長引くコロナ禍による失業や外出自粛にともない、孤独や孤立感を抱える人が急増。不安やさびしさから、追い込まれて死を選ぶ人も後を絶たない。鬱々とした気持ちを一掃し、心身を健やかに保つ“心の処方箋”、試してみませんか。
主婦は“隠れ孤独”状態になりやすい
今年2月に、内閣官房に「孤立・孤独対策担当室」が新設されるなど、いまや孤独は、社会問題化している。多くは高齢者の問題と思われていた「孤独」だが、いまや幅広い世代にまん延している。
「コロナ禍になって、日々触れる情報は今まで以上にネガティブなものが多くなりました。無意識のうちに頭と心がネガティブでいっぱいになり、負の感情を生みやすくなっています」というのは、メンタルトレーナーの古山有則さん。中でも、主婦は“隠れ孤独”状態になりやすい。
「家族と暮らしていても、友人がいても、さびしい、むなしいという気持ちを抱えている人は多いです」(古山さん)
夫や子どもと会話が少なく気持ちがすれ違っていたり、漠然と「自分は誰にも理解されない」と感じていたり……。
「孤独なのは自分だけと思いがちですが、実は人間なら誰もが抱く感情。肝心なのは、孤独を放っておかないことです」(古山さん)
「孤独状態にあると、新しいことをせず、同じことの繰り返しになりがち。すると感情がどんどん鈍り、楽しいことがあっても何も感じない無感情な人になってしまいます。また、自分は不要な人間だと思いやすく、卑屈になりやすい。大切な人にも傷つけるような言葉を言ってしまい、より孤立するなど、状況が悪化します」(古山さん)
孤独にまつわる著書が多い、循環器専門医の石川恭三先生は、「孤独は風邪のようなもの。こじらせると重篤な肺炎に。その都度、気持ちを切り替える工夫を」と話す。
「年齢を重ねれば、大切な人に先立たれるなど、孤独を感じる機会は増えるもの。対処法を知っていれば、暗い気持ちを寄せつけず、人生が明るくなる。孤独感は病気や認知症の原因にもなるので、孤独に長居をするのは禁物です」(石川先生)
「孤独を感じたら、自分と対話をする機会ととらえて、“なぜさびしいのか”理由を探ってみてください」と古山さん。原因がわかれば、対策も見えてくる。会話をする人がいないという理由なら、習い事をするのも手。好きなテーマでつながる人間関係なら、共通の話題も多くなるはず。
夫に理解されないのが理由なら、自分を100%理解してくれる人はいないものと一歩引いた視点を。そして夫のいいところを3つ書き出してみて。
「いいところを再認識すれば、やさしい気持ちが生まれるはずです」
さらに覚えていてほしいのが、孤独は夜ほど感じやすいということ。寝て起きたらケロッとすることは多いはず。そして寝不足や体調不良もメンタルに影響しやすい。
「身体のケアと十分な睡眠は、健やかな精神を保つには必要不可欠です」(古山さん)
●孤独感を感じやすいのはこんな人
□誰とも会話せずに1日が終わる
□自己肯定感が低い
□最近、笑っていない
□SNSをよく見る
□本音を話せる人がいない
□自分を理解してくれる人はいないと思っている
□漠然と、周りから取り残されていると感じている
「自分なんて」と自己評価が低い人ほど、孤独やうつ傾向に陥りがち。またSNSで他人のきらびやかな日常を見て、自分とのギャップを気にする人も要注意。
“ひとり”に負けず前向きになれる習慣10(その1)
孤独を感じたら、こまめに気持ちの切り替えを。負の感情に負けない、しなやかな強さを身につけて。
【1】体調不良はメンタルに直結! 身体のメンテナンスをする
孤独感は自己肯定感が低い人ほど感じやすい。自分には価値がないと思っているので、「常に頑張らなければ、認めてもらえない」と、休息をとるのが苦手な傾向にある。
「頑張りすぎて、身体がボロボロになっている人が多いです。マッサージやエステに行くなどセルフケアを積極的に行いましょう。定期的に行くことが肝心です」(古山さん)
【2】若いときに好きだった懐メロを聴く
若く輝いていたころに、聴いていた曲を歌ったり聴いたりしてみよう。イキイキとした自分の姿がよみがえり、そのころにいた多くの人と一緒にいるような気分になれる。
「心地よい音楽に合わせてよい思い出がよみがえれば、おのずとテンションはアップ。幸福感や解放感といったハイの状態と、リラックスした状態が繰り返し出現。脳に心地よい刺激を与え、脳を活性化させることができます」(石川先生)
【3】自分をワクワクさせて定期的な楽しみを持つ
「月曜日はこのドラマを見よう」「水曜日は好物の寿司を食べよう」など、好きなテレビ番組や食べ物などを楽しむ日を決めよう。
「ごほうびDayを設定し、自分をワクワクさせる予定を組むのです。例えば“木曜日はマッサージ”と決めたとします。すると、木曜は幸せを感じ、金曜と土曜はその余韻に浸り、火曜と水曜はワクワクしながら過ごすことができます。定期的な楽しみは、いくつあってもOKです」(古山さん)
【4】おすすめはジム! 身体を動かす
精神的に疲れている人は、睡眠が浅い人が多い。運動をすれば身体が疲れるので、睡眠が深くなり、心をしっかりと休ませることができる。
「運動は何でもいいのですが、おすすめはスポーツジムに行くこと。身体を鍛えようというポジティブな人が集まっているので、明るい人が多く、活気に満ちています。顔なじみができれば、ゆるやかなコミュニケーションの場にもなります」(石川先生)
【5】スタバでカスタマイズするなど“初めて”に挑戦する!
