シニアソロ活女子の始め方

 人生100年時代。まだまだ元気だし、何か新しいことに挑戦してみようかな、と考えているシニア女性も多いはず。そこで、おひとりさまの時間を充実させるべく『シニアのソロ活』始めてみませんか?

「自分の生き方を狭め、自由を制限しているのは他人じゃない。他人のせいにしている自分自身だ」

 ドラマ『ソロ活女子のススメ』(原案・朝井麻由美、テレビ東京系)で江口のりこ演じる主人公の早乙女恵が作中で語った言葉だ。

「恵は“カップルのためのスポット”とされるプラネタリウムや動物園だってひとりで満喫する『ソロ活女子』。アクティブに自分の時間を楽しむ様子に同年代の女性からは共感する声が上がっています」(テレビ誌ライター)

「ソロ活」とは?

「ソロ活」とは複数人で楽しむことが多い“焼き肉”や“カラオケ”などをひとりですること。好きな時に好きな場所で、ひとりでしか味わえないぜいたくな時間を過ごし、おひとりさまの気楽さ・自由さを謳歌する活動のことを指す。

 しかし、なにもソロ活は、若い世代だけの特権ではない。自分の時間を楽しめるソロ活は、配偶者と死別や離別したり、子どもがひとり立ちしたシニア女子たちにもオススメ。自由に過ごせる時間が確保できるからこそ多彩なジャンルにトライできるのだ。

「『ひとり〇〇』は一見ハードルが高く思えても、それが趣味の人たちにとっては当たり前の文化。ソロ活は“こんな新しい世界があったんだ”と思える体験ですよ」

 そう話すのはドラマ原案者でエッセイストの朝井麻由美さん。まさに「ソロ活」のスペシャリストだ。

 朝井さんによると、特にシニア女子にオススメなのがホテルの喫茶店での「アフタヌーンティー」だという。

「ゆっくり過ごすシニア世代が多くいます。自分と年齢性別が近い人がたくさんいる場所だとハードルも低いです」

 ほかにもカラオケや焼き肉など「ひとり専門店」があるジャンルも、年齢問わずソロ活初心者にうってつけだ。

「ただ、焼き肉自体が好きじゃなければひとり焼き肉は楽しめませんよね。前提として、自分は何が好きなのかを知ることが大事だと思います。ですので、いろいろ挑戦してみてください。ピンとこなかったら“それが好きじゃなかったんだ”とわかる」(前出・朝井さん、以下同)

本屋に行って「自分探し」

 これまで家族を優先してきて、好きなものがわからない、「ソロ活」といっても何をしたらいいのかわからない人もいるだろう。

 そんな彼女たちにうってつけなのが本屋だ。

「自分の好きなことを知る練習として、趣味雑誌を手に取ってみて、情報収集から始めてみましょう」

 それでも「ひとりで行動するのはなんだか恥ずかしい」と思い一歩が踏み出せない人もいるかもしれない。

「自分が友達数人でご飯を食べているときに、ひとりでいるお客さんの存在なんて全然気にしていないし、翌日には確実に忘れてますよね。人ってそこまで周りの人のこと気にしてない。むしろ私は“カッコいい”とすら思います」

 一方で注意したいことも。

「例えば、アウトドア慣れしていない人が、いきなりひとりアウトドアに挑戦するのは、準備や片づけがきつく大変です。また、食べ歩きをして、いろいろ食べたくても、どうしてもひとりだと胃袋の限界がくることも(苦笑)」

 自分の体力とも相談し、無理のない範囲で始めることが「シニアソロ活」を満喫するポイントだ。

 朝井さん自身もソロ活を始めたことでよい変化が起きた。「自分に自信がつきましたね。ひとりで初めてどこかに行くのはドキドキしますが、“全然できる!”と成功体験を重ねられますし、“ひとりで何でもできるぞ”と自己肯定感も高まるんですよね」

「ソロ活」は“恥ずかしさ”や“罪悪感”を持つ自分の思い込みとの戦いでもあるという。

「将来、医療が発展して、寿命が100歳を超えるのが当たり前の時代が来るかもしれません。60歳の人なら、40年以上ある。その40年間を少しでも楽しく過ごすために、ひとつの選択肢としてソロ活を取り入れてみてください」

