「もう風邪ですよ、これ」
それは日本からはるか遠い地中海から発信された。
「ちょっとコロナよくないすか? もうあんまり神経質になることやめないですか?」
声の主はGACKT。移住したというマルタ島の自宅から5月14日に配信した動画で、新型コロナウイルスに対する持論を展開した。
彼と同じく、“コロナは風邪”と唱える人たちは、昨年渋谷駅前で“ノーマスク集会”を開いたグループなど日本に一定数いるし、それは海外も同様で、かのトランプ前アメリカ大統領もその1人だ。
「死者の数で考えたら、インフルエンザのほうが圧倒的に危険なんですよ」
GACKTはそう主張したが、根拠はあるのだろうか。医師に“GACKT説”を検証してもらった。
「インフルエンザの死亡者数は年間3000人程度。人口割合でいうと、死亡率は欧米も日本もだいたい同じくらい。死亡者“数”が前年の新型コロナと前々年のインフルエンザで同じくらいだったことで、日本でも欧米でも、このように考える人が出てきました。しかし、インフルエンザとコロナはまったく違うものです」
若い人も死亡するリスク
そう話すのは、新潟大学名誉教授で、医療統計の第一人者と呼ばれる医学博士の岡田正彦先生。
「死亡率を比較すると、インフルエンザは高齢者の死亡が圧倒的に多い。年齢層で分けてグラフにすると、高齢者で跳ね上がるようなカーブを描くものになります。一方、新型コロナの死亡率も高齢者が高いですが、そのグラフはほぼ直線を描きます。これまで日本では“基礎疾患のある高齢者が危ない”と言われ続けていますが、それは違い、“若い人も危ない”ということです。この点だけでも人間に与える影響が、コロナとインフルエンザではかなり違っていることがわかります」(岡田先生、以下同)
日本のインフルエンザの感染者数は、コロナ前の推計で毎年1000万人程度だ。
「死亡者数は3000人程度なので、インフルエンザの死亡率は0・03%になります。一方コロナでの死亡率は、5月19日時点の全国の感染者数の累計と死亡者数から算出すると、1・7%になります。0・03%と1・7%なので、コロナのほうがケタ違いに死亡率が高いことがわかります。したがって、風邪やインフルエンザと同じでは決してないのです」
コロナの日本での第1例は昨年の1月。現時点で16か月が経過していることになる。
「新型コロナ感染者は今のところ約70万人です。昨年1月からコロナに感染した人を1か月あたりで換算すると、インフルエンザの感染者と比較して非常に少ない数字になります。インフルエンザは季節性で、感染はほぼ1月から3月に起こります。つまり3か月で1000万人となるので、インフルエンザのほうが圧倒的に感染しやすい。
対して新型コロナは、他人と飲食さえしなければ、ほぼ感染しないと考えていい。個々人での予防が可能と言え、それが救いでもある。つまり、インフルエンザとコロナはいい面と悪い面、両面で同じではない。同じと言ってはいけない病気です」
GACKTは動画で、コロナ患者を扱える指定病院が少ないため、それ以外の病院が潰れる事態が急増。友人たちが病院を「買いまくって」おり、“闇”だとも話しているのだが……。
中国が医療破綻しなかったワケ
「指定病院については世界中同じですね。こんなことを想定して病院を作っているわけではないですから。日本は感染症対策のベッドが少ないんじゃないかと、去年からずっと言われてきましたけど、ベッドをたくさん用意しても普段は患者がいませんから、それこそ病院経営が成り立たない。
また、昔から倒産しそうな病院はありますし、今現在でも、コロナ以外で専門的な治療を求めて患者さんが集まっている病院もあるので、数軒見ただけでそんなことを言うのはよくないと思います」
ただ、入院できないなど、たしかにコロナ患者の受け入れ先については問題がある。
「中国の武漢では、無症状の人や軽症の人のための施設をたくさん作りました。そして本当に重症の人だけを相応の病院に送った。そういった病院はたくさんあるわけではないので、そこには全国から応援の医師、看護師が駆けつけた。そういったバックアップをしっかり作ったために医療がほぼ破綻しないですみました。
日本でも、無症状の人や軽症の人を収容する施設を作る必要があったんです。それなのに、現在まで動いてこなかったために、軽症の人まで入院させてしまったり、一方、病院に入れず自宅待機するしかなくなり、結果的に自宅で亡くなるということが起こった。医療機関がどうこうという話ではなくて、バックアップの発想が日本になかったということです」
怪しい仮想通貨騒動、ROLANDとのアパレルブランド“パクリ”騒動、愛犬譲渡騒動、そして「コロナは風邪」発言……。このところやることなすこと炎上続きのGACKT。彼の名を世に知らしめたバンド『MALICE(マリス) MIZER(ミゼル)』でも“失踪騒動”から1999年に脱退に至ったが、同年に急逝したドラムのKamiは、GACKTの脱退時、ファンクラブ会報誌で、明らかに彼を差して次のように述べていた。
《世の中には自分の為だったら、何をしてもいいのか 何を言ってもいいのか、自分のことすら解ってない様な人と今まで一緒に手を組んで頑張ってきた自分が憎い。(中略)因果応報というものは必ずある。自分達の愛する音楽に、偽りや嘘をつきたくない。》
GACKTなりに信念があるのかもしれないが、結果的にその言葉、その行動が“偽りやウソ”となってしまうことが続いている。因果応報は果たして……。