行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回はコロナ禍で離婚を決意した妻の実例を紹介します。
昨年4月、初めて発令された緊急事態宣言。筆者は行政書士・ファンナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談を行っていますが、当時、自粛生活における不満や不安、いらだちが原因で離婚の危機に発展する「コロナ離婚」の相談が発生しました。
感染者数と相談者数は比例しているようで、飲食店への時短要請が再開された昨年11月まで減少していた相談が、年末から急増。そして今年1月に2回目の宣言が発令されましたが、特に1回目を乗り切った夫婦が、2回目で離婚に踏み切る傾向が見られました。
さらに、東京など4都府県で4月25日から3回目の宣言が発令されたばかり。またまた「コロナ離婚」が発生することが予想されますが、過去2回の宣言の間で積もり積もった不満等は大きく、危機的状況の夫婦は多いでしょう。そのため、今までの教訓を生かすことが大事です。今回は筆者の相談実例をもとに、1回目、2回目の宣言下でどのように夫婦関係が壊れてしまったたのかを解説しましょう。
夫:拓也(46歳・会社員・年収600万円)
妻:莉緒(44歳・会社員・年収400万円)☆今回の相談者
長女:莉愛(りあ/15歳・中学3年生)拓也と莉緒との間の子ども
夫が勝手に「三者面談を欠席したい」と連絡
「三者面談をすっぽかすなんて、どういう神経をしているの? いつもいつも、あの人は私の邪魔ばかりして……今回ばかりは殺意が湧きますよ!」
そんなふうに顔を真っ赤にして、まくし立てるのは今回の相談者・莉緒さん。当時、莉緒さん夫婦には中学3年生の娘さんがいたのですが、最終学歴が高卒の莉緒さんは「自分と同じような苦労をさせたくない」という一心で、娘さんにはいい大学、いい会社に入ってほしいと願っていました。今回、コロナ禍の高校受験を通じて夫婦間に致命的な溝ができたのですが、原因は夫の言動でした。何があったのでしょうか?
昨冬、夫は担任の教諭へ「三者面談を欠席したい」と連絡したそうなのです。もちろん、莉緒さんに内緒で。もともと三者面談は生徒にとって気まずいシチュエーションですが、特に娘さんは成績優秀とは言えず、親と担任の板挟みにあうことが予想されました。
莉緒さん夫婦は教育に関して明らかな温度差がありました。温度が高い莉緒さんと低い夫。勉強が得意ではない娘さんが、どちらに三者面談のプリントを渡すのかは言うまでもありません。当然、夫のほうに泣きついたのです。
しかし、受験シーズンの三者面談は進路を決めるために特に重要ですから、保護者が欠席するのは普通ではありません。さすがに担任もおかしいと思ったのでしょう。面談予定日の7日前、「本当にいいんですか?」と担任が莉緒さんへ連絡してきたので、夫の仕業だと発覚。莉緒さんが夫を詰問すると、夫は「莉愛のためにやったことだ」の一点張り。謝罪のシャの字もなかったそうです。
とはいえ欠席の連絡は夫が娘さんをかばうためにやったこと。「よかれ」と思い、とった行動です。方向性は違えど、娘さんへの愛情は莉緒さんも夫も変わらない……筆者は当時、そんなふうに楽観していました。夫婦間できちんと話し合えばわかりあえると思っていたのです。
娘と友達感覚で接する無責任な夫
実は莉緒さんが夫に足を引っ張られたのは今回が初めてではありませんでした。筆者が莉緒さんの相談に初めてのったのは2年前。一般的に思春期の子どもは父親を嫌うことが多いですが、娘の莉愛さんは例外でした。例えば、韓流アイドルのライブ、スーパー銭湯のマッサージ、タピオカ店の行列など、夫は娘さんとのデートを楽しむほど仲がよかったのですが、夫の「父親らしからぬ態度」に莉緒さんはずっと悩まされてきました。
例えば、娘さんの進路について「お前の好きにすればいい。高校は行きたければ行けばいい」と無責任な言葉を並べたそう。まだ未熟な娘さんはその言葉を真に受け、中学卒業後の進路は「ドローンの技術を勉強できる専門学校がいい」と言い出しました。その専門学校は昨年、定員割れを起こしており、望めば誰でも入学できる状態。学歴にこだわる莉緒さんは「あり得ない!」と激怒し、思いとどまらせたのです。