変わり映えのない日常や、感情が動かない生活は、負の感情に支配されやすくなる。いつもの生活に少しでいいので変化をつけるように心がけて。違う道を歩いてみたり、食べたことのない食材を買ってみたり。
「スタバに行ってカスタマイズして注文してみるのもいいですよ。ちゃんと言えるかなとドキドキして、感情が揺れ動くのを感じるはず。ドキドキワクワクする機会は意識的に持つようにしてみてください」(古山さん)
“ひとり”に負けず前向きになれる習慣10(その2)
【6】つきまとう老気を一掃! おしゃれを楽しむ
「ふさぎ込んだ気分は外見も内面も老け込ませ、老気が全身に漂いはじめます」と石川先生。
「色気はいくつになっても多少は身につけておきたいですが、老気は全力で振り払うに限る。おしゃれをするのは、有効な手段のひとつです。お気に入りの服を身にまとえば、背筋が伸び、表情にも華やぎが。現実が悲観的なことに満ちていても、ひととき気持ちが明るくなる。それを繰り返していけば、次第に心も同調して明るくなるはずです」(石川先生)
【7】褒められれば気分もアップ習い事を始める
年をとると、人に何かを教えてもらう機会は激減する。あえて新しいことにチャレンジし、習い事を始めてみては。次第にできるようになる喜びは、新鮮な達成感を与えてくれる。
「先生に褒められると、気持ちはぐっと前向きになります。年齢を重ねると、老いを感じて自分を減点することはあっても、誰かに褒められて加点されることは少ない。褒められるのは心の栄養になります」(古山さん)
【8】自分に価値を感じないときはコレマンガを最新刊から読む
うまくいっている人と自分を比べて「あの人は最初から才能があった」と落ち込むときは、マンガを最新刊からさかのぼって読むのがおすすめ。20巻まで出ているなら、20巻→19巻→18巻と読むのだ。
「今活躍している主人公も紆余曲折を経験し、スタート時点では弱小だったと気づくはず。現状だけを注視するのではなく、将来どうなりたいか、そのために何をすべきか、と未来を見据えた思考ができるようになるはず」(古山さん)
【9】認知症予防にも効果絶大一読十笑百吸千字万歩
孤独を感じるときはあらゆることが停滞している状態。1日の中で、一読(1日に1回はまとまった文章を読む)、十笑(1日10回は笑う)、百吸(1日100回深呼吸をする)、千字(千字くらいの文字を書く)、万歩(1万歩を目標に歩く)を心がけてみて。
「頭、心、身体をバランスよく使うことができ、気持ちの切り替えに効果的です」(石川先生)
【10】楽しくなくても笑って笑いのネタをストックする
気持ちがふさぎ込んでいると間違いなく笑顔がない。そんなときは、内心がどうあろうとも笑ってみて。
「笑っていると、人が集まってきます。そこで、楽しい話をして相手を笑わせることができれば、その笑顔を見て自分も明るい気持ちになれます」と石川先生。お笑いのネタや、面白い話はストックしておくといい。また机に鏡を置くのも効果的。
「鏡を見て、意識的に笑顔をつくってください。自分は明るい人間なのだと無意識にすり込まれていきます」(古山さん)
●今日からやめよう! マイナス感情を生みやすいNG習慣
・同じことを繰り返す日常生活
例えば会社と家の往復ばかりの生活など、変化のない生活は充実感がなくなり、「このままでいいのか」と不安や孤独を生みやすくなる。寄り道をしたり、習い事に行ったり、気持ちがドキドキワクワクするような工夫を。
・使う言葉に気をつける
言葉には言霊が宿っていてその言葉を耳にしたり、口にすると言霊の力に引っ張られてしまう。「無理」「年齢がね」「疲れた」といったマイナスな言葉を使っていると、新しいことを遮断・拒絶する人になってしまい、変化のない、停滞した生活を送ることに。
・「安いから買う」をやめる
欲しいから買うのではなく、安いから買う、高いから買わない。これが習慣化すると、自分自身も安く、価値の低い人間だと錯覚しがち。自己肯定感が下がり、孤独を感じやすくなる。習い事やおしゃれなどの自己投資にも、抵抗感が生まれてしまうことに。
・自分と他人を比較する
自分よりも幸せそうな人を見つけて、自分に欠けているものに注目すれば、いつまでたっても満たされることはない。SNSで充実している人をうらやむのも同じ。日常の中に幸せを見つけられるか否かで、人生は明るくも暗くもなる。
メンタルトレーナー。自身が精神を病んだ経験から、独自のメンタルメソッドを確立。SNSでは約10万人のフォロワーに支持され、多くの相談に乗っている。『「孤独ちゃん」と仲良くする方法』(大和出版)など著書多数。
教えてくれたのは……石川恭三先生
医学博士、臨床循環器病学の権威。杏林大学医学部内科学名誉教授。多くの患者と接してきた中で感じた高齢者の悩み、孤独、認知症予防などについて多数著書あり。『老いのトリセツ』(河出書房新社)など。
〈取材・文/樫野早苗〉