猫が大量に不審死する事件が全国各地で相次いでいる。
愛知県名古屋市では今年2月から3月にかけて、同市名東区の公園内にすむ猫が何者かに殺され、警察の捜査が続く。その数、計12匹──。
現場付近には猫のエサの袋が散乱
この公園では猫が増えすぎたため、地域の人から相談された有志が不妊去勢手術(以下、TNR)をするなど活動をしていた。保護活動をしていた女性によると、
「2月5日、公園を管理している人から“数日前に池で猫が死んでいた”と聞きました。実は1月くらいから猫の数が少ないな、と思っていたんです……」
続けざまに、3月6日。園内の池で3匹が浮いていたのが見つかった。
「虐待事件だと思いました。同時に複数の猫が水の中に飛び込むことは考えられません」
すると“最近、死んだ猫を1匹埋めた”との情報も飛び込んできた。この時点で不審な死に方をした猫は5匹に。いずれも虐待とみられる外傷はなかった。
「中にはもとから身体が不自由で片目が見えない猫やTNRを受けたばかりの猫も……」
加害者は動けない猫を捕まえて危害を加えたのだろうか。
気になったのは死体発見現場付近に猫のエサの袋が散乱していたことだ。
「普段、食べさせないような高級なエサの袋ばかりでした。猫たちは人に慣れていましたので、エサでおびき寄せられて殺されたのか……」
エサの袋とともにビールの空き缶も見つかった。犯人は苦しむ猫たちを見ながら酒を飲んでいたのか──。
猫たちに愛情を注ぎ活動してきた女性らは怒りと悲しみで打ちひしがれた。だが、これで終わらなかった──。
「翌日、周辺を探索するとやぶの中からもう2体発見されたんです」(前出の女性)
遺体は四肢がちぎれ、酷い暴行を受けた痕跡があった。
追い打ちをかけるように次々に猫の遺体が見つかった。
「本当は池をさらって全部見つけたい。許せません……」
女性は悔しさをにじませ、憤りを隠さなかった。
口の辺りには何かを吐いた痕跡が
同時期に千葉県でも大量不審死事件が起きていた。
同県袖ケ浦市にある公園内では計6匹が死亡した。
3月19日、マイケルと名づけられていた10歳(推定)のオスの遺体が見つかった。
同公園で保護活動を行うNPO法人『袖猫パトロール隊』の代表者が明かす。
「公園内のすべての猫に名前をつけてTNRやエサをやりながら健康状態を見ています。体調が悪かったり、異変があればすぐに対応しています」
マイケルに変わった様子はなかったという。だが、事件前日、エサの時間に出てこなかった。心配した代表者が付近を探したがいない。翌日も姿を見せなかったため再び探すと、息を引き取った状態で発見された。口の辺りには何かを吐いた痕跡があった。
その日を境にエサの時間に出てこない猫がいた。“おかしい”と思い、付近を探索すると園内からは次々に死んだ猫が発見された。水路からも1匹、変わり果てた姿で発見された。なおも2匹が行方不明になっている。
「何者かが毒物であろうものを食べさせたのではないかと推測しています。事件のあと、公園に来る人がみんな怪しく見えました。猫たちも懸命に生きているのに……」
そう怒りをあらわにした。
猫への虐待は懲役5年以下の実刑も
猫はノラ猫であってもみだりに虐待したり、殺した場合には最大で懲役5年、500万円以下の罰金に処せられる。
「これだけ人間を殺したら重い罪に問われます。ですが、猫だと警察も捜査への重い腰をなかなか上げませんし、司法も動きません」(前出の代表者、以下同)
加害者が逮捕され、刑事事件として起訴されても初犯の場合、執行猶予がつき実刑にすらならないのが現状だ。
「殺された猫の恨みは誰が晴らすんですか」
猫を遺棄する人が後を絶たない。飼い主が不妊手術を怠ったため増えたり、身勝手な理由で捨てられた。その先で疎まれ、人間に虐待され、殺される。
「猫の糞尿などで困り、嫌いになり、危害を加える人もいます。でも危害を加えていい理由にはならない。事件も元をたどれば捨てた人間がいるから起きたこと。すべては人間の問題。猫の不審死事件は猫を捨てた人が殺したも同然なんです。猫を殺しても人間を殺しても同じ犯罪者です」
人間の愚かで無責任な行為が悪意となり猫に向けられる。
「地域の猫の問題はボランティアや行政だけではなくひとりひとりが考えなければならないことです」
無残に奪われた小さな命。その無念な思いが報われる日はきっと来るはずだ。
ノラ猫の不妊去勢手術活動
片耳をカットされてる猫のヒミツ
公園や街中で耳の一部がカットされたノラ猫を見たことがないだろうか。これは飼い主のいない猫が不妊去勢手術(TNR、以下同)が行われたことを示す印。
桜の花びらのようにカットされていることから通称『さくらねこ』と呼ばれている。
手術の全身麻酔中、同時に処置を行うため、出血も少なく、痛みもないという。
「猫の繁殖を防止し、猫に関する苦情や殺処分を減らすため、飼い主のいない猫を捕獲、手術し、元の場所に戻す。『さくらねこTNR』活動が全国で進められています」
そう説明するのは公益財団法人『どうぶつ基金』理事長の佐上邦久さん。同法人は飼い主不明のノラ猫と多頭飼育が崩壊した世帯の猫に対し、TNRが無料で受けられるよう活動している。
保護団体や行政はもちろん、保護活動を行う個人でも利用できる。なぜ猫にTNRが必要なのか。
猫が増えれば憎悪を向けられ、虐待のターゲットにされるリスクも上がる。住民から行政に寄せられる苦情の上位は猫がらみが占めている。
「猫から受けた被害がきっかけで嫌いになる人が多いんです。ですが、手術をすれば猫のおしっこのにおいも少なくなりますし、夜中の盛り声も減ります。子猫も生まれない。地域の問題は解決します」
穏やかに猫と接することができるようになるという。
「それに猫や子どもに危害を加えようとする人が現れても地域の人はいち早く異変に気づけます。猫の世話を通して、地域に目を配っているからです。猫への対応を改善すると地域の雰囲気が変わるんですね」
TNR活動の成果で引き取られる数が減少
その成果は具体的な数字として表れている。保健所に持ち込まれるノラ猫の数も減っているのだ。
2011年全国で8万3585件あった幼齢猫で愛護センターに引き取られた件数は3万4055件('18年度)に。約40%減少した。
「実は殺処分されている飼い主不明の猫の7割ほどが生後間もない子猫なんです」
猫の繁殖力は強く、1回に平均5匹、年に2〜3回出産するという。その子猫は生後4か月で妊娠可能となる。理論上は1年で1匹の母猫から50匹以上に増えるのだ。
だが課題も残る。
「活動が広がるのは非常にいいことですが、団体の負担は増えます。この活動は寄付で成り立っているので、サポーターも募集しています」
猫と人、共生する道は必ず存在している。