美容や運動、食事など、若さを保つ方法はいろいろあるが、実はすべて、“脳の働き”が関係していることが発覚! 1万人以上のMRI脳画像とともにその人の生き方を分析してきた脳内科医が、若返る脳の使い方を徹底解説。
いくつになっても、脳は成長させることができる
年齢よりも若く見える人とは、具体的にどんな人だろう。背筋が伸びてシャキッとしている、表情が生き生きしている、いつもおしゃれに手を抜かない、新しいことにチャレンジしている、など、いろいろな特徴が思い浮かぶ。若々しく見せる方法は理解しているものの、実際にまねできるかというと、これが難しい。
「それはすべて、“脳”の働きが関係しています」というのは脳内科医の加藤俊徳先生。
「例えば運動が苦手な人は、運動にかかわる脳機能が衰えています。ファッションに無頓着なら主に視覚系、会話が少ないなら伝達系の脳機能が衰えていると考えられます」(加藤先生、以下同)
やったほうがいいとわかっているのにできないのは脳機能の衰えが原因だった!
とはいえ加齢とともに脳も衰えるんでしょ、と自分を納得させたいところだが、実は年齢と脳機能の低下は無関係。逆に、いくつになっても脳は成長させることができるのだ。
「ただし注意したいのは、40代後半から、脳に老廃物がたまりやすくなる点です」
酸化物質や、認知症の引き金ともいわれるアミロイドβという物質が、脳内に滞りやすくなるのだ。
「これらが脳を老け込ませる原因になります。きちんと排泄することが肝心で、そのために気をつけたいのは大きく2つ。十分な睡眠と脳を使うことです」
睡眠は7時間とるのが理想的。
「老廃物は、昼よりも夜に1・5倍もの量を排泄します。睡眠不足は避けましょう」
また、脳をよく使うと、脳内のネットワークが広がり、新陳代謝が上がる。それにより排泄機能がアップする。
脳育にとって“NO”な行動とは?
「同じことの繰り返しは脳にはダメ。老け込んでいる人の脳のMRIを見ると、使われていない場所が多いことがわかります」
同じような脳作業ではなく、いろいろな角度から脳を働かせることが肝心なのだ。
とはいえ具体的に何をしたらいいのだろう。
「おすすめしたいのは運動。立ったり座ったりするだけでも、脳内では使い方のスイッチが切り替わっています。外へ出て散歩をすれば、視覚系と運動系の脳機能を鍛えることができます」
コロナ禍だから家の中でじっとする、という行為は、脳機能的にはデメリットが大きい。感染対策をしっかりして、家とは違う新しい景色を見つつ、身体を動かすことが大切。
「ちなみに運動するなら朝がおすすめ。寝起きの脳は覚醒していないので、切り替えができておらず、そのままでは1日の脳のパフォーマンスが悪くなりがち。朝に運動をすると、スイッチがしっかり入り、日中、高いレベルで脳を使うことができます」
また、人と会話をすることも大事。
「人と会えば、その表情や服装といった情報が脳に入ってきます。さらに家族とは違う会話の内容や言葉選びが、大きな刺激になります」
そして、日々ワクワクして過ごすこと。
「僕自身も毎日、何かを発見するように心がけています。面白いことを見つけて、それを楽しむ。フレッシュな情報を頭に取り込んで、自分をワクワクさせるようにしているんです」
日ごろから心がけていると、前向きでチャレンジ精神旺盛な、若々しい考え方ができるようになるのだ。
身に覚えない? 脳の老化を促す生活習慣
□イライラすることが多い
□一方的に怒ることが多い
□よく人の悪口を言う
□自己否定をしがち
□「いまどきの若い子は……」と若者を突き放している
□家と会社などを往復するだけの毎日
□夫や友人など、人の言いなりになっている
□昨日の食事の内容を忘れがち
