人気児童書原作のアニメ『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』(NHKEテレ)は、子どもだけでなく大人もハマり“ネーミングが笑える”“売っていたら買いたい”“人間が痛い目をみる話が面白い”などSNSでも話題に。ユニークな駄菓子や普遍的な悩みや問題が描かれた、ちょっとリアルで怪しい銭天堂の世界とは――。
『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』とは
幸運な人だけがたどりつける、不思議な駄菓子屋『銭天堂』。店主の紅子がすすめる駄菓子は、その人の悩みにぴったりのもの。でも食べ方や使い方を間違えると……。
偕成社から刊行されている原作の児童書はシリーズ累計300万部を突破! アニメ版は、昨年9月から放送開始、4月から新作を放送中(NHKEテレ毎週火曜午後6時45分~、再放送:毎週土曜午後5時25分~)
5月18日(火曜)放送は「おじょうさまココア」(飲むと上品な話し方、立ち居振る舞いになる駄菓子)
個性的なキャラクターたち
紅子
『銭天堂』店主。店を訪れた客の願いを察して、のぞみの駄菓子をすすめる。結い上げた真っ白い髪に、古銭柄の着物が特徴
金色の招き猫たち
『銭天堂』の工房で、お菓子作りや箱の組み立てなどの仕事をしている
墨丸
紅子が飼っている黒猫。紅子とは言葉が通じる
よどみ
『たたりめ堂』店主。うらみ、ねたみを抱えた人間にぴったりのお菓子を売る。紅子をライバル視する。見た目は少女だが、声がしわがれている
【インタビュー】
『銭天堂』店主、紅子の声を演じる
池谷のぶえが語る作品の魅力――
得体の知れない存在感“ござんす”が助けに
「物語の内容は、リアルで怖さもあって怪しい世界観ですが、絵柄はかわいらしい雰囲気もあってポップ。新しい感覚のアニメと感じています。
原作は、先々の話まではあえて読まないようにしているんです。ですから(アニメ)収録の場で新しい展開を知ることが多くて、収録を毎回楽しみにしているんです(笑)」
紅子は、白髪だがハリのある肌艶や容姿など年齢不詳で謎めいている。役どころの魅力は?
「いったい何歳で、この世にいそうな気もするし、いないような気もする。はっきりわからないことが多くて、想像を持ち続けられるキャラクター。得体の知れない存在感が面白いと思います」
本作で本格的な声優に初挑戦した。
「アニメの映像に声を合わせる作業が独特で、最初はどうしたらいいのかわかりませんでした。声で演技をすることにも慣れていなくて、舞台出身のためオーバーにやりたくなっちゃうけど、そこはキャラクターがあるので抑えつつ加減を調整するのが難しかったです。
最初は自信がありませんでしたが、スタッフのみなさんのお力もあって、放送でできあがった紅子さんを見たときは“案外、上手じゃない!”と思いました(笑)」
紅子の語尾“~でござんす”は特徴的。
「“ござんす”には、不思議な違和感があって、紅子さんや銭天堂の異世界の雰囲気をうまく表現できるセリフで、演じるときに助けられています」
普遍的で心に響く内容とネーミングも魅力的
子どもだけでなく、大人もハマるわけは?
