及川光博

 4月30日にようやくすべての春ドラマがそろい、コロナ禍のステイホームが重なったこともあって、ネット上にはさまざまな反響が飛び交っている。なかでも、視聴率、話題性ともに独走しているのが、16年ぶりの続編となる『ドラゴン桜』(TBS系)。主演の阿部寛に加えて前作で生徒役だった長澤まさみが出演しているほか、「落ちこぼれの生徒たちを東大合格に導く」というストーリーも変わっていない。

 一方で最大の変化と言えるのが、前作の「金曜ドラマ」(金曜22時台)から続編は「日曜劇場」(日曜21時台)に放送枠が変わったこと。その変更に合わせて『半沢直樹』や『下町ロケット』を彷彿させる脚本・演出が施され、シリアスな世界観の作品に変わったことが賛否を巻き起こしている。

 さらにもう1つ、日曜劇場への放送枠変更を感じさせるのがキャスティング。及川光博、江口のりこ、山崎銀之丞、木場勝己、内村遥と、近年の日曜劇場を盛り上げてきた俳優たちが『ドラゴン桜』の続編にも出演している。

 なかでも特筆すべきは、桜木建二(阿部寛)が関わる龍海学園の教頭・高原浩之を演じる及川光博。このところ及川は2017年の『A LIFE~愛しき人~』、2019年の『グランメゾン東京』、2020年の『半沢直樹』、2021年の『ドラゴン桜』と日曜劇場への出演が続いている(それ以前は2000年の『オヤジぃ。』、2001年の『恋がしたい恋がしたい恋がしたい』、2013年の『半沢直樹』に出演)。

 近年の頻度は、『半沢直樹』『流星ワゴン』『99.9 -刑事専門弁護士-』『小さな巨人』『集団左遷!!』らに出演し、「ミスター日曜劇場」という異名を持つ香川照之をしのぐほど。では、なぜ及川はこれほど日曜劇場というドラマ枠にハマるのだろうか。

サポーターでありムードメーカー

 及川が日曜劇場で演じている役柄を振り返ると、彼の強みが見えてくる。

『A LIFE~愛しき人~』では主人公・沖田一光(木村拓哉)と同じ病院に務める医師・羽村圭吾。『グランメゾン東京』では主人公・尾花夏樹(木村拓哉)をサポートするシェフ・相沢瓶人。『半沢直樹』では主人公・半沢直樹(堺雅人)のために情報を集め、相談に乗る同僚・渡真利忍。『ドラゴン桜』では桜木を学園に招へいし、理事長らから守る高原浩之。

『A LIFE~愛しき人~』で演じた羽村以外は、「主人公をサポートする」という立ち位置の役を演じていることがわかるのではないか。主演を引き立てつつ、物語を次に進めるポジションを演じられることが及川の強みとなっているのだ。

 及川の演技は、存在感を見せながらも、主演を食ってしまうような過剰さがなく、それは木村拓哉、堺雅人、阿部寛という連ドラ界屈指の大物主演俳優をサポートしてきた実績が証明している。

 また、及川は共演者やスタッフに対してあだ名を使うなど気さくに接することで知られ、現場のムードメーカーになれることも大きい。日曜劇場のような大作がそろうドラマ枠は出演者の数が多く、しかも異業界からのゲスト参加もあるが、及川がいることで距離感を縮め、一体感を生み出すことができる。

 もともとアーティストとしての「ミッチー」は、ファンを大切にする優しさと、すべてをセルフプロデュースできる視野の広さで知られていた。そんな優しさや視野の広さはドラマの現場でも発揮され、制作サイドにとっては「ミッチーがいれば安心できる」という心強い存在なのだ。

ファンの熱い応援と番宣での活躍

日曜劇場『半沢直樹』、昨年放送された際には「チャオ」という及川のセリフがファンの間で話題に

 もう1つ、及川の貢献度が高いポイントとして挙げておきたいのは、広報宣伝力の高さ。及川のファンは熱狂度の高さで知られ、しかもファン歴が長いこともあり、「出演作を見るだけでなく、最後まで宣伝し続ける」という人が多い。つまり、強力な顧客を持つ及川は、人気の面でも作品と主演俳優をサポートできるのだ。

 また、連ドラの主要キャストにつきものの番宣出演で活躍できることも評価が高い。ライブ慣れした及川は生放送の情報番組に強く、さらにバラエティーでも王子様キャラなどで笑いを取ることができる。

 TBSにとって日曜劇場は「絶対に失敗できない」という看板枠だけに番宣の重要度は高く、その回数は他のドラマ枠よりも多い。そもそも及川のような番宣出演で盛り上げられる俳優は、バラエティーの制作サイドにもウケがよく、受け入れる側も大歓迎なのだ。

 ここまで、「作品と主演をサポートできる」「撮影現場でムードメーカーになれる」「番宣で貢献して視聴者を増やせる」という及川の強みを紹介してきた。また、主演を張れる技量と人気があるのに、助演をまっとうできることも評価されている理由の1つだろう。

 そのほかにも「さまざまな職業が似合う立ち姿の美しさ」「ひょうひょうとしたキャラクターでシビアな物語をやわらげられる」などの長所もあり、今後も日曜劇場の準レギュラー的な存在として、年1作程度のペースで出演を続けていくのではないか。

木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。