ワクチン接種がスタートしたとはいえ、まだまだマスクの常時着用が基本の世の中だ。しかし、こと認知症に関しては、さまざまな悪影響も指摘されている。
「マスク認知症」は高齢者だけの問題ではない
「認知症患者は、そもそも顔の見分けや表情を読み取ることが苦手。マスクで相手の顔が見えづらいと、誰にケアされているのかがわからず混乱や不安を引き起こし、症状が進む可能性も」
と、話すのは金町駅前脳神経内科の内野勝行先生。また、高齢者施設では家族との面会を制限する施設も多く、家族とのコミュニケーションそのものが激減している。仮に家族と会えたとしても、マスク着用が必須だと、高齢者が家族と認識できないケースもあるという。さらに会話や笑顔が減ることで免疫力の低下、脳の活性も鈍化して症状の進行が危惧されている。
ここで知っておいてほしいのが「マスクと認知症」は高齢者だけの問題ではないということ。長引くマスク生活のなかで「気がついたら口が開いてる」という人も多いのではないだろうか。これは、無意識に口呼吸をしているサイン。この口呼吸が脳の老化を加速させると語るのは、『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』(かんき出版)の著者で日本有数の認知症専門医である長谷川嘉哉先生。
諸悪の根源、口呼吸
「口呼吸を続けると口腔内が乾燥しやすくなり、食べかすが歯にこびりつき落ちにくくなります。するとそれをエサにして口内細菌がたちまち増殖し、歯周病を引き起こす。
歯周病菌は脳の老化を加速させることで知られていますが、強力な浄化液である唾液の分泌量が乾燥によって減ってしまうのもまた、大きな問題なのです」
と警鐘を鳴らす。認知症患者の口の中は、
「まるでゴミ屋敷のように汚れていることが多いですね」(長谷川先生、以下同)
唾液の分泌量が減るということは、口腔内が浄化できずに口内細菌の増殖をさらに促進させることにつながる。
また、口呼吸が習慣化している人は、鼻呼吸の人に比べて、脳の前頭葉の活動が休まらず、慢性的な疲労状態に陥りやすいという(佐野真弘歯科医師との共同研究による)。
「口呼吸による前頭葉の機能低下は認知症につながります。通常、認知症における脳の機能低下は前頭葉から始まり、そこから徐々に側頭葉機能の低下を招くのです」
現在、日本の認知症患者は462万人いるとされているが、その前段階の前頭葉低下(早期認知症)と診断されている人はさらに400万人いると推定されている。つまり、口呼吸を続けていると、認知症予備軍になる可能性が高いということだ。
このようにマスク生活によって引き起こされる口呼吸が、脳を老化させる大きな原因のひとつと考えられるのは間違いない。
そこで、今日からできる脳の老化を止める3つの方法を長谷川先生に教えてもらった。なかでも諸悪の根源である口呼吸から、人間本来の鼻呼吸に戻してくれる舌先を意識的に正しい位置に置く「舌ポジション」はぜひ覚えておきたい。
認知症の発症を少しでも遅らせるために、コロナ禍のマスク生活の中で、これらを日々の習慣にしよう!
認知症にならない3つのポイント
【1】舌ポジションを直して口呼吸に!
《舌ポジションをCHECK!》
舌ポジションが間違っていると口呼吸になりやすい。
【○】 舌先が上の歯の付け根あたりにある。
【×】 舌先が前歯の裏側に当たっている、あるいはどこにも触れていない。
口を閉じたときに、舌先が上あごの真ん中にある「スポット」と呼ばれる浅いへこみに収まるのが正しい位置。
【2】歯磨きは1日5分間に!
《歯磨きのポイント》
1日1回は丁寧に5分かけて歯を磨く。
■両手磨き……利き手とは逆の手も使い、歯を磨けば、磨き残しが減る。ちょっとした脳トレにも!
■斜め45度磨きを習慣にする……歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目に向けて45度の角度に斜めに当てることを意識する。
■歯間ブラシを使う……0.5~2mmの中で、小さいサイズから試して自分に合ったものを選ぶ。
・I型歯間ブラシ……前歯に使いやすいタイプ
・L型歯間ブラシ……奥歯に使いやすいタイプ
【3】舌まわしで口内を洗浄!
《舌まわしのやり方》
強力な浄化剤である唾液を分泌させるこのやり方がおすすめ。
唇を閉じた状態で、舌先で前歯の表面をなぞるようにぐるぐると円を描く。右回り、左回りを各20回×1日3セットが理想的。
【『週刊女性PRIME』MSNニュース限定配信記事】
教えてくれたのは……長谷川嘉哉先生
名古屋市立大学医学部卒業。医学博士。毎月1000人の認知症患者を診察する、日本有数の脳神経内科、認知症の専門医。自らのクリニックにも歯科衛生士を常勤させるなどし、認知症の改善、予防を行い、成果を挙げる。
(取材・文/松岡理恵)