対談した原田龍二と錦鯉

 すべてをさらけ出して前に進む漢・原田龍二。彼は今日も自らの過ちを背負いながら、新たな一歩を踏み出している。今回のゲストは、昨年の『M-1グランプリ』に彗星のごとく現れて話題をさらったお笑いコンビ・錦鯉の長谷川雅紀、渡辺隆の両名だ。遅咲きのおっさん芸人としてお茶の間をにぎわす彼らにはどんな反省があるのか、原田が迫る──。

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原田 今日はよろしくお願いします! ご存じかわからないんですけど、僕は2年前に女性問題で不祥事を起こして、今も反省の真っ最中なんです。

錦鯉 (苦笑)

原田 この連載のテーマも“反省”なんですけど、錦鯉のおふたりに反省材料があるのかわからなくて……。だって今、飛ぶ鳥を落とす勢いじゃないですか。もしかして、長谷川さんの反省は奥歯がないことですか?

長谷川 それは大反省です! 歯磨きをするのも歯医者に行くのもめんどくさくて、結果的に歯が8本なくなりました。

渡辺 8本目はライブ中に飛んでいきましたからね。

長谷川 そうなんですよ。今は仕事で食べ物の“丸呑み”をテレビで披露する機会が増えてます。でも先日、母親から電話がかかってきて「あんた、丸呑みは芸じゃないからね!」と怒られちゃいました。

原田 普通はできないから“丸呑み”は芸だと思います! とはいえ、消化器系に悪いですから、気をつけてくださいね。ちなみに、渡辺さんは反省と聞いて何か思い浮かびますか?

渡辺 今ずっと考えてたんですけど、さしあたって思いつかなくて。逆に21年間芸人続けてこられたのはまっとうに生きてきたからかな、と思ったり……。

原田 やっぱり! どうしてここに来ちゃったんですか!

家賃もろくに払えず……

長谷川 僕は奥歯以外もありますよ! 北海道から上京後、立川にある家賃3万円の安アパートに住んでいたんですけど、長期間家賃を滞納してました。家賃は大家さんに直接手渡しするシステムだったのもあって1年間やりすごして……。

原田 それは長いですね! 大家さんは怒ったんじゃないですか?

長谷川 怒鳴り込んできました。ある日、玄関をノックされてドアを開けたら、大家さんが立っていて「こっちだって慈善事業でやってるわけじゃないんだからな!」って怒鳴られましたね。ドラマでしか聞いたことないようなセリフでしょ。

渡辺 ドラマでも聞いたことないよ(笑)

原田 あははは!

長谷川 そのときは払える分だけ家賃を払いました。でも、また滞納しはじめて、僕の部屋の前で大家さんが待ち伏せするようになっちゃったんですよね。大家さんがいなくなるまで外で時間をつぶしてから帰宅してました。

渡辺 その生活のほうがお金を払うよりめんどくさそうですよね。

長谷川 でも、半年を超えていよいよヤバくなってきたときに大家さんが病気で倒れられたんです!

原田 おお! ラッキーだと思った?

長谷川 ラッキーだったんです!

渡辺 やめなさいよ!

対談した原田龍二と錦鯉

長谷川 ラッキーと思いながら滞納したら、1年たってましたね。でもその後大家さんは元気になっちゃって、最終的には芸人や先輩に30万円以上借りて滞納分を支払いました。

原田 元気になっちゃったか〜。

アパートからも立ち退き

長谷川 それはいいんですけどね、解せないことがあるんです。そのアパートは後に老朽化で取り壊されるんですけど、オーナー都合で立ち退くときはお金を受け取れると聞きましてね。

原田 新居を用意してくれたりしますよね。

長谷川 そうですよね。でも僕のときはお金がもらえなかったんですよ! 最後に残った唯一の住人だったのに……。

原田 そりゃそうですよ! さんざん逃げ回っておいて(笑)。

渡辺 虫がよすぎますよね。

原田 でも、そういう話を聞くと'80年代っぽくて懐かしさを感じますね。

二人の出会いは

原田 おふたりはどういう経緯でコンビを組んだんですか? 年齢も離れているし、出身地も全然違いますよね。

渡辺 同じ事務所で昔から知り合いでしたが、お互い別のコンビを組んでました。僕は前のコンビを解散してピン芸人をしていたのですが、鳴かず飛ばず。そんなときに雅紀さんのコンビも解散したと聞いて「一緒にやりませんか?」と僕から誘ったのがはじまりですね。

長谷川 僕は当時40歳で「キリもいいしお笑いを辞めようかな」と思っていたタイミングでした。でもせっかく隆に誘ってもらったので、軽い気持ちでOKしましたね。その結果、今年で結成10年目になります。

対談している原田龍二と錦鯉

原田 苦節9年だったんですね。でも、昨年の『M―1』に出たときの錦鯉のインパクトはすごかったですよ! 何より長谷川さんの白スーツに目を奪われました。

白のスーツ姿が「バカみたい」で

長谷川 このスーツは隆が選んでくれたんですよ。

渡辺 ふたりでスーツを作りに行って、雅紀さんが白を着たときがいちばん面白かったんですよ。「バカみてえだな」と思って(笑)。

原田 あはは! もはや長谷川さん=白スーツというイメージが定着してますよね。

渡辺 やっぱりライブでいちばんウケるのは、雅紀さんの人間的に“バカ”な部分なので、それを際立たせる衣装を選びました。ネタも雅紀さんのよさをクローズアップしてます。

原田 長谷川さんご本人は、自分の魅力に気づいていたんですか?

