「妻と娘の命を奪ってしまうのなら……(被告と)永久に出会いたくなかった……。知らない人でいたかった」
今回の公判後に開かれた記者会見で、妻・真菜さん(享年31)と長女・莉子ちゃん(享年3)を事故で失った松永拓也さん(34)は涙を流しながら語った。そして、
「(被告は)簡単に“申し訳ない”とか言ってほしくないですよ。“自分は悪くない”と言っているんですから」
と声を荒げた――。
検察側が指摘した5つの相違点
'19年4月に11人の死傷者を出した「池袋暴走事故」。その第7回公判が4月27日、東京地裁で開かれた。過失運転致死傷罪が問われている“上級国民”こと飯塚幸三被告(89)は、いつものように黒のスーツ、黒のネクタイ、白いYシャツの姿に、べっ甲色の眼鏡をかけ、車イスに乗って出廷した。
この日は、弁護人側、検察側の双方からの被告人質問。初公判以来の被告人の発言に、注目が集まっていた。
弁護士側は終始、被告のミスはなかったことを強調するような質問を繰り返し、被告は証言を続けた。
一方、検察側は被告の記憶とドライブレコーダーの映像には、5つの相違点があったと指摘。検証の結果は次の通りである。
(1)
【被告】最初に車線変更をしたのは、東池袋交差点のカーブを曲がりきってから
【ドラレコ】曲がっている最中に車線変更をしている
(2)
【被告】そのとき、車の前を走行していたのは、自転車
【ドラレコ】走行していたのはバイク
(3)
【被告】ひとつ目の交差点で何かに接触
【ドラレコ】子どもと接触
(4)
【被告】ふたつ目の交差点で見えたのは、赤信号と乳母車
【ドラレコ】赤信号と自転車
(5)
【被告】車線変更は1回
【ドラレコ】3回
この5つを、検察側は鋭く追及した。しかし、一部は率直に認めたものの、
「いまでも、そういう記憶しかありません」
と、被告は頑なだった。
「タクシーは使い勝手が悪い」
検察側は、さらに詰問。
「警察の調書に、“運転中にパニックになったので、ブレーキとアクセルを踏み間違えたかもしれません”とありますが?」
すると飯塚被告は、
「警察とはいろんな話をしましたが、警察から“間違えたのではないか?”と尋ねられたので、そう言ったかも。でも、いまの時点ではそうは思っていません」
ときっぱり。
検察側は高齢者のブレーキとアクセルの踏み間違いについても言及。運動能力、判断能力、認知能力は高齢になれば低下していくものだが、その認識はあるかという問いに、
「運動能力も認知機能も、少なくとも車の運転には問題ないと思っていました」
さらに、車を使用する理由については、
「電車やバスは乗り換えなければいけないので、時間がかかる。タクシーは時間がかかって使い勝手が悪いので」
とも……。
記者会見に松永さんとともに同席した、真菜さんの父親である上原義教さん(63)も、
「こういう人は、どんなことがあっても、反省はしないんだろうなと。デタラメで……。本当に心から悔しい」
と怒りと悲しみが入り混じった複雑な表情を浮かべていた。圧倒的に不利な立場に立たされた飯塚被告。2か月後に行われる被害者遺族の松永さんの直接質問に、被告はどう答えていくのだろうか。