 そこで、シニアソロ活を満喫している女性たちに、その極意を訪ねてみた。

舞台の上でもうひとりの私になりきる

落語を披露する奥村さん。舞台に立つことは健康にもよい効果がある

「アンドロイドになったり、若い女性になったりと、自分でないものを演じるのはすごく面白いですね」

 兵庫県在住の奥村緑子さん(70)が楽しむ「ソロ活」は演劇だ。

 奥村さんが所属するのは、西宮市を拠点に活動する「劇団ふぉるむ」内の演劇教室。50~70代を対象にしたクラスで、奥村さんのほか11人の仲間が在籍。同劇団の演出、小林哲郎さんの指導のもと、毎週1回の稽古に励み、毎年3月には発表会を行っている。

 奥村さんが同演劇教室に参加したのは2017年4月。

「その前に落語を20年近くやっていました。落語はお稽古も本番もひとりで完結するもの。仲間と一緒に何かを作り上げていくことがやりたいなと思い始めました」

 だが、その2か月後の6月、奥村さん家族を悲劇が襲った。

「夫にがんが見つかり、病状が急に悪化したんです……」

 同9月、夫は71歳で亡くなった。専業主婦として1男2女を育て上げ、出版社のパートを65歳で退職。同じく会社を退職した夫と第2の人生をスタートしようとしていた矢先のことだった。

「“80歳になるまでは身体が動くし元気だから、夫婦2人で遊ぼう”って計画していたんですよね。これから、というときでした」

 夫の死後は葬儀や手続きに忙殺されていたが、一段落すると今度は喪失感に苛まれてしまったという。

「当時同居していたいちばん下の娘もひとり暮らしをすることになり、本当に私はひとりになることに……」

 落ち込む奥村さんを支えたのは子どもたちの存在だった。

「私が家にいてじっとしてたら子どもが心配しますからね。もともと私は人に喜んでもらうことが好きでしたし、社会との接点も欲しかった。そこで、“四十九日が終わったら元に戻ろう、一歩踏み出そう”って決めたんです」

 同年12月から芝居と落語の稽古も再開させた。

 '19年3月に出演した介護施設を舞台にした作品では、主演の20歳の女性を熱演。コロナ禍でやむなく中止となったが、昨年3月に発表予定だった作品でも主演に抜擢。舞台は学校がなくなった世界。奥村さんはアンドロイドの先生という難役を務めた。

「稽古をするうちに、登場人物の人生が見えてくる。1年かけてひとつの人物像を作り上げていく面白さがあります」

 と演劇の魅力を語る。さらにうれしい効果も。

「1週間に1度稽古があるので“セリフをここまでは覚えなきゃいけない”と、生活のリズムもできます。稽古を休むと迷惑をかけてしまうので、体調を崩さないように気をつけるようにもなりました」

 いまでは演劇や落語のほかに、2か所のダンス教室に通うなど、活発な日々を送る。

「若いころから演劇に興味はありましたが、許してもらえないような家。でも高校の文化祭で演劇をやり、みんなで作り上げる面白さをずっと思い続けていました。私のソロ活は“自己表現の場”です」

 これからソロ活を始めようと思っている同年代にはこうエールを送る。

「“迷ったらGo!”です。思うものと違ったなら、“今日はハズレだな”って帰ってきたらいいだけ。まずは一歩踏み出すこと。Go!」

80代でYouTubeデビュー!

中田芳子さん

「Hey Siri。今日本でいちばん流行っている歌はなんですか」

 アイフォンの音声アシスタント「Siri」に声をかけるのは、千葉県在住で「逆さ歌」の名人の中田芳子さん(89)。45年以上ピアノ講師としても活躍。今でも週末に2人の生徒を教えている現役教師だ。

