高学歴ジャニーズ(左上から時計回りに)櫻井翔、伊野尾慧、菊池風磨、マリウス葉、加藤シゲアキ、阿部亮平

 近年、いわゆる有名大学や難関大学に進学する「高学歴ジャニーズ」が増えている。テレビのクイズ番組や教養番組などにも、そうしたジャニーズが出演するケースが目に付くようになった。

 その理由は、なんなのだろうか? 「高学歴ジャニーズ」のシンボル的存在である櫻井翔や彼に続く世代の活躍にふれながら、考えてみたい。

「高学歴ジャニーズ」のパイオニア、櫻井翔

 この春から広瀬すずと共演の新ドラマ『ネメシス』(日本テレビ系)が始まった櫻井翔。ほかにも『櫻井・有吉 THE夜会』(TBSテレビ系)、『1億3000万人のSHOWチャンネル』(日本テレビ系)と2本の冠バラエティ番組を持つなど、いま勢いを感じさせるジャニーズのひとりだ。

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 なんと言っても、他のジャニーズにはない彼の強みは、ニュースキャスターとして実績を積んできたことだろう。『news zero』(日本テレビ系)での落ち着いたキャスターぶりはすっかりおなじみだ。そんな櫻井翔は、慶應義塾大学経済学部を卒業した知性派ジャニーズの筆頭であり、近年台頭著しい「高学歴ジャニーズ」のパイオニア的存在である。

 ここでジャニーズと学歴の関係に注目してみると、面白い事実に気づく。

 櫻井翔が、嵐のメンバーとしてCDデビューしたのは1999年11月。つまり、2000年代に入る直前のことだった。

 ジャニーズの学歴事情は、この2000年頃を境に一変する。それまでは、平たく言うなら、ジャニーズにとって高い学歴は不要なものだった。実際、たとえば1980年代デビューのたのきんトリオ、シブがき隊、少年隊、光GENJI、男闘呼組、1990年代デビューのSMAP、TOKIO、V6、KinKi Kidsといったなかに、大学を卒業したメンバーは見当たらない。

 確かに、一般論として考えてみても、芸能の道を究めるうえで学歴は必須なものではないだろう。「学校の勉強が嫌いだから芸能界に入った」というのはバラエティ番組でも聞く常套句だが、その点芸能界全般に昔からそういう価値観があり、ジャニーズだけが特別なわけではなかった。

 ところが、嵐がデビューして活躍し始める2000年代以降、大学に進学する「高学歴ジャニーズ」が徐々に増え始める。

 櫻井翔は、その先駆け的存在である。ジャニーズJr.時代から仕事よりも学業を優先し、試験のひと月前から仕事も休んでいた彼は、当時はまだジャニーズのなかでも異色の存在だった(嵐『アラシゴト』)

 そして2000年4月に慶應義塾大学に進学し、2004年3月に卒業。さらに2006年10月からニュース番組『news zero』(日本テレビ系)の月曜キャスターに就任した。ほかにも国政選挙の開票番組に出演するなど、いまや報道番組でおなじみの顔になっているのは、先ほども述べた通りだ。

「一般の若者」と変わらない生き方を選べるように

 ジャニーズの歴史で言うと、櫻井翔は、いわゆる「ジャニーズJr.黄金期」を担ったひとりである。

 1990年代後半、ドームコンサートを開催し、テレビで冠バラエティ番組を持つなど、滝沢秀明らを中心としたジャニーズJr.の人気が沸騰した。このブームをきっかけに、ジャニーズJr.というジャニーズ独特の仕組みも世間に広く知られるようになった。その意味で、「ジャニーズJr.黄金期」は、ジャニーズというもの自体の存在を、ファンでなくとも身近に感じるようになる大きなきっかけでもあった。

 その流れのなかで、ジャニーズの側にも変化があった。ジャニーズがより世間に近い存在になり、ジャニーズのタレントも、芸能一筋というよりも一般の若者と変わらない生きかたを選べるようになった。

 そのひとつの表れが、大学進学という選択だったと言えるだろう。大学進学率は、2000年代前半に40%を超え、2000年代の終わりには50%にまで達している(「学校基本統計」より)。そうした2000年代以降の世間の高学歴化の流れに、ジャニーズも従い始めたのである。

 実際、櫻井翔以降、「ジャニーズJr.黄金期」のメンバーや2000年代のCDデビュー組のなかに大学進学組が目立ち始める。

 2004年には、山下智久が明治大学商学部に入学、08年に卒業した。また、同じNEWSのメンバーとして、2003年にCDデビューした小山慶一郎と加藤シゲアキも大学進学組だ。

 小山慶一郎は、2003年明治大学文学部に入学。2007年の卒業時には、芸能活動と学業の両立が評価され、「模範卒業生」にも選ばれた。彼もまた、櫻井翔と同様、知性派の強みを活かし、『news every.』(日本テレビ系)のキャスターなど報道番組に出演した。

