北川景子(左)と松たか子(右)

 4月期の連続ドラマが続々とスタートした。春らしい王道のラブコメが出揃う中、今春は真逆の「離婚」をテーマにしたドラマが2本放送されている。しかも、中身はコメディ。なぜ、この春に“離婚コメディ”があえて選ばれたのか。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

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 もともと春の連ドラには明るいムードの作品が多く、重苦しいムードが続くコロナ禍の今年はなおのこと。実際、今春は『着飾る恋には理由があって』(TBS系)、『恋はDeepに』(日本テレビ系)、『レンアイ漫画家』(フジテレビ系)などの明るいムードを感じさせるラブコメがそろった。

 しかし、気になるのは、陽気な春にふさわしいとは思えない「離婚」をテーマにしたドラマが2作放送されていること。『リコカツ』(TBS系)は“交際ゼロ日婚”をした夫婦が離婚に向けた活動をはじめる物語、『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ・フジテレビ系)は3度の結婚・離婚をした主人公が3人の元夫たちに振り回されながらも幸せを探そうとする物語と、どちらも離婚を軸に据えたオリジナル作だ。

 冒頭に挙げた3作が恋のときめきを散りばめた明るいラブコメである一方、『リコカツ』と『大豆田とわ子』は離婚を扱うためシビアなシーンは避けられない。また、それにもかかわらず離婚を扱う両作がコメディとして放送されていることに驚かされてしまう。

 なぜ『リコカツ』と『大豆田とわ子』は、あえてネガティブな離婚というテーマを選び、その上でコメディとして放送されているのか。

「離婚は普通」として描かれるべき時代

 『リコカツ』の植田博樹、吉藤芽衣、両プロデューサーは、同作を「離婚を契機に本当の恋愛が始まる」「一風変わった、でも本格的な大人のラブストーリー」「離婚するかもエンターテインメント」などと紹介している。最も描きたいのは離婚ではなく、大人世代のラブストーリー。離婚という最悪の状況から物語をはじめることで、ハッピーエンドへの振り幅を広げているのではないか。

 一方、『大豆田とわ子』の佐野亜裕美プロデューサーは、「3回結婚して3回離婚した主人公・とわ子。三者三様の魅力や欠点をもつ元夫たち。そんな愛すべきダメな4人を中心に、愉快な大人たちがゆるやかに連帯していくさまを楽しんで観ていただける物語になると思います」とコメント。とかく離婚後は憎み合うなどのネガティブなイメージを抱きがちだが、当作では「当事者たちが連帯する」というポジティブな様子を描こうとしているのだ。

 両作ともに、「離婚をよくある普通のこと」として扱おうとしている様子がわかるのではないか。大半の作品は未婚か既婚の男女をどこにでもある普通のこととして描いているが、今や離婚もそれと同様に描かれるべき時代ということなのだろう。

 引いては、近年のドラマ業界で進む「個人の尊重」「多様な生き方の受容」を意識したコンセプトの作品にも見えてくる。たとえば、かつて取り扱い要注意とされていたLGBTを最近では普通のこととして採り入れているが、「離婚も同じ感覚で普通のこととして描こう」という意識が感じられるのだ。

 どちらの作品もオリジナルであり、『リコカツ』は北川景子と永山瑛太のコンビを実現させるために数年の時間がかかったこと、『大豆田とわ子』は脚本家・坂元裕二の3年ぶり連ドラ復帰作であることから、“独創性の高い力作”というムードが漂っている。だからこそ王道のラブコメではなく、あえて野心的に離婚というテーマを選んだのではないか。

タイトルからにじむ軽さとコミカル

 あえてコメディとして放送しているのは、シリアスなタッチで離婚を描くと重くなりすぎるからであり、そこにコロナ禍の深刻さが加わってしまうからだろう。実際、『リコカツ』に出演している永山瑛太が2013年に主演を務めた『最高の離婚』(フジテレビ系)も、シリアス一辺倒になることを避けるように、コメディタッチで描かれていた。

『最高の離婚』第1話完成披露試写会&舞台挨拶('13年)

 また、離婚を特別なこととしてシリアスに描かず、普通のこととして扱うための工夫がタイトルからもうかがえる。『離婚活動』『離活』ではなく、ポップな印象のあるカタカナで『リコカツ』という表記を使い、脱力感を抱かせる『大豆田とわ子』という名前が採用されたのは、視聴者に軽さやコミカルな印象を持たせるためだろう。

 コロナ禍の重苦しいムードが続く中、リアリティばかりを追求していては視聴者の心をつかむことはできない。だからこそ両作とも、笑いを交えたエンターテインメントとして物語を進め、最終話では「登場人物たちがすっきりとした気持ちで前に進んでいく」というポジティブな結末が予想できる。

 つまり、スタートの時点では「離婚」に伴うシリアスなイメージがあったものの、「終わってみたらコミカルでポジティブなドラマだった」と思わせてくれるのではないか。その意味で視聴者サイドにしてみたら、「他のラブコメと同様に安心して見続けられるドラマ」と言い切ってもいいだろう。

木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
 ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。