「2月の地震で本棚が倒れ、部屋がぐちゃぐちゃになりました。片づけたのにすぐにまた大きな地震……」
3月20日、宮城県沖でマグニチュード(M)6.9の地震が発生、津波注意報が発令された。宮城県沿岸部に住む保育士の女性(20代)は、
「うちは海が近いのですぐに避難しました。外は暗くなっていたし、津波のことを考えると怖くて……」
幸いなことに津波は起きなかった。しかし、東日本大震災から10年がたったばかり。被災した当時のことを思い出し、身体が震えた──。
「いつになったら落ち着くのでしょうか?」(前出の女性)
東京大学(測量工学)の村井俊治名誉教授は指摘する。
「地震はいつ、どこでも起きる可能性があり、残念ながら落ち着くことはありません」
日本列島はこれまでにも幾度となく巨大地震に見舞われてきた歴史がある。
「地震の3つのタイプ」
まずは海溝型。東日本大震災はこれにあたり、M8を超える巨大地震と巨大津波が起きる危険性が高い。海底にある海溝という海のプレートと陸のプレートがぶつかる場所で発生する。
2つ目はプレート内で起きる内陸直下型地震。熊本地震や阪神・淡路大震災のようにプレート内を震源とする。プレート移動時に地面の中にある複数の割れ目に力が加わり、上下方向や水平方向にズレると地震となる。規模は最大M8ほどとみられるが、耐震性の弱い建物の倒壊や火災、がけ崩れなどを引き起こし、大きな被害となる。
3つ目は地下のマグマの動きや火山の噴火で発生する火山性地震。M5以下の小さな地震が頻繁に起きるのが特徴だが、まれに大きな地震が起きることもあるという。
南の海の群発地震は巨大地震の前触れ?
そこで各専門家が懸念する要警戒エリアを尋ねた。
「今後も注意が必要なのが小規模な地震が連続して発生しているトカラ列島周辺です。震度5クラスの地震や津波の発生もありえます」
と訴えるのは地震学者の島村英紀さん。
鹿児島県のトカラ列島周辺では4月9日より小規模な地震が多数発生している。有感(身体に感じる揺れ)地震はすでに200回を超えているのだ。
「トカラ列島が乗るフィリピン海プレートの中で地震が起きていると考えられます」
島村さんはそのメカニズムを説明する。さらに「火山」との関連も示唆した。
「火山帯なので火山性地震の可能性もある。以前から周辺では群発地震が起きています」(前出の島村さん、以下同)
火山が噴火すればこの地震はおさまるのだろうか。
「地表に現れる前にマグマが凍り、噴火にいたらないことはあります。そうなると地震だけが続くこともあるんです」
トカラ列島のすぐそばのユーラシアプレートにフィリピン海プレートが引き込まれている琉球海溝が走る。トカラ列島や南西諸島に巨大地震発生の危険はないのか。
琉球大学の中村衛教授は、
「トカラ列島を含む南西諸島の危険性も日本の他の地域と同様です。海溝型も直下型も、いつ起きてもおかしくない」
沖縄県も海溝型によるM8クラスの地震発生を想定。さらに沖縄本島でも震度6クラスの内陸直下型地震がたびたび起きてきた。
ただ内陸直下型地震は全国どこでも起きるリスクがある。最近でも岐阜や長野県の北部などの内陸部を震源に群発地震が起きているが、これも大きな地震と関係はあるのか。
「もともと火山もあり地震が多い場所です。大きな直下型地震につながるかの予測はできません」(前出の島村さん)
内陸直下型地震は活断層によっても引き起こされる。地盤防災の専門家で『だいち地震研究所』の横山芳春さんは、
「活断層は全国に2000か所以上あります」
注意が必要なエリアは東京都の立川周辺。神奈川県の三浦半島、千葉県の鴨川周辺など。関西では大阪府の豊中市から岸和田市にかけてだ。
専門家が口をそろえる要注意エリア
だが複数の専門家らが口をそろえ危険を指摘する地域がある。冒頭の女性が直面した東北地方の太平洋沿岸部だ。
特に前出の村井名誉教授は「要警戒レベルが高いエリアだ」と訴える。
理由を尋ねると村井教授は、自身が発見したミニプレート理論をもとに説明してくれた。ミニプレート理論とは日本の地面を複数のミニプレートに分け、その動きによって地震を予測するもの。
宮城県や岩手県の大部分が乗るミニプレートをAとする。Aは東日本大震災で海側に80センチ以上も沈下。10年かけて65センチ隆起したが完全には戻らずなおも隆起を続けている。
Aは青森県などが乗るB、福島県などが乗るCとそれぞれのミニプレートと隣り合う。B、Cは震災で20センチほど沈降したが、現在は震災前の高さにまで隆起。だが、Aとの間で約20センチの高さのひずみがたまっていると考えられ、このひずみが大きな地震を起こす原因となっているとみられるという。ミニプレート内の土地の沈降後は大きな地震の発生が観測されていたり、境界でも地震が発生している。
「大切なのは刻々と変化を続ける日本列島の『健康診断』を行い、異変を発見すること」(村井名誉教授、以下同)
そこで測量の視点と専門技術を生かした予測方法を確立。ミニプレートの移動だけでなく地殻の異常変動や異常な電磁波、音波などの間接的な地震の前に現れる現象を観測する。それらは地上だけでなく観測衛星など8つの手段を用いていることも特徴だ。
村井名誉教授が会長を務める『地震科学探査機構』ではこれらを運用し、独自の予測システムを構築した。
地震予測が可能な時代に?