長谷川 まったくわからなかったですね! 僕は頭の中でシミュレーションできないタイプなので、まずは隆にアドバイスされたことをやってみるんです。そのアドバイスどおりに動くとライブでウケるので、「これでいいんだ」と実感するという経験を積み重ねて今に至ります。

お互いを認め合う関係

原田 渡辺さんは、演出家でありプロデューサーなんですね。

渡辺 そうかもしれないですね。でも、雅紀さんの人間的にすごいところは、7歳も下の僕のアドバイスをすんなり受け入れてくれるところだと思います。そうでなければ9年間もコンビを続けられなかったと思います。

原田 すごくバランスがいい関係を築いてるんですね。お互いを認め合っている感じがします。僕の場合は、自分で自分をプロデュースしなきゃいけないから、おふたりの話は新鮮です。

長谷川 原田さんはどんなセルフプロデュースをしてるんですか?

原田 僕は昨年50歳になって、長くても20〜30年の命なので「どれだけ楽しく生きられるか」を重視してますね。仕事も工夫して楽しむようにしてます。

渡辺 どんな工夫をしているんですか?

原田 例えば、旅番組で地方に行く場合は、極力ロケ場所に関する知識を入れずに臨みます。温泉ロケなら本番までは入浴予定のお風呂は見ずにいて、本番のときに初めて見るんです。事前にいろいろわかってると、本番でリアクションがわざとらしくなるのがすごく恥ずかしいんですよね。変な汗かいちゃう。

本当の反省点に気がつきました

長谷川 確かに自分も台本どおりにリアクションしてるときは、ちょっと恥ずかしさを感じてます。でも、何も知らずに行くのってすごく怖いですよね!?

原田 本来は怖いですよね。ただ、僕は若いころに『世界ウルルン滞在記』というドキュメンタリーによく出ていたんですけど、その番組はすべてぶっつけ本番だったんです。現地の人との交流もやることなすことすべて初めてで、僕が本気で困っているところを撮影するスタイル。そのせいで自分が初めての体験に戸惑うのが“快感”になっちゃったんですよ。

 一方で役者の仕事では監督によっては一挙手一投足指示どおりに動かないとOKが出ない場合もある。役者は基本的にはがんじがらめなので、ある程度フリーなバラエティーや旅番組では自由を楽しませてもらってます。実はバラエティーの台本はあまり読んでないんですよ。

錦鯉 え?

原田のマネージャー そうなんです。全然読んでないんですよ!

一同 (爆笑)

渡辺 自分はめちゃくちゃ読み込んでますね……。でも、原田さんの仕事の姿勢には憧れますね。なにかすごく……大切なことを思い出させてもらいました。

長谷川 うん……。俺たち、自分が楽しむことを忘れてたよね。

渡辺 今わかりました。僕らの反省は仕事を楽しむのを忘れていたことです!

長谷川 でも、もう一回リベンジしたいので来年も呼んでください! それまでに何か反省点作ってきます。

原田 いつでも来てください! とはいえ、何もやらかさないのがいちばんです(笑)。

本日の、反省】錦鯉さんには初めてお会いしたのですが、開始数分でおふたりの人のよさと仲のよさが伝わってきました。片方の才能におんぶに抱っこではなくて、お互いに足らない部分を補い合いつつ、いい化学反応を起こしているコンビ。最近の若手お笑い芸人の人たちはスタイリッシュだけど、錦鯉は真逆ですよね。年齢が醸し出す泥臭さと潔さが、今の時代では逆に新鮮に映っているのかも。とてもすてきなおふたりでした。ぜひまた来てください!

長谷川雅紀(はせがわ・まさのり)渡辺隆(わたなべ・たかし)●2012年結成。2020年、長谷川49歳、渡辺42歳のときに『M-1グランプリ』決勝進出を果たした。ファイナリストとして最年長記録を更新。2021年『ナイツ ザ・ラジオショー』出演をきっかけに漫才協会に入会。全身全霊を懸けたおバカな長谷川のボケと、シンプルながら鋭い渡辺のツッコミが人気。
原田龍二(はらだ・りゅうじ)●1970年、東京都生まれ。第3回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで準グランプリを受賞後、さまざまな作品に出演。司会者として『バラいろダンディ』(TOKYO MX)金曜日を担当。芸能界きっての温泉通、座敷わらしなどのUMA探索好きとしても知られている。現在、YouTubeチャンネル「原田龍二のニンゲンTV」を配信中!

《取材・文/大貫未来(清談社)》