 加藤シゲアキは、2010年に青山学院大学法学部を卒業。その後、『ピンクとグレー』で小説家デビュー。2020年には『オルタネート』で直木賞候補にもなり、大きな話題を呼んだ。執筆活動のほか、情報番組『白熱ライブ ビビット』(TBSテレビ系)ではコメンテーターを務めるなど、小山とともにいまや知性派ジャニーズの代表格である。

 また伊野尾慧も、大卒の経歴を存分に活かしているジャニーズのひとりだ。Hey! Say! JUMPで2007年にCDデビューした伊野尾は、2009年明治大学理工学部建築学科に入学、2013年に卒業した。ジャニーズアイドルでありながら大学で建築を学んだという意外性も相まって、「図面を引けるアイドル」として、世界的建築家・隈研吾と共演するなど建築関連の番組でその姿を目にするようになっている。

 多くなるので全員の名前を挙げることはしないが、ほかにも情報番組『シューイチ』(日本テレビ系)で長年コメンテーターを務めるKAT-TUNの中丸雄一(早稲田大学人間科学部卒)など、2000年代にはジャニーズグループに多くの大学進学組がいるようになった。2010年代以降のCDデビュー組でも、Sexy Zoneの中島健人(明治学院大学社会学部卒)、菊池風磨(慶應義塾大学総合政策学部卒)、マリウス葉(上智大学国際教養学部在学中)など、その傾向は続いている。

ジャニーズ史上初の「院卒」も

 そうしたなか、最近は“新世代”の高学歴ジャニーズも登場しつつある。

 その中心的存在は、2020年にCDデビューを果たしたSnow Manのメンバーである阿部亮平だ。ジャニーズJr.時代、受験のため一時活動を休止。その後2012年に上智大学理工学部に入学し、卒業後大学院に進学した。大学院を修了したのは、ジャニーズ史上初めてのことである。2015年には、難関の気象予報士試験にも合格。こちらもジャニーズ初となる快挙だった。

 こうして「インテリジャニーズ」としてその名を知られるようになった阿部亮平は、『ザ・タイムショック』(テレビ朝日系)、『東大王』(TBSテレビ系)など、有名クイズ番組にたびたび出演し、好成績をあげている。

 また、この阿部の台頭に引っ張られるように、ジャニーズJr.の「高学歴ジャニーズ」もしばしばクイズ番組に登場するようになっている。たとえば、2021年3月29日放送の『クイズプレゼンバラエティーQさま!!』(テレビ朝日)の特番には、ジャニーズJr.の公式エンタメサイト「ISLAND TV」のなかの企画で結成された「ジャニーズクイズ部」の面々が出演した。

 出演した部員は、阿部亮平に加え、青山学院大を卒業し、宅地建物取引士の資格も持つ川島如恵留(Travis Japan)、慶應義塾大学経済学部在学中の那須雄登と立教大学法学部在学中の浮所飛貴(いずれも美 少年)、早稲田大学創造理工学部卒業後同大学院に進学した本高克樹(7 MEN 侍)、国公立大(大学名は非公表)に通う福本大晴(Aぇ! group)の計6名。現在は、彼ら個々でも、クイズ番組や情報番組への出演が増えつつある。

「高学歴ジャニーズ」活躍の背景

 新世代の「高学歴ジャニーズ」の特徴は、このようにクイズ番組を中心に活躍が見られるところだ。

 その背景には、知識や知性がエンタメの中心的要素になっている、いまのテレビのトレンドがある。伊沢拓司らをはじめとした「東大生タレント」の活躍ぶりは、その端的な例だ。また京都大学出身のロザン・宇治原史規や同志社大学出身のメイプル超合金・カズレーザーのような「高学歴芸人」の存在も同様だ。

 歌とダンスだけにとどまらない、ジャニーズのマルチタレント化は、1990年代以降SMAPらの登場によって顕著になった。櫻井翔は、その流れを汲みつつ、「高学歴ジャニーズ」のパイオニアとして報道番組に進出した。そしてその後に続くように、2000年代の「高学歴ジャニーズ」たちも、報道番組や情報番組においてキャスターやコメンテーターとして活躍するようになった。

 これに対し、現在の「高学歴ジャニーズ」新世代は、いま述べたように、クイズをはじめとする知的エンタメの隆盛によって、報道などの硬派な番組だけでなく柔らかい娯楽番組にも活躍の場を広げている。

 つまり、知識や知性は、いまや芸能人のスキルとして重要なものになっている。そのなかで「高学歴ジャニーズ」は、従来のジャニーズのイメージとのギャップからくる新鮮さもあり、重宝されているのではないだろうか。ジャニーズにとっての新たなフロンティアを開拓する存在になった「高学歴ジャニーズ」。ジャニーズの行く末を占う意味でも、その動向から今後も目が離せない。


太田 省一(おおた しょういち)Shoichi Ota  社会学者、文筆家
東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。それを踏まえ、現在はテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、歌番組、ドラマなどについて執筆活動を続けている。著書として『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『平成テレビジョン・スタディーズ』(青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『芸人最強社会ニッポン』(朝日新書)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)などがある。