんでいる子どもがいたら、ぜひ休息の機会を与えてあげてほしいと思います」
(取材・文/小野寺悦子)