テレビ朝日のバラエティー『ザワつく!金曜日』(金曜午後6時45分)が5月21日の放送で歴代最高となる17・3%の世帯視聴率を記録した(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。同23日に放送された同じテレ朝系の『ポツンと一軒家』と並び、この週(同17日~23日)のバラエティー番組でトップの数字だった。その後も16.2%(28日放送)、16.8%(6月4日放送)と高視聴率が続いている。
目新しさがないのに、なぜウケる?
深夜枠での放送開始から2年半。ゴールデンタイムへの昇格からは2年あまりが過ぎたが、これほどまでの成功を予想していた人はいただろうか。
言っては悪いが、企画に目新しさはないのである。「工場で作られているモノを当てるクイズ」「全国ご当地カップ麺No.1決定戦」「スズメバチハンター24時」等々、ありがちな企画ばかりなのだ。
おまけにMCの石原良純(59)、長嶋一茂(55)、高嶋ちさ子(52)はトークのプロではない。それなのに大ウケしているのは旧来のバラエティーのような予定調和がなく、個性の強い3人が自由気ままに振る舞っているからだろう。
3人だけでは収拾がつかなくなるかもしれないが、司会を話芸のプロであるサバンナ・高橋茂雄(45)が務め、きっちり引き締めている。高橋は3人の持ち味を引き出すのもうまい。
とはいえ、この番組を成功に導いた立役者は何と言っても一茂だ。お笑い芸人は計算して視聴者を笑わせるが、一茂は自然体なのに見ている人を笑顔にする。
たとえば一茂は番組内で「クイズ王」を自称している。おそらく本気でそう思っている。ところが「工場で作られているモノを当てるクイズ」などで見事なまでにハズしまくる。
すると、クイズ王を自負しているから、猛烈な勢いで悔しがる。「1から撮り直そう」などとムチャを言い始めることもある。
そんな言動を高橋がたしなめると、今度は「高橋、テメー!」と本気で怒る。ここまでカメラの前で自分に正直になれる55歳がいるだろうか。思わず笑ってしまう。
最高視聴率をマークした5月21日の放送では、一茂が夫人の手料理の筑前煮がどれかを当てるクイズをやった。夫人、一流料理人、番組スタッフがそれぞれ作った筑前煮の中から、夫人が作ったものを当てるというものだった。
クイズに入る前の一茂は「ママの料理の中で一番おいしい」「ハズしたら(放送後に)どこで寝るのよ」などと余裕たっぷり。ところが、あっさりハズす。番組スタッフが作った筑前煮を選んでしまう。
すると顔色を変え、いたずらがバレたときの子どものような情けない表情を浮かべた。ここまで邪気が感じられない55歳を画面で見ることもない。やはり笑ってしまう。
番組内で一番話すのは一茂だ。6月5日放送の同局『徹子の部屋45周年スペシャル』(テレビ朝日系)で、ちさ子が語ったところによると、一茂が8、良純が2、ちさ子が1の割合で話す。
しかし、これでは合計11。計算が合わない。それを良純が指摘すると、ちさ子は「(一茂から)バカがうつった!」と無茶苦茶な言い訳をした。ちさ子は一茂を舐めきっているのだ。ちなみに彼ら3人とさんまが出演した『徹子の部屋45周年スペシャル』も14.2%という高視聴率を記録した。
政権批判も厭わない
もっとも一茂はタダ者ではない。それは金曜日のコメンテーターを務めている『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)のコメントを聞いていると、よく分かる。たとえば、ほかの芸能人コメンテーターなら嫌がる政治の問題もズバズバ発言する。
印象深いのは森田健作・前千葉県知事(71)が、2019年9月に同県を台風が直撃した際、公用車で別荘に行っていたと報じられた時の発言である。
会見で森田氏が「公用車から自分の車に乗り換え、視察していた」などと苦しい釈明をしたのに対し、一茂は「不謹慎かもしれないけど、会見を見て笑ってしまったね」とバッサリ。さらに「この方はトップとして適任なのか」などと容赦なく非難した。
政権批判も厭わない。見ていてハラハラするほど。『モーニングショー』でも自然体であり、計算がないのだ。
「(他人から)どう思われたっていい」(『家庭画報』2020年1月号より)
日本は苦労人ばかりを讃える風潮が強いものの、一茂の場合は何不自由なく育ったからこそ、忖度しない人格が作り上げられたのだろう。
好感度を得ようと視聴者に媚びを売る芸能人や上司にへつらうサラリーマンとは大違い。視聴者側としては新鮮だし痛快だ。
一茂は格好を付けることもない。5月28日の『モーニングショー』で安さを売り物にする通信販売の危険性が特集されると、自らの失敗談を話し始め、警鐘を鳴らした。
「僕も大学のとき、歌舞伎町で『飲み放題、遊び放題で2500円ポッキリ』という呼び込みに騙されたことがあります…おいしい話はないと思ったほうがいいです」
ここまでリアルで説得力のある話をするコメンテーターはほかに知らない。
奔放な発言を繰り返すと、敵を作りやすいが、一茂を嫌う声はまず聞かない。ミスタージャイアンツこと父親の長嶋茂雄氏(85)から、人に愛されるDNAを受け継いだのだ。
プロ野球ファンの中には一茂が偉大な父親の野球的素質のすべてを受け継がなかったことを嘆く声があるものの、何をやっても愛されてしまう才能はしっかりと継承したのである。
かつて茂雄氏は記者から「好きな番号は何ですか?」と問われた際、「ラッキーセブンの3」と、平然と答えた。どこか一茂のおおらかさと通じる。
一茂の芸能界でのここまでの成功を予想していた人はいただろうか。もっとも、育った環境とDNAを考えると、不思議なことではない。
高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立