 逆さ歌とは一見、意味不明な歌詞をピアノの弾き語りとともに録音し、逆再生すると完成した楽曲が聴こえてくるというものだ。

「逆さ歌の魅力は“逆再生のメロディーの不思議さ”ね。例えば『アメイジング・グレイス』は逆再生でも本当にキレイなんです」

 そう語る中田さんは実に約35年、『逆さ歌』を続けてきた。

 始めたきっかけはフジテレビ系列で当時、放送されていた朝の情報番組内で、「変わったことをする女性」を紹介するコーナーのコンテストを受けたことだった。

「1等はハワイ旅行。特技だった回文(上からも下からも同じ言葉で読める文のこと)で参加したの」

 しかし、“テレビ映えがしない”との理由から落選。だが番組の担当者から、

「“音楽の先生なら、回文と音楽とミックスして、逆回転で歌えないんですか?”と言われたんです」

 そこで一念発起し、必死で練習して「逆さ歌」を編み出した。結果は優勝。それ以来、多数のテレビ番組にも出演してきた。

「ソロ活」は「終活」のひとつ

 そんな中田さんはこの『逆さ歌』でユーチューバーデビュー。自作した逆さ歌を自身のユーチューブチャンネルにアップするなど、若者顔負けの「ソロ活」を楽しんでいる。

「動画のアップロードを知り合いに手伝ってもらいながら’15年、83歳からユーチューブを始めました」

 チャンネル登録者数は7000人を超え、逆さ歌はこれまでに58曲をアップした。

 選曲はAdoの『うっせえわ』や、LiSAの『紅蓮華』など子どもたちにも人気の曲も多く、59曲目は「Siri」に教えてもらった優里の『ドライフラワー』を選んだ。

 若者を中心に流行している曲の逆さ歌に積極的にチャレンジすることには理由がある。

「知っている歌ならすぐに作れるけど、新しい歌は時間がかかる。それをまだ身体が動いて頭が回るうちにやっておきたい。頭がボーッとしてきたら、昔の歌をやって、100曲歌い終わったら死にたいと思ってるの」

 中田さんの「ソロ活」は「終活」のひとつでもあるのだ。

 そんな彼女は夫を約20年前に亡くした。失意の中にいたとき支えになったのは家族とソロ活だった。

 これまでに行った「ソロ活」は、例えば60代でひとりで米・テキサス州へと海外旅行。当時習っていた英会話を駆使して、ホテル探しから予約まで自らこなした。

 ほかにも小説やエッセイの執筆、裁縫や料理などひとりの時間を謳歌している。

「好奇心が強すぎるのかもね」

 と笑う中田さんにとってソロ活は、「自分が生きていることの証明」だという。

 夫や子ども、家庭のことに追われることが多い女性たちに伝えたいことがある。

「60歳になったら女として生きられる。60歳からの人生が本当のあなたの人生、1日1日を大切に生きてね」

60歳からスタート! 初めてのソロ活!
 初めてのソロ活、何をしていいのか迷っている人もいるのでは? 下の表を参考に、興味のあるジャンルにチャレンジしてみては?

難易度★
 ●これまでにも入ったことのあるレストランやカフェで食事
 ※ラーメンや牛丼、猫カフェは難易度が低い。初めてのお店や、しゃぶしゃぶ、回転寿司や焼き肉になると難易度は上がっていく。ただし、おひとりさま専門店を利用するのも手
 ●アフタヌーンティーやコースランチ
 ●カラオケ ※ひとりカラオケ専門店もあり
 ●プラネタリウム
 ●映画
 ●スーパー銭湯
 ●寺社仏閣巡り

難易度★★
 ●動物園、水族館、博物館
 ●日帰りバスツアー
 ●温泉旅行
 ●ひとり飲み
 ※バーやカウンターでお酒を飲めるお店だとやや難易度が低い。大衆居酒屋やチェーン店になると難易度が上がる。

難易度★★★
 ●麻雀
 ●海外旅行
 ●テーマパークや遊園地
 ●リムジンパーティー
 ●お遍路

『ソロ活女子のススメ』(大和書房)著=朝井麻由美 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします 
お話を聞いたのは…… 朝井麻由美さん●フリーライター・コラムニスト。執筆のテーマはソロ活、人見知り、ひとり旅など。著書の『ソロ活女子のススメ』(大和書房)がドラマ化されたほか、『「ぼっち」の歩き方』(PHP研究所)など著書多数。週刊誌などで執筆も行う。

(取材・文/堤美佳子)