3度目の緊急事態宣言が発出された東京都。小池都知事は夜間の人出を少しでも減らそうと、街灯をのぞくネオンサインなどを午後8時以降は消灯してほしいと呼びかけたが──。
宣言初日の25日(日曜)。夜を待って、JR東京駅から隣の有楽町駅まで歩く。午後7時すぎ、東京駅周辺はオフィス街のため多くのビルが消灯して暗く、人通りもほとんどない。有楽町駅に近づくにしたがって街は明るくなり、街ゆく人も増える。
「緊急事態宣言前の日曜日に比べると、日中の人出ははるかに少なかった。ブランドショップの路面店などいくつか営業しているところはあるが、デパートは食料品売り場などを除き、ほぼ休業だから銀座まで来る理由がない。当然こうなるでしょ」
歩道脇に座っていた50代男性はそう話す。銀座の飲食店で働いているという。
〈銀座〉東日本大震災の直後とは違う光景
午後8時すぎ、銀座4丁目交差点に到着。銀座のシンボル「和光」の時計塔のはす向かいには新聞社のカメラマンらが10人以上いた。その中に交じってカメラのシャッターを切っていると、
「すみません、何を撮っているんですか」
と通行人の男性。
「街の様子を撮ってるんですよ」
とだけ答えた。男性は明らかに納得していない様子だった。
通行人からすれば、不思議な光景なのだろう。交差点の角にカメラマンが集まり、和光に向けてさかんにシャッターを切っている。赤信号になって車の流れが止まるとパシャパシャパシャ。しかし、カメラの先に目をこらしてみても、そこには和光しかない。
「すみません、みなさん何を撮っているんですか」
まただ。今度は大学生ぐらいの息子と母親。
小池百合子都知事が緊急事態宣言下で消灯を求めている街が実際に暗くなっているかどうか、象徴的な場所を確認して写真に撮っていると説明すると、母子は「なるほど」と納得した様子だった。
短時間で2組から声をかけられたのは、おそらく街の消灯の度合いが中途半端だったからではないか。
和光は建物全体のライトアップをやめていたが時計部分は点灯しており、周辺の街もそれなりに明るいままだった。少なくとも東日本大震災の直後、節電のため街じゅうの明かりが消えたときとは異なるレベル。もし、この夜も真っ暗だったら通行人もすぐにピンときたはずだ。
〈秋葉原〉控えめに“営業中”をアピール
JR秋葉原駅へ。駅前近くのおもな建物は消灯されていて周辺は暗かった。
どの路地も通行人はまばらで、歩道脇で裸電球を吊るして菓子類を安売りするワゴン販売に数人の客が集まっていた。暗い街でそのワゴン販売は目立ち、まるで誘蛾灯(ゆうがとう)のよう。のぞき見る限り、商品じたいはそれほど珍しいものとは思えなかった。
明かりはこれほどまでに人を寄せ付けるのか。
小池知事の呼びかけは、人の流れを減らしたいという目的には合致しているに違いない。
しかし、店頭の電気を消して営業するゲームセンターも。客のほうも心得ているようで、消灯を気にする様子もなく店内に吸い込まれていった。
路上ではメイドカフェの従業員が控えめに“営業中”を通行人にアピールしていた。建物が消灯された薄暗い路上で、少し間隔をあけ、さまざまなコスチュームをまとったメイドさんが立っている。
都内では酒類・カラオケを提供する飲食店は休業を求められており、提供がない場合でも営業は午後8時まで。もう、とっくに閉店時間を過ぎている。
「本音を言えば、午後8時以降も店が営業してくれるのはありがたいですね。時給制なので閉められると稼げなくなり、生活に響きますから」
とミニスカートのメイドさんは話す。
別のメイドさんは、
「ふだんより暗いので路上に立つのはちょっと怖い。通行人の表情が見えにくく、向こうから近づいてくると、変な人かもしれないと身構えてしまう」
と眠りの早い夜の街を嫌った。
◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)
〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する