※写真はイメージです

 年金は少ないし、コロナだし、先が見えなくて不安……。そんな思いを見透かされ、すすめられるまま外貨建て保険につぎ込み、なけなしの老後資産を失ってしまうシニアが後を絶たない。苦情とセールストークの中身を掘り下げると、意外な落とし穴が見えてきた!

「5年前、うちの母が、銀行のすすめでオーストラリアドル建ての生命保険の契約をしたんです。“あの銀行員にすすめられて損をしたことがないから”って。

 ところが為替相場は下がり続け、1000万円預けたのに現在の価値は約半分に。契約時、母は65歳だったんですが、高齢者にそんなリスキーな商品をすすめるなんてありえませんよね!?

 そう憤慨するのは週刊女性編集部のA。このようにリスクをきちんと説明しないまま外貨建ての生命保険を販売する金融機関のやり方に、多くの怒りの声が上がっている。

相談件数が600件以上も

 国民生活センターによると、外貨建て生命保険に関して全国から寄せられる相談・苦情は、2014年は年間144件だったが、’19年は668件と、わずか5年で4倍以上に膨れ上がった。 

 この事態を金融庁も問題視。昨年2月には主要銀行に対し、「適切な(顧客の)募集が行えないのであれば、外貨建保険の販売を行うべきでない」と、厳しい見解を文書で公表した。

 金融庁の指摘を受けた業界の自主規制などで’20年の相談件数は422件に減ったが、今なおこうしたトラブルが後を絶たない。

預貯金感覚は禁物!

 実際の相談例としては次のようなものがある。

「定期預金として自分のお金1000万円と、妻のお金600万円を預けたつもりだった。最近になって書類をよく見たら、外貨建て生命保険に加入していることになっていた。気づけば夫婦で200万円の損失に」(80代男性)

「80代の父が契約者となっている1000万円一括払いの外貨建て生命保険の証券が届いた。父は“保険に入ったつもりはない”と言うが、保険会社は“契約は成立している”として解約に応じない」

 特に目立つのが、なじみの銀行員にすすめられて外貨建て生命保険に大金をつぎ込んでしまうケース。国民生活センター相談情報部の神辺寛之さんが指摘する。

「定期預金が満期になった、退職金を受け取ったなどのタイミングで担当者に外貨建て生命保険をすすめられると、長く付き合っている相手なので信頼し、安心して契約してしまうようです」

 預貯金感覚で契約してしまい、あとで資産価値が目減りしていることに気づいてあわてる……というわけだ。

「相談件数の半分近くが70代以上の高齢者で、しかも平均契約金額が1000万円前後と高額です。高齢者に十分な説明のないまま額面割れリスクのある商品を売るなど、消費者のニーズに合った提案がなされていないケースもみられます」(神辺さん)

高齢者が狙われる理由

 高齢者が狙われやすい理由について、かつては保険の営業マンとして活躍し、現在は『オフィス・バトン保険相談室』で消費者の相談に応じる後田亨さんは、こう話す。

「若い人より高齢者のほうがお金を持っているし、セールストークを聞くだけの時間もあります。また、金融商品の中身を調べず、担当者の好感度で契約を決めてしまう人が多いからでしょうね」

 そもそも外貨建て生命保険とは、米ドルなど、外国の通貨で保険料の支払いや保険金の受け取りを行う生命保険のこと。

 現在、日本円の普通預金金利は0・001%。銀行に100万円を1年預けても利息(税引き前)はたったの10円。年金も少ないし、これからの生活を考えると、不安でたまらない。なんとか有利にお金を増やす方法はないものか……。

 そんな高齢者の心理をつく形で外貨建て生命保険が販売されているのだ。

セールスマンは嘘をつかない!

 外貨建て生命保険をすすめる際のセールストークとその裏事情について、後田さんに解説してもらった。

「営業マンは、嘘はつかないんです。ただ、正しい知識を持っていない人もいるし、お客さまが聞きたいことだけ話すほうが成約に至りやすい」

※写真はイメージです

 例えば─。

 “日本の預貯金より高い利率の外国債券で運用されます。インフレに備えられますよ”。→実は、債券の利率が高いということは、投資対象の信用度が低いということ。

 ハイリターンをうたうものはハイリスクで、将来価値が大きく目減りする可能性がある。

 “外貨ベースで元本保証します”。→為替相場でその通貨に対して円高になれば、円に換算すると損することに。

「こうした為替リスクなどをきちんと理解したうえで海外の金融商品に投資するならかまいません。ただ、どうせ海外の金融商品に投資するなら、保険ではなく投資信託を選んだほうがいい」(後田さん)

 というのも、外貨建て保険の場合、手数料(保険会社や販売員の取り分)があまりにも大きいから。後田さんによれば、販売手数料だけで一時払い契約では3~7%、月払いだと初年度は年間保険料の数10%もかかるという。

手数料率7%の一時払いだと、保険料を1000万円払ったら930万円からの運用です。20年間の積み立てで初年度の手数料率が50%の場合、それだけで毎年2・5%の費用が引かれる計算です。すると2・5%の利率でも成果はゼロ。有利なはずがありません。投資信託なら手数料が0・5%未満のものがたくさんありますよ」

 業界では苦情の増加を踏まえ、外貨建て保険を販売する金融機関の職員向けの販売資格を創設、資格取得を義務づける方針だが、「根本的な解決につながるか疑わしい」と後田さんは否定的にみる。

保険や投資で後悔しない魔法のキーワード

 外貨建て生保をはじめ貯蓄型の保険をすすめられたとき後悔しないため、営業マンや窓口の担当者にするべき質問があるという。

「まず“1年目の解約返戻率はいくらですか”と聞く。低いほど手数料が取られているということです。ダメ押しで“会社とあなたの取り分はいくらですか”と聞いてみてもいいですね」(後田さん)

契約前に立ち止まって考え、家族やホットラインへ相談を!

 国民生活センターの神辺さんは、トラブルを防ぐため、ひとりで契約を決めないようにすることをすすめる。

「説明をしっかり聞いて、さらに“家族に相談します”といったんクールダウンする時間を設けてください。家族に相談しづらい場合は、契約前に相談を。電話で消費者ホットライン“188(いやや)番”にかければ、最寄りの消費生活センターにつながり、相談することができます」

 すでに親や自分が外貨建て生命保険に加入してしまい、後悔している場合は、どうしたらいいのだろう。

すぐに“188番”へ相談!

「すぐに188に電話して、相談してください。外貨建て生命保険のほとんどは、契約して8日間はクーリングオフ(無条件契約解除)でき、契約成立後も勧誘方法に問題があれば、契約取り消しの検討もできます。ADR(裁判外紛争解決手続)などの検討も可能です」(神辺さん)

 後田さんは「クーリングオフができない場合、よほど悪質なケースでない限り、お金を取り戻すのは困難です」とバッサリ。

「豪ドル相場で激減した母の資産、どうしよう……」と肩を落とす編集Aに、消費生活センターなどに相談しても解決できない場合はどうすればいいのか教えてもらった。

「運用成績がよさそうならそのまま持っていてもいいでしょうが、もともとお金が増えにくい契約の場合、解約するほうがいいと思います。そして、そんな商品をすすめてきた営業マンとは縁を切り、自分で理解できない商品には手を出さないことです」

取材・文/鷺島鈴香〉