「普遍的なことをひとつずつ丁寧に描いていると思います。大人の主人公もいて、見ている子どもにこんな事情がわかるのかしら? と思うものもありますが、子どもにとっては大人の世界が気になり、大人は自分を省みたりできる。
ピアノの練習が嫌いな男の子が“ミュージックスナック”という駄菓子を食べると演奏が上手になるけれど、結局は練習しないと意味がないんだという話は、私自身にもとても響きました。私もセリフを苦労せずに覚えられたらいいなと思うし、“ミュージックスナック”があったら食べたいです(笑)。(物語を通して)大人になってもクリアできていない悩みや思いに気づいたり、駄菓子のネーミングも含めて魅力的だと思います」
意外性と発見だらけの今後が楽しみ
「(これまで)紅子さんは銭天堂で駄菓子を売るだけだったんですが、(新作では)店の外へ出て走って、さんまの安売りに出かけたりしていて驚きました。ほかにも突然ワープ移動したりします。こんなことまでできるの? と意外性と発見だらけで今後もどうなるのか楽しみです」
池谷さんお気に入り!ふしぎ駄菓子ベスト5
虹色水あめ
(心がきれいになる水あめ)
「言葉(セリフ)も(映像の)見た目もすてきでした」
おもてなしティー
(話し相手が現れて、寂しさを解消できる紅茶)
「大人のドラマ。私の運命の人も出てきてほしいです(笑)」
つりたい焼き
(釣りとおやつが一緒に楽しめるキット
※劇場版『映画ふしぎ駄菓子屋銭天堂』にて登場)
「テレビ版の前に劇場版をやったので印象に残っています。レトロな雰囲気の絵と不思議な世界観がわかって助かりました」
ミュージックスナック
(音楽家になれるスナック)
「練習しないでできると思わない。戒めになりました」
ドクターラムネキット
(白衣と眼鏡をつけて病気を発見、ラムネ薬で治療)
「将来、本当にお医者さんになる壮大なストーリーで好きでした」
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『銭天堂』の舞台裏をQ&A
Q. アニメーションでのこだわりは?
A. 銭天堂へ行ってみたいと思うような店内や、鮮やかな駄菓子の描写、物語の世界に入り込んだ気分になる“いざない感”を大切にしています。
Q. アニメ化のきっかけは?
A. 大人も子どももつい見入ってしまうような新しいアニメを作りたいと思っていました。東映アニメーションさんから企画書をいただき、銭天堂の原作を読むと、紅子さんのいでたちのインパクトやカラフルな駄菓子、先の読めない展開の物語とちょっと怖い世界観にワクワクしました。子どもたちの日常の彩りとなるアニメになればと思い提案しました。
Q. 放送後の反響は?
A. 昨年放送した3話「ホーンテッドアイス」(アイスを食べると、家の中がお化け屋敷に変わる)から視聴率が上がり始めました。小学生が「銭天堂、見た?」「今日は(アニメの放送があるから)早く帰ろう」と話をしているのを聞き、うれしかったです。
銭天堂はどこか本当にありそうな駄菓子屋で、ストーリーにはハッピーエンドもバッドエンドもあり印象的。ちょっと変わったアニメがやっているぞと思ってもらえたのかもしれません。
Q. オープニング曲、エンディング曲について教えてください。
A. オープニングは和テイストで怪しく、でもどこか新しさも感じる曲。エンディングは物語のオチに関係なくすっきり元気になれる曲。いい毒っ気のある宇治茶さんの映像でも世界観を表現していただき、好評です。
Q. 物語の展開は原作どおり?
A. オリジナルのシーンを盛り込むことはありますが、基本は原作どおりです。1話完結が基本ですが、見ごたえのありそうな回は、2話完結の前後編に。昨年放送した「ドクターラムネキット」は原作の読者が選んだ駄菓子ランキングで1位になった人気回でもあり、原作ファンにも楽しんでもらいたいと意識しました。読みごたえのある内容を番組尺の9分にどう昇華させるかの脚本作りには毎回苦労しています。
Q. 紅子の声優に池谷さんを起用した理由は?
A. 不思議だけど現実にいるかもしれないという存在感を表現できる人として、池谷さんが第一候補でした。かわいさや怖さ、さまざまな表情をする紅子さんの艶っぽさを出せる方。原作ファンのお子さんにも「思っていたとおりの声だった」と言ってもらえました。
Q. 新作の見どころは?
A. 昨年放送した20話まででは銭天堂のしくみや紅子さんのバックボーンなどはわからないことがほとんどです。今年度の放送では、銭天堂の舞台裏でもある地下の工房で働く金色の招き猫たちもたくさん登場し、ほかにも対立するよどみとの因縁の訳も明らかになっていきます。
全32話の放送を予定していますが、銭天堂の不思議さ、怪しさ、底知れない世界観にますます想像を巡らせて楽しんでほしいです。
小銭ひとつで不幸にも幸運にもなる銭天堂の世界は、選択や分岐点の連続である人生と同じだと思います。閉塞感を感じやすい現代にあって、銭天堂を通して、子どもたちはもちろん、大人のみなさんにも明日も頑張ろうと少しでも前向きな気持ちになってもらえたらうれしいです。