思い当たる項目が多いほど、脳が老化している危険性が! 喜怒哀楽を豊かに表したり、怒らないよう思考をコントロールするなどして、脳を働かせるようにして。
脳の働きは大きく8つに分けられる
先ほどから、運動系や視覚系といった言葉が出ているが、脳は「記憶する」「理解する」など、同じ働きをする複数の神経細胞が集合して 「脳細胞グループ」を作っている。
「私はそのグループを“脳番地”と名づけました」
代表的な脳番地として、思考系、伝達系、運動系、感情系、理解系、聴覚系、視覚系、記憶系の8つに分けられる。脳番地の働きを知ることは、自分のどの脳番地が弱いかを意識することにつながる。
「頻繁に使う脳番地は一生を通じて成長しますが、使わない脳番地は未熟なまま。それを放置していると、加齢とともに衰えていきます。脳内に枯れた脳番地を作らないためにも、バランスよく使うのが理想的です」
人間は、不得手なことは避けて、脳を使おうとしない傾向があるが、不得手なことほど積極的にやってほしいと加藤先生。
「聴覚系が衰えている人は音楽を聴かないし、視覚系が衰えていると美術館は避けがち。今まで避けていた行動を見つけ、マンネリ化から一歩抜け出せるような行動をしてほしいですね」
その際のポイントは、「今はこの脳番地を使っているな」と意識をすること。それにより、より効果的に脳が活性化される。例えば料理をしているなら、思考系や運動系が刺激されているな……という感じだ。
次は、日常でできる脳によい習慣をピックアップ。刺激を受けるほど脳は元気になり、脳さえ元気ならば後半の人生もぐっと充実すること請け合いだ。
8つの脳番地とそれぞれの主な働き
●思考系
思考や意欲、想像力などを司る。人が何かを考えるときに関係する脳番地。
●伝達系
コミュニケーションを通じて、意思疎通をする。言葉を使う言語系と、図形や映像で伝える非言語系がある。
●運動系
身体を動かすことと関係する脳番地。脳の中でもっとも早く成長する。
●感情系
喜怒哀楽を感じ、表現することに関係。生涯にわたって成長し、衰えにくい特徴が。
●理解系
目や耳を通じて得た情報を理解する際に使う。推測して理解するときにも使われる。
●聴覚系
耳で聞いた言葉や音を脳に集積させるために働く。
●視覚系
目で見た映像や画像、読んだ文章を脳に集積させる働きがある。
●記憶系
ものを覚えたり、思い出したりするときに使う。
脳を刺激して若返る習慣8
挑戦は脳にとって最高の栄養素。今までとは違う行動をして、眠った脳細胞をどんどん刺激! 8つの脳番地をバランスよく活性化
(1)階段は1段飛ばしでのぼる
エスカレーターではなく階段を使うだけでも運動系脳番地を鍛えることができるが、さらに1段飛ばしでのぼる挑戦を。普段とは違う動きで、運動系脳番地をより活性化させることができる。足元へ注意を向けるので、視覚系脳番地も同時に働かせられる。
(2)広告を逆から読む
電車やバスに乗ったら、中づり広告を上下左右に逆から読んでみる。逆に読んでいるようでも、脳内ではいったん順方向に読んでいて、記憶をたどっている一面も。脳内での情報処理能力がアップし、記憶系脳番地を刺激することができる。
(3)1つの食材で3つのメニューを考える
例えば「今晩はカレーにしよう」と決めて、スーパーでじゃがいもをカゴに入れたら、そのとき「ポテトサラダと肉じゃが」というふうに、違う料理をさらに2つ考える。これが習慣になると思考系脳番地がスムーズに動くように。献立にも迷わなくなる。
(4)女性は立ち食いそば、男性はパフェを!
ひとりで立ち食いそば店へ行き麺をすすってみる。人目が気になってドキドキしたりいつもと違う行動にワクワクしたりして感情系脳番地が刺激される。その非日常的な体験を誰かに伝えれば伝達系機能もアップ。男性ならカフェでパフェにトライ!