「あの人は自分が父親だと自覚しているのでしょうか?」と莉緒さんは首をかしげますが、娘さんと友達感覚で接する夫が理解できませんでした。当時、筆者は「奥さんの性格を考えると、知らず知らずのうちに娘さんに厳しく接しているはず。アメとムチでちょうどいいバランスなのでは?」と助言しました。夫婦間に溝はあっても致命傷には至らず、切り傷程度の軽傷を繰り返しながら、のらりくらりとやっていける……そんなふうに様子見をするつもりだったのですが、その1年後に「ある事件」が起こったのです。
当時、1回目の緊急事態宣言が発令されました。そのせいで中学校や塾の自習室は利用禁止に。さらに莉緒さん、そして夫はどちらもリモートワークに移行。そのため、娘さんは両親の監視下で慣れないリモート授業を受けざるをえなかったのです。
受験生の娘さんは集中しにくい自室学習で調子が狂ったのでしょうか。5月の模試では志望校がE判定(合格率20%以下)。その結果を見た莉緒さんは「やる気あんの! このままじゃ、ママみたいになっちゃうよ!」と叱責しました。娘さんが「勉強があるから」と追い払おうとしても「ママに恥をかかせないでよ!」と追撃。そうすると娘さんは真っ赤な顔で部屋を飛び出し、そのまま自宅から出て行ったしまったのです。
そして娘さんは20時になっても戻らず……相談を受けた筆者は「電話にも出ないんですか?」と投げかけたのですが、莉緒さんは勉強の邪魔になるからと長女からスマホを取り上げたそう。教育熱心な莉緒さんの性格が裏目に出た格好です。
莉緒さんは慌てて学校の担任、部活の顧問、同級生の親に片っ端から電話をかけたのですが、「わからない」という返事ばかり。自宅周辺のコンビニ、ガソリンスタンド、ドラッグストアを訪ね、長女の特徴を店員に伝えても「見ていない」と答えるだけ。
一方、夫の様子はどうだったのでしょうか? 莉緒さんは「犯罪に巻き込まれたらどうするの? 休業中の店ばかりだし、人通りも少なく、治安が悪いのに!」と訴えるも、夫はスマホを操作し、パチンコやスロットのゲームに夢中。「そのうち戻ってくるだろ?」と言い、まるで他人事のよう。娘さんを探しに行く気配はなし。莉緒さんが最寄りの警察署へ相談しに行こうとすると「いい加減にしろよ! お前はいつも過保護なんだよ。あの子は何歳だと思っているんだ!?」と逆ギレ。
結局、莉緒さんの心配は杞憂に終わり、21時過ぎに長女は平然と帰宅したそうですが、「娘に何かあったらと考えると胸が張り裂けそうです。あの人は能天気すぎるんですよ!」と、莉緒さんの怒りがおさまりません。筆者は「家出をしたのは旦那さんのせいではないので、あまり事を荒立てないほうがいいのでは?」と諭したのです。
夫婦の関係悪化とともに娘の成績も悪化
それから年が明け、莉緒さんから連絡がありました。
「10月、11月は5万円でしたが、12月、1月は10万円近くかかりました」
と、ため息まじりで言いますが、これは塾代の話。娘さんの学力では集団のクラスについていくことができず、個別指導に変更して塾を続けるか、塾をやめて家庭教師をつけるかの二択を迫られたのです。もともと塾の申し込みは娘さんが乗り気ではなかったのに莉緒さんが押し切った格好でした。個別指導、家庭教師のどちらを選んでも費用は大幅に増えます。莉緒さんの給料で払うのは無理な金額でした。
そこで夫に相談したところ、夫は塾に申し込む経緯を蒸し返し、「お前が勝手にやったことだろ?」と反発。娘さんに聞くと家庭教師より個別指導がいいと言うのですが、夫は「お前に逆らえないだけだ」と一蹴。「あの人(夫)が反対する理由は、本当はコロナで残業代が出ないからなのに……」と莉緒さんは嘆きます。結局、莉緒さんは父親に泣きついて援助してもらい、家計の帳尻を合わせたのですが、夫への不信感がつのるばかり。
しかし、緊急事態宣言中の落ち着かない学校生活が災いしたのでしょうか。塾の成果は乏しく、個別指導に切り替えた恩恵も少ないまま、娘さんの2学期の成績は惨憺たるもの。5段階で3を上回る科目はなかったそうですが、それもそのはず。
自宅待機でリモートワークを続ける莉緒さんと夫は、ますます関係が悪化していました。「喧嘩をするほど仲がいい」と言いますが、もはや喧嘩をするのを避け、なるべく顔を合わせないようにする冷戦状態。娘さんが前向きな気持ちを抱き、明るい将来を見て、一生懸命に頑張れる環境には程遠かったのです。
塾の個別指導に遅刻したり、中学校の授業を「お腹が痛い」と早退したり、自室で自習せずに友達とLINEをしたりした結果が成績に現れていました。結局、冒頭の三者面談は莉緒さんが参加して行われ、そこで担任の先生からは学区の中で下から2番目の高校を受験するように勧められたのです。莉緒さんは頭を抱えました。「何のために塾に行かせたかわからない!」と。
