伊藤健太郎

 昨年10月にひき逃げ事故を起こして芸能活動を自粛していた伊藤健太郎。先日、TBS系『新・情報7daysニュースキャスター』の取材に答えるも、まるで他人事のような受け答えに、視聴者からはさらなる顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまった。そんな伊藤に請求された “違約金”は7億9000万円にものぼると報じられている。インタビューでは返済について「働いて…」と言葉を詰まらせていたがーー。

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CM15秒の料金はいくらか

 7億9000万円――。

 昨年10月に道交法違反(ひき逃げ)などの疑いで逮捕され、今年3月に不起訴処分となった俳優の伊藤健太郎(23)が、CMのスポンサーなどから請求された違約金として報じられた合計額である。

 平均的なサラリーマンの生涯収入は2億5000万円程度だから、莫大な金額だ。とはいえ、これを超える違約金の額もある。薬物事件で逮捕され、有罪が確定した女優は、約10億円に達したと言われている。

 伊藤の場合、後に7億9000万円からやや減額されたという。それでも数億円単位であるのは間違いない。なぜ、違約金はこんなにも高額になるのか。

 その理由はCMにある。本業ではやりたい仕事を選び、CMで高収入を得るというのが芸能人の理想像であるものの、一方でCMには人生を暗転させかねない危険が潜んでいるのだ。

 まず、CMの契約書には違反行為が記されている。その行いをしたら、契約解除となり、違約金が発生する。

「犯罪はもちろん、反社会的行為や不倫などの反道徳行為もしてはならないことになっています」(芸能プロダクションCM担当者)

 簡単に言うと、CMが流せなくなるようなことはしてはならないというわけだ。

昨年10月30日、釈放され報道陣の前に現れた伊藤健太郎

 では、なぜ違約金が発生するのかというと、伊藤が逮捕された時点でスポンサーはCMを流せなくなってしまった。だが、スポンサーは既にテレビ局からCM枠を買ってしまっていた。まず、この補償を迫られる。

 伊藤に限らず、昨年1月に唐田えりか(23)との不倫が報じられた東出昌大(33)や同6月に一般女性との不倫が露見した渡部建(48)もみんな同じだ。

 在京キー局のCM枠の料金はいくらかというと、番組と番組の間に流れるスポットCMの場合、15秒で約30万から約100万円。金額に幅があるのは、局や放送時間帯によって料金に違いがあるためである。

 この金額なら、そう高額ではないものの、CM枠は1本単位では売り買いされていない。しかもスポンサーは同時期に各局でスポットCMを流すケースが多いので、合計数百本単位になることが多い。仮にスポンサーが買っておいた30万円のスポットCM枠が100本無駄になったら、3000万円になってしまう。

 しかも逮捕前の伊藤は日の出の勢いで、昨年上半期(1月~6月)はマルハニチロや三井住友銀行など14社とCM契約を結んでいた。その数は広瀬すず(22)、橋本環奈(22)に次ぎ、3位だった。このため、無駄になったCM枠は途方もない金額になったはずだ。

 スポンサー1社につき買ってあったCM枠が3000万円分あり、14社で無駄になったら、4億2000万円。実際に無駄になったCM枠の料金と本数は違うだろうが、違約金の中で一番大きいのがCM枠の補償なのは間違いない。

 無駄になったCM枠では代わりにACジャパンのCMが流れる。ただし、あくまで空いたCM枠を埋めるだけだから、スポンサーに料金が返還されるわけではない。

 CMに登場している芸能人が法や道徳に反する行為におよぶと、難民援助や動物愛護などを訴えるACジャパンの道徳的なCMが流れる。なにやら皮肉な仕組みである。

再起はそう簡単ではない

 小売店や街頭に貼られたポスターの撤去費用も請求される。また、よくデパ地下や大型スーパーで行なわれる新商品キャンペーンの中止が余儀なくされたら、その損失も請求される。

「損をさせた分、何から何まで請求されると思って間違いありません。その芸能人が所属する芸能プロが大きかろうが、小さかろうが、そんなことは関係ない。スポンサーとしては高いギャラを払って宣伝しようとしているのに台なしにされるわけですから、一切、同情してくれません」(前出・芸能プロCM担当者)

 芸能プロとスポンサーの間には広告代理店が入る。違約金の一部を負担してくれないのだろうか。

「広告代理店は仲介料を(契約金の)15%得ているだけだから、そんなことはしてくれません。本人や芸能プロ側の肩を持つことは一切ない」(同・芸能プロCM担当者)

昨年12月3日、都内で行われた謝罪会見で問い詰められ、天を仰ぐ渡部建

 違約金支払いの義務が生じるのはあくまで本人。伊藤や東出、渡部らだ。とはいえ、金額が数億円となると、支払えるはずがなく、所属芸能プロが立て替える。

「だからCM契約に慣れた芸能プロは生活態度が浮ついていると判断した若手芸能人にはCMを入れません。話があっても本人に伝えない。本人が問題を起こしたら、こちらが立て替えることになるのですから。それだったら、マネージメント料をフイにしたほうがマシなんです」(同・芸能プロCM担当者)

 なにしろ違約金約10億円とされる前例もあるのだから、CM契約に慣れた芸能プロは慎重になる。

「立て替えた違約金がのちに返済されればいいが、不祥事を起こした芸能人の再起は簡単ではないのですから」(同・芸能プロCM担当者)

 よく芸能人のCM契約金のランク表というものが報じられるが、実際にはランク表なるものは存在しない。芸能人のCMの契約金は契約によって違うからだ。考えれば分るものの、数百円のお菓子と高級乗用車の広告予算が同じはずはない。すると、同じ芸能人であろうが契約金は違ってくる。

「違約金の目安は契約金の2倍から5倍」(同・芸能プロCM担当者)

 CMが多い芸能人ほど身ぎれいにしておかないと落とし穴に落ちてしまうわけだ。

高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立