「科学的根拠や観測のデータを総合的に分析、さらにはAIを活用することでより精度の高い地震予測が可能になってきました」
情報はスマホアプリなどの『MEGA地震予測』を通し、ユーザーに提供している。
現在では1か月以内に起きるM6クラス以上の地震まで予測できるようになったという。2月22日には宮城県沖のデータに異常がみられ、3月20日までにM6±0.5の地震が起きると予測し的中した。
「より精度を高める必要はある。今後も研究を続けたい」
地震発生が事前にわかったとしても土地の状態が命を左右することもある。前出の横山さんが説明する。
「揺れやすい場所では発表された震度よりも最大で3階級ほど強く揺れることがあります。たとえば震度5強を震度7に感じるなど。通り一本挟んだ先は倒壊していなかったことも」
沿岸部の埋め立て地、丘陵地にある谷を埋め立てて造成した盛り土の土地は注意したい。自宅の場所が地盤の不安定な盛り土の上にあり、建物の耐震強度も低ければ倒壊するリスクは上がる。
地震が起きても大丈夫な住まい捜し
住まいを選ぶ際には土地の状況と耐震強度を調べることが被害を減らすポイントだ。
「倒壊しなければ火災も起きにくい。新築なら耐震性の高い家を選びましょう。古い家なら耐震補強を急いで、倒壊しないようにすればいいんです。津波がこない土地であれば家は避難所になります」(前出の横山さん)
要注意エリアがある一方で安全な場所もある。台地だ。
東京都でいうと皇居や大名屋敷があった紀尾伊町周辺。青山学院のある港区や渋谷の松濤周辺が有名。台地は国土地理院の地図で調べられる。
倒壊を免れれば自宅避難も続けられる。食料品の備蓄や避難先を確保するだけでなく、安全の度合いが高い場所で暮らすことも命を守るための第一歩。巨大地震に見舞われたとしても生き延びる確率はずっと上がるのだ。
いつでも起きる、という心構えと備えさえあれば危険が指摘されているエリアに住んでいても命を守る術はある。
『“メガ地震”警戒スポットMAP』
活断層は全国に2000か所以上。中には注意が必要なものも。そして、内陸直下型地震発生のリスクも全国どこにでもある。専門家への取材をもとに編集部で作成した危険なエリアは10箇所だ。
(1)北海道えりも・道南・青森県周辺
★青森県東方沖、内浦湾やオホーツク海などを震源とした地震も起きている
(2)警戒度No.1! 東北地方(岩手・宮城・福島)の太平洋側
★特に宮城県沖に向かって変動がみられる
★東日本大震災の影響により、今なお地震が起きている
(3)静岡県沼津市を中心とした関東・東海地方
★静岡県沼津市や神奈川県箱根、伊豆諸島などで地面の高さの変動が続いているため
東京都や神奈川県、千葉県など首都圏にある活断層の一部
神奈川県新百合ヶ丘・東京都多摩丘陵の一部など
★震度の小さい地震でも揺れが大きくなったり、がけ崩れや液状化のリスクがある
(4)北信越地方、岐阜県
★長野県北部で小規模な群発地震が起きている。新潟の北部でも変動が出ている
(5)上町断層
(6)南海トラフ
(7)日向灘
(8)トカラ列島周辺
★近海では活発な地震活動が続いている。大きな地震が発生する可能性もある
★火山性の地震が発生し、以前にも群発地震が起きている。周辺の火山や海域で噴火の可能性も?
(9)南西諸島・琉球海溝
★巨大な津波を引き起こす大地震が起きる可能性もある
(10)南西諸島・沖縄近海
★過去には震度6ほどの地震が何回も起きている熊本地震で倒壊した住宅。大きな被害を出した(2016年4月)
地盤災害●横山芳春さん
住宅災害リスクを診断する住宅診断を得意とするさくら事務所「だいち地震研究所」所長。専門は地形や地質、地盤災害など。土砂災害などの被災地でも調査を行っている。
測量工学●村井俊治さん
東京大学名誉教授。国際写真測量・リモートセンシング学会会長を務めるなどリモートセンシングの第一人者。2013年に地震科学探査機構(JESEA)を設立した。
地震学●中村衛さん
琉球大学理学部教授。同大の島嶼防災研究センターにも所属。南西諸島から台湾にかけての地震や津波の研究を行う。講演の講師なども多数務める。
地震学●島村英紀さん
地震学者。専門は地球物理学や地球科学など。数多くの著書のほか、新聞や雑誌などにも積極的に寄稿を行う。地震のほか、火山についても言及している。