商売をするうえで、「いかにして、お客のニーズ(必要としていること)をつかむか?」というのは、永遠のテーマの1つでしょう。
そして、販売のお手伝いをするコピーライターにとっては、いかに短い言葉でお客の心に訴えかけられるかが勝負です。
これは、マーケティング・コンサルタントとして多くの企業を成功へと導き、数々の著書もあるアメリカのダイレクトマーケッター兼コピーライター、ダン・S・ケネディさん(64)の話。かつて、自分のセミナーに対し、本気で興味を示さない人たちを観察することで、会心のコピーを生み出したという実例です。
セミナーよりゴルフに夢中な参加者たち
あるときのこと。ダンさんは、生命保険会社の経営者たちに対して、こんなテーマのセミナーを企画しました。
「保険営業マンをどのようにリクルート(雇用)するか?」
優秀な営業マンをいかに効率的に雇用するかは、生命保険会社にとって、会社の命運を左右しかねない課題です。
セミナーの内容は「優秀な営業マンを自動的に雇用するための方法」という、経営者にとって、すこぶる役に立つものでした。参加者はみな、遠方からやってきて、高い会費を支払い、このセミナーに参加していたのです。
にもかかわらず……。セミナーの合間の休み時間。参加者たちの雑談に耳を傾けたダンさんは驚きました。
なぜなら、参加していた保険会社の経営者たちは、「翌朝のゴルフ」のことばかり話していたのです。彼らにとっては、経営に重要なセミナーの内容より、翌朝の懇親ゴルフのほうが楽しみであり、興味の対象だったというわけです。
セミナーを主催する側としては、腹立たしい話です。ダンさんは怒って、セミナーを途中で投げ出して、会場から帰ってしまい……ませんでした。
それどころか、この体験をヒントにして、生命保険の業界紙に、自分のセミナーをアピールする宣伝広告を打ったのです。
そして、その広告のたった1行のコピーは、まんまと経営者たちの興味を引き、今までとは比べものにならないほどの宣伝効果をもたらしました。
さあ、ここであなたにクイズ!
ダンさんは「保険営業マンをどのようにリクルートするか?」というセミナーの広告に、どんな宣伝コピーをつけたのでしょうか? コピーライターになったつもりで考えてみてください。誰かにこの続きを読んでもらって、あなたが考えるコピーが正解かどうか判定してもらってもよいです。
では、シンキングタイムスタート!
……。
……。
いかがですか? 生命保険会社の経営者の心をつかむコピーは浮かびましたか?
ここで大ヒント。出だしは、<営業マンの採用を自動化すると>です。
腹立たしい体験からケネディさんが生み出した、セミナー集客のための宣伝コピーは次のようなものでした。
<営業マンの採用を自動化すると、あなたはゴルフに出かけられます。>
生命保険会社の経営者たちの雑談から、彼らにとっては「ゴルフ」が大きな関心ごとだと知り、そこにストレートに訴えかけるコピーをぶつけたというわけです。
相手が本当に興味を持っていることをつかんだら、四の五の言わず、そのド真ん中にドーンと訴えかける。
これは、たしかに効きそうです。人を動かす極意の1つのような気がします。
(文/西沢泰生)
《参考:『文章の鬼100則』川上徹也著 明日香出版社》
【筆者PROFILE】
にしざわ・やすお ◎作家・ライター・出版プロデューサー。子どものころからの読書好き。『アタック25』『クイズタイムショック』などのクイズ番組に出演し優勝。『第10回アメリカ横断ウルトラクイズ』ではニューヨークまで進み準優勝を果たす。就職後は約20年間、社内報の編集を担当。その間、社長秘書も兼任。現在は作家として独立。主な著書:『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)/『伝説のクイズ王も驚いた予想を超えてくる雑学の本』(三笠書房)/『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)ほか。