『DQN』とは非常識な行動をする人、粗暴な人のことなどを指すネット用語。そんな『DQN』な住民たちが近所に住んでいたら……。本当にいたヤバい隣人たちが起こしたトラブルを聞いてみると……。
「隣の家にいつもエアガンみたいなもので撃ってくる小学生の子どもがいます。親に文句を言ったら私が悪者にされて……納得がいきません」
そう明かすのは東京都内に住む会社員の一義さん(50代・仮名)。数年前、隣に引っ越してきた一家から生活を脅かされ続けているのだ。
冒頭の嫌がらせのほかには、家の前の迷惑駐車。庭で深夜まで友人たちとバーベキュー。前述の子どもたちもかなり遅い時間まで大声を上げながら遊んでいる、などの行為で数々の被害を受けている。
一義さんは当然、抗議したが住人は知らん顔。
持ち家のため引っ越しもできず、泣き寝入りしている、と訴えていた。
「警察を呼んだこともあります。でも、逆恨みされて何かされるのも怖いので最近は何も言っていません」
そんな近所に住む『DQN』な隣人とのトラブルに悩む人は少なくない。
『DQN』とはとんでもない非常識な行動をする人、粗暴な人などを指すネットスラングだ。一義さんのほかにもトンデモな隣人とのトラブルで散々な目にあった人たちがいた。話を聞いてみると──。
●DQN.01 最悪なクリスマス親子ゲンカの結果
九州に住む30代の会社員、康之さんのケース。
康之さんは大学卒業後に住んだアパートで隣の住人からひどい目にあった。
それは数年前のクリスマスのことだった……。
「彼女とデートし、ケーキを買って家に戻るとアパートの前にパトカーと消防車が何台も止まっていました」
あたりは騒然としており、何が起きたのだろう、と建物をのぞき込むと、康之さんの隣の部屋から白い煙が出ているではないか。
「隣の家の息子が親子ゲンカの末に火をつけたそうです」
幸いボヤですんだが部屋の中には焦げ臭いにおいが何日も充満していたという。
隣人は50代くらいの母親と20代くらいの息子の2人暮らし。だが、2人はたびたび大ゲンカを繰り返し、その怒鳴り声は康之さんにも聞こえていたという。
「共用部分の廊下に画面が割れたテレビや脚の折れたテーブルが放置されていたこともありました……」
放火事件後も親子はその家に住み続けていたという。
「僕には謝罪もありませんでした。おまけにその日、部屋で過ごすも気まずくて、後日彼女とは別れることに……嫌なクリスマスの思い出ですよ」
●DQN.02 あたりかまわず攻撃最後は傷害事件で……
埼玉県の歯科衛生士の沙織さん(40代・仮名)はある恐怖体験を語った。
「隣のアパートに怖いおじさんが住んでいたんです」
見たところ50代後半くらいの男性で夕方になるとアパートの階段に座り、通行人をにらみつけていたという。
「夫は目が合っただけで怒鳴られたこともありましたし、追いかけられたっていう高校生もいました。いちばん怖かったのはポスト破壊事件です」
ある晩、隣から変な物音がして窓からのぞいてみると例のおじさんがアパートの共用部分にあるポストを破壊していたというのだ。
「後日、大家さんが抗議しても聞く耳を持たないどころか“自分は悪くない”と逆ギレしたそうです」
ポストが直されるころ、事態は意外な最後を迎えた。
「おじさんが傷害事件を起こし、逮捕されたんです」
すると家の中から特殊詐欺に使われたとみられる携帯電話がいくつも発見されたとか。
「おじさんが外にいたのは、仲間が詐欺電話をかけているときの見張り役だったのかも」
いつの間にかおじさんはいなくなり、沙織さん家族は今、平和に暮らしているという。
●DQN.03 引っ越し前トラブル顔見知りに別の一面
50代の主婦、夏子さん(仮名)は去年、東京郊外へと引っ越しをした。そのときにご近所さんのトンデモない一面を垣間見たという。
「粗大ゴミに持っていってもらおうとイスや棚を外に出したんですが、数分後には見当たりませんでした」
回収されたのかな、と思った夏子さん。
しかし、その様子はない。
誰かが持っていったら気持ちが悪いな、と思っていたその夜に来訪者があった。
近所に住む60代の顔見知りの女性だった。
「いらない家具があったらくれ、と言われました。昼間の家具を持って帰ったのも彼女でした。私が驚いていると“あのイスいいイスね”となぜか褒められて……」
その後も引っ越すまでの間、「不必要なものは引き取る」とつきまとわれたという。
「先日、前に住んでいた地域の知人と久しぶりに会いました。例のご近所さんは私が引っ越すと“夏子さんはケチだ”とか悪口を言って回っていたらしいです。おまけに今は“いつも見張られている”とか“声がうるさい”とか近所に文句を言ってトラブルになっているそうです」
なぜトラブルが起こるのか
普通に暮らしているだけなのに、なぜこのようなトラブルが発生するのか。回避、解決できる方法はないのか。
近隣トラブルの仲裁サポートや引っ越し前に近隣を調査する事業を展開する『グッドネイバー株式会社』の松尾大史代表取締役に聞いた。
「コロナ禍でリモート勤務などから家にいる時間が増えたこともあり、足音や話し声などの騒音に悩む相談が増えています」
だが、当人同士で交渉し、方法を間違えると事態はもっとこじれ、解決は難しくなるという。
「騒音や迷惑駐車などの場合、迷惑な相手側に対して間に仲裁のプロや弁護士が入り、丁寧に説明をすれば穏便にすむケースも。周囲に迷惑をかけ続ける、いわゆる『DQN』な住民はごくわずかです」(前出の松尾さん、以下同)
同社に寄せられる相談で多いのは、「隣から嫌がらせされた」「隣家の葉っぱが家に落ちてくる」などの困りごと。訴えてくる多くが70代のひとり暮らしの女性だというが……。
「実はこの手の相談者の多くが加齢や孤独な暮らしによって引き起こされる妄想状態の場合があるんです。被害者だと思っていた人が本当はトラブルメーカーとして近隣を悩ませていたり……」
本人は妄想の自覚はないから周囲がいくら説得しても受診を拒んだり、自宅にこもっていてどんどん症状が悪化してしまうこともあるという。
自力での解決は難しい
「被害妄想かもしれませんが、相談者は本気で悩んでいるんです。これは孤独や高齢化、コミュニケーション不足が生み出した社会問題だと考えられます。年々増加しています」
だが、こうしたケースの場合、解決は非常に困難だとも。泣き寝入りをせざるをえないことがほとんどだという。
「加害者も自分は悪くないと思っているため、警察、行政が介入しても解決は困難。加害者の家族の協力が得られる場合には解決できる可能性がありますが、そうでない場合はご自身が引っ越すしかないと思います。自分が悪くないのに住み慣れた場所を手放すのは非常に悔しいでしょうが、はるかに短期間、低費用で苦しみから解放されます」
隣人問題は引っ越しや自宅購入前の事前の調査で避けられることがある。
「引っ越し前には両隣、集合住宅だったら上下にどんな人が住んでいるのか実際に足を運んで尋ねるのもいいです。家族構成や話した時の雰囲気を知るだけでも、トラブルが起こりやすいかをある程度予測できます」
近所に住む『DQN』たち。もしかしたら周囲からは見えない、大きな悩みや闇を心に抱えているのかもしれない。