所属事務所と係争中の岡田健史

 若手俳優・岡田健史(22)が事務所とモメている。退所するための契約解除を求めて、係争中だ。

トラブルと見えてきた人格

 岡田は2018年、高校卒業と同時に芸能界入りして、半年後にドラマ『中学聖日記』(TBS系)でデビュー。その後も順調にキャリアを重ね、現在はNHK大河ドラマ『青天を衝け』や『桜の塔』(テレビ朝日系)に出演中だ。大河では、主人公・渋沢栄一のいとこ役である。

 にもかかわらず、この騒動。5月27日発売の『週刊文春』はその背景に「奴隷契約」があると書き立てた。「最初の一年半は給料ゼロ」で、最近の月給も「手取りで15万円」だという。渋沢栄一が3年後に新たな顔となる1万円札15枚分だ。

 しかも、仕事の内容に口を出すことができず、マネージャーも頻繁に交代しているという。

 ちなみに、岡田が所属するのはスパイスパワー。堀北真希や桐谷美玲、黒木メイサらを輩出したスウィートパワーの男性部門だ。グループ全体を束ねる女性社長はやり手として知られ、ジャニーズ事務所などとも太いパイプを持つ。

 その一方で、社長のセクハラやパワハラといった問題も報じられており、そのせいか不明だが人材流出も起きている。結婚が理由の堀北やパニック障害の治療が目的だという竹内愛紗はともかく、高杉真宙に知英といったタレントの退所や契約解消が相次ぎ、そして今回の岡田のトラブルである。

 ただ、岡田にも「人が変わってしまった」という見方が。デビューからとんとん拍子で売れたため、ちょっと天狗になっていると感じる人も業界にはいるようだ。

 では、岡田健史とはどういう人なのか。

 印象的だったのは、今年4月『あさイチ』(NHK総合)に出演したときの発言だ。高校の野球部時代に撮ってもらった「めちゃくちゃいい写真」があちこちで紹介されていることについて「ちゃんと許可とってるのかなって」と切り出し、

「いろんなとこで使われてるけど、その方にお金入っていいぐらいだと僕は思うので、ちょっとそこが心配です」

 と語った。金銭的なことなど、ちゃんとしたいタイプなのだろう。

野球選手への「尊敬の気持ち」

 また、彼は今年、日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞。3月の授賞式では、プロ野球界の大選手・落合博満の名言を引用してスピーチをした。落合は現役時代、日本では初の年俸調停を起こして球団と闘った男だ。

 さらにいえば、前出の『週刊文春』記事には、事務所社長のセクハラ疑惑報道のあと、彼が周囲に「不信が確信に変わった」と漏らしたという話が出ている。これは松坂大輔投手の名言「自信が確信に変わった」の影響と考えられる。

 もっとも、影響を受けるのも無理はない。彼は高校3年まで本気でプロ野球選手を目指していた。中学1年のときから、現事務所から誘いを受けるも断り続け、大学でも野球を続けるつもりだったという。

 それが高校最後の夏、県ベスト8に終わり、助っ人として参加した演劇部で全国大会に出場。そこで芝居の魅力に目覚めたわけだ。そういうことがなければ、今ごろはまだどこかの大学で白球を追いかけていたかもしれない。

 そんな彼が夢見たプロ野球界は、高卒新人でもいきなり1億円の契約金を手にできる世界。もちろん、そこには活躍できる期間が短く、大ケガをしたら即おしまいという特殊な事情が関係している。

 一方、芸能界もまた、特殊な事情のある世界だ。売り出すために膨大な費用がかかるため、最初は薄給にとどめて、先行投資の回収を優先。そのぶん、売れなくなってからも功労者として長年面倒を見たりする。吉本興業やジャニーズ事務所は、このやり方で成功してきた。

 そこには所属タレントの浪費グセを抑えるとか、若いうちに大金を持つのはよくないからといった配慮も働いているわけだが──。当然、疑問を持つ者もいる。

 たとえば、嵐の松本潤は若いころ、小栗旬らとの交友を通して、収入の違いに驚いたという。岡田の事務所も吉本やジャニーズのようなやり方だと思われ、彼はそうでない事務所との収入差にショックを受けたのかもしれない。まして、彼の事務所は歴史が浅く、功労者として長年面倒を見てもらっているような先輩もいない。

 また、彼と同学年にはヤクルトの4番・村上宗隆選手や西武のクローザー・平良海馬投手のようにプロ野球でバリバリ活躍して稼いでいる人もいる。違う世界とはいえ、自分もバリバリ活躍しているはずなのになぜ、という気持ちになっても不思議はない。

何事にも全力で……

 なお、これまでの発言を見ていると、彼は金銭面だけでなく、芝居についてもちゃんとしたいタイプであることがわかる。高校3年の夏に演劇をやって芝居の魅力に目覚めたことを振り返り、こんな話をしている。

なんともいえない感情になって、そのときの感情を言語化することが僕の今のひとつの目標でもあるので、それを追い求めてまた、挑戦していって、作品を通して感動や勇気を与えられるような人間になりたいなと思ってます」(『ノンストップ!』フジテレビ系)

 こういう人なので、作品にもとことんこだわりたいのだろう。前出の「人が変わってしまった」という見方は、そのこだわりが災いして「生意気」というイメージにつながったということかもしれない。

 問題は、そういうイメージが業界全体に広がってしまうことだ。彼に非がなかったとしても、売れてからまもない時期での所属をめぐるトラブルはリスクが高い。記憶に新しいところでは、女優・のんの例もある。契約期間中に独立したため、仕事を干され、能年玲奈からの改名を余儀なくされた。現在も地上波テレビでの活動には苦労している。

 だからこそ、岡田も裁判で決着をつけたいのだろう。ただ、理想をいえば、話し合いによる円満な独立が望ましい。事務所とは5年契約らしいので、まだ2年近くある。このままこじれると、俳優生命にも関わってきそうだ。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。