受験前日に夫が信じられない行動を
そして最も大きなトラブルが起こったのは受験の前日でした。夫と娘さんが二人で出かけようとするのを発見。二人とも髪を整え、普段使いではないコートを着て、カシミアのマフラーを巻いていたのですが、莉緒さんが「どこに行くの?」と尋ねると、夫は「お台場だよ。ヴィーナスフォートで買い物をするんだ」と返答。受験の前日に遊びに行くなんて信じられない! と、莉緒さんはあぜんとしました。
「明日、何の日か知っているの?」と追及しても、夫は知らぬ存ぜぬという感じ。莉緒さんは急いで父娘のデートをやめさせたのですが、夫が受験のスケジュールを把握していないことに愕然としたのです。
そして迎えた受験日。緊張している娘さんにたくさんのアドバイスをしても仕方がありません。莉緒さんは「遅刻せずに到着すること」「トイレが近くなるから水分を摂り過ぎないこと」「受験票を忘れずに持っていくこと」だけを伝え、娘さんを送り出したのです。
とはいえ志望校のランクを2つも下げたので、娘さんは無事に合格することができました。
娘を改心させるには、夫から引き離すしかない
ここで莉緒さんは密かに夫に最後のチャンスを与えていました。合格発表はインターネット上で行われたのですが、あらかじめ夫に「これがIDとパスワードだから」とLINEで伝えたのです。夫は指が太く、スマホのフリックが苦手なので、長文を手入力をする場合、書斎のノートパソコンを使います。しかし莉緒さんがチェックしたところ、パソコンの検索履歴の中に、合格発表のURLを見た記録は残っていませんでした。夫は莉緒さんから上から目線で言われたのが気にくわなかったのかもしれませんが、残念ながら、娘さんの進路に興味を示さなかったことが致命傷になりました。
莉緒さんの我慢はついに限界に達し、堪忍袋の緒が切れたのです。なぜなら、夫は娘さんのことを本気で考えておらず、せいぜい「自分の遊びに付き合ってくれる相手」程度だということが明らかになったから。莉緒さんはストレスで帯状疱疹を発症したようです。
「こんな人でも娘にとっては父親です。娘から父親を取り上げるのはどうかと思い、今まで我慢してきました!」と莉緒さんは涙ながらに訴えますが、夫がするのは娘さんの邪魔ばかり。夫という怠惰でいい加減で、その日のことしか考えない存在がいるから、娘さんは夫の影響を受けてしまう。娘さんを改心させるには、夫から引き離すしかない──もはや莉緒さんにとって夫は「いないほうがいい存在」になっていました。そこで莉緒さんは夫と離婚し、娘さんの親権を持ち、自分ひとりで育てていく決心をしたのです。
筆者は「遅かれ早かれ結果が同じなら、早いほうが傷が浅い。コロナで旦那さんの本性がわかった今、終止符を打てたのは怪我の功名でしょう」となぐさめました。
コロナ離婚すべきか否かのポイント
今年3月21日に2回目の宣言が解除され、一息ついたのも束の間。変異株の流行などで感染者数は減るところか増えるばかり。そして4月25日、東京等で3回目の宣言が発令され、また不自由なステイホームに逆戻り。今後は第3波、第4波の「コロナ離婚」が発生することが予想されます。
莉緒さん夫婦は教育に対する価値観の違いが決定打になりましたが、コロナをきっかけに夫婦間でトラブルが起こった場合、離婚するか否かは一般的に何を目安に考えればいいのでしょうか?
まず相手が「二度としない」と誓ったのに2度目の嘘をついたのなら、必ず3度目もあります。このまま夫婦を続けても関係は悪化するばかり。「本音は何なの?」「何か隠している?」「約束を守るのか」と疑い出したら終わりです。
そして、あらゆる情報が不足していた昨年の3月、4月に何をどこまで協力するのか足並みが揃わなかった夫婦の場合、ある程度、情報が浸透してきた今年1月、2月はどうだったでしょうか? 思い出してください。そして3月、4月はどうですか? 相変わらず、配偶者が“人より自分優先”という態度をとっているのなら深刻です。
コロナが完全に終息するまで何度も同じ問題が繰り返される可能性が高いので、悩み苦しみ続けるくらいなら、夫婦をやめることも選択肢に入れたほうがいいでしょう。
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/