(5)長く着た洋服を捨てる
「これはまだ着られる」「これは流行遅れだから捨てよう」と仕分ける作業は、理解系脳番地を強化。単純作業のようでも、頭の中ではたくさんの情報を整理している。逆に物をため込みがちな人は、理解系脳番地がさびつきやすいので注意を。
(6)家族や隣人の足音に耳を澄ませる
普段、家の内外から聞こえてくる足音を意識して聞いている人は少ないはず。そこで意識的に耳を澄ませ、「これは息子の足音」「これはお隣さんの足音」というふうに聞く習慣をつけて。音を聞いて推測することで、聴覚系脳番地を刺激することができる。
(7)街中で“色探し”をしながら歩く
見慣れた街を歩いているだけでは脳への刺激は少ない。そこで「赤いものを探す」と決めて歩いてみて。「あの看板って赤かったんだ」「赤いチューリップだわ」「店員さんの靴が赤かった」などの新たな発見があり、ワクワクして視覚系と感情系の脳番地が鍛えられる。
(8)両手でお風呂やトイレ掃除をする
右利きなら、ブラシを左手に持って洗うなど、利き手だけでなくもう片方の手も使って掃除をしてみる。運動系脳番地の、新たな部分に刺激を与えることができる。利き手ではない手で歯磨きをするのもおすすめ。
脳を育てる簡単アクション・トレーニング
身体を使うことは、実は脳を使うこと。すき間時間でできる簡単アクションで、若々しく変身を。運動不足を解消しつつ、脳への刺激も!
新聞紙お手玉運動
ポイント
両手で新聞紙を丸める動作は、運動系脳番地を刺激。投げた新聞紙を目で追うことで脳の働きが活発になり、視覚系脳番地も刺激できる。落ちてくる新聞紙をタイミングよくキャッチする動作は思考系がアップする。
(1)左手と右手に1枚ずつ新聞紙を持ち、同時にゆっくりと丸めていく。ボールのようにまん丸に。どちらかの手が止まらないように!
(2)お手玉の要領で、右手の新聞紙を上に投げ、直後に左手の新聞紙を右手に渡す。可能な限り高く投げて、しっかりと目で追う。左手から右手へ新聞紙を渡すときは目で追わない。
(3)落下してきた新聞紙を左手でキャッチする。新聞紙から目を離さず、タイミングよくキャッチを。しっかりつかもうとすることで、思考系脳番地が鍛えられる。
(4)慣れてきたら、(1)~(3)のお手玉運動をしながら足踏みをする。両手両足を動かすことで、視覚系や運動系脳番地が鍛えられる。
8の字スクワット・ストレッチ
ポイント
身体の左右の動きを連動させるので、小脳や運動系の機能がアップ。タオルを目で追い、ももの下でタオルを渡す動作は、視覚系脳番地や空間認知力も高める。身体のゆがみが矯正されるというメリットも。
(1)左手に丸めたタオルを持ち、肩幅より広めに足を開いて腰を落とす。左のももの下でタオルを右手に持ちかえる。
(2)右手でタオルを持ち、右手を前方から頭の上に持っていきながら足を伸ばす。タオルを目で追い、身体を伸ばす。
(3)右手を伸ばしたまま、背泳ぎするように腕を後ろに回し、同時に腰を落とす。右のももの下で、タオルを後ろから左手に持ちかえる。
(4)(2)と同じように、タオルを持った左手を前方から頭の上に持っていきながら足を伸ばす。タオルを目で追い、身体を伸ばす。(1)~(4)を10回繰り返す。
【『週刊女性PRIME』MSNニュース限定配信記事】
教えてくれたのは……加藤俊徳先生●医学博士。加藤プラチナクリニック院長。「脳の学校」代表。脳活動を画像化する脳科学の専門家。1991年、脳活動の計測原理fNIRSを発見。米国ミネソタ大学での研究を経て、医師活動のかたわら1万人以上の脳を分析。メディアにも多数出演。著書に『「成功脳」と「ざんねん脳」』など多数。
(取材・文/樫野早苗 デザイン/島崎幸枝)