「医学的な観点から考えれば、五輪は中止すべきであると思います」
そう断言するのは、約40年にわたりワクチン研究をしてきた横浜市立大学名誉教授・奥田研爾先生。
東京五輪で感染爆発の可能性
「ジョンズ・ホプキンス大学では開催国の70%以上の人がワクチンを打ってから始めるべきだと提言しています。私も同様の考えで、全国民の7割以上の人が抗体を保有すれば、その人々が盾となり新型コロナウイルス感染症の蔓延を防ぐことができると推測します」(奥田先生、以下同)
現在、国内でワクチンを2回接種したのは全体の5%以下。五輪が開幕する7月23日までに、ワクチン接種を完了する日本人は5分の1にも満たないともいわれている。そういった状況下でオリンピックを開催すれば、「再び感染拡大のリスクは高まる」と奥田先生は警鐘を鳴らす。
さらに、大会のために来日する選手と大会関係者、およそ9万4000人の管理に対しても疑義を唱える。
「特に、検査やワクチンのしっかりしていない開発途上国の選手が、ワクチンを接種したり検査したりしてから参加できるのか疑問です。また、来日後の選手やスタッフの行動を把握できるのかも疑わしい」
選手の宿泊に関しては、選手村に入らず独自に宿泊先を取ることも可能という扱いだ。この場合、選手村で検査を受ける必要があるとのことだが、先日、『日曜報道 THE PRIME』(フジテレビ系)にリモート生出演した千葉県知事・熊谷俊人氏は、
「千葉県でいえば、幕張とかに組織委員会が大量にホテルを予約されているんですけど、それがどういう方なのかなどですね、そういう情報が十分に共有されていないところがありますので」
と漏らしている。雲行きは、そうとう怪しい……。
こうした不安を払拭するために、政府や東京都、組織委員会は、PCR検査を徹底したうえで、選手・関係者を外部と遮断する──、いわゆる『バブル方式』を導入すると計画している。しかし、奥田先生は「完全に封じ込めることはできない」と指摘する。
「陰性だったとしても、それが偽陰性の可能性もあります。新型コロナウイルスは、潜伏期間が1~14日間、多くは3~4日といわれ、無症状時に他者へ感染させてしまうケースが4割とも。繰り返しますが、大規模な大会を開催するなら、7割以上の人がワクチンを接種し集団免疫を獲得してからです」
独米PR戦略大手『ケクストCNC』の世論調査によれば、東京五輪の開催に対して、日本56%、イギリス55%、ドイツ52%、アメリカ33%が「同意しない」と回答。
「日本はいまだワクチンを自国で作れていない国です。さらに、ワクチンの接種率も先進国の中で最低レベル。もし五輪を開催し感染が拡大すれば、世界から非難のまとになるでしょう」
あまりにもリスクが大きすぎる東京五輪。しかし、状況は開催へと向かっている。もし今のまま東京五輪が開かれたら──。考えられる最悪のシナリオをシミュレーションしてみたい。
7月23日、静まり返った会場に無数の花火が打ち上がる──。新国立競技場で幕を開けたオリンピック開会式は、これまで見たことがないような異様な雰囲気に包まれていた。一般観客の姿がないスタジアム、喜色満面の作り笑いを浮かべた各国要人や五輪関係者が、入場行進をする選手団に拍手をおくる。盛り上がり以上にむなしさを感じさせるオリンピックが幕を開けた。
大会直前になっても、世論は賛成と反対に揺れていた。その理由のひとつが、政府、東京都、組織委員会の変わらない危機管理意識の低さだ。入国後、五輪関係者などにPCR検査を繰り返すことなどを条件にする一方、選手に対しては2週間の待機を免除する特別措置をとっていた。
つまり、選手は入国直後から練習することも可能で、運営上必要な関係者(技術スタッフ含む)も必要な感染予防を行えば隔離されず、ホテルと会場などの往復をすることができるのだ。
2月に行われたテニスの全豪オープンでは、選手をチャーター機で入国させ、その後、2週間のホテルでの隔離生活(毎日PCR検査を実施)を命じた。万全の対策を講じたが、それでも選手や関係者から感染者が発生してしまった。
ところが東京五輪は、各国選手団がそれぞれのスケジュールで来日する統一性のなさに加え、隔離生活を免除。案の定、感染者が発生してしまい、その杜撰な管理体制に対して、各国メディアが一斉に糾弾する事態に発展した。政府は、水際対策を怠ったホストタウンに非があると責任を回避し、さらにアンチ五輪の声は高まっていった。
「五輪が始まれば一転する」──。関係者の折伏が連日響き渡るも、競技が始まってからも旗色はよくならない。ワクチンの副反応を怖がり、接種を拒否した日本人選手に対する世間の誹謗中傷に加え、直前に2回目の接種を完了したことで副反応による体調不良を訴えるアスリートも散見されるように。
海外の報告によれば、ワクチンの副反応で多いのは、打った筋肉部位の痛み(75%)、倦怠感(50%)、頭痛(44%)などだが、いずれも通常は1~2日で治まる。仮に、急激な血圧低下で意識を失うアナフィラキシーショックが生じても、ボスミンなどのアドレナリン注射で症状は治まるのだが、国民に対してワクチンについての説明が不足しているのが現状だ。
浮かれた選手から陽性者も……
輪をかけて、柔道やレスリングなど選手同士が激しくぶつかり合う種目から陽性者が発覚してしまう。練習相手を務めていたメダル候補の選手も隔離されることになり、「コロナによって奪われたメダル」などの見出しがネットニュースで躍る。悲劇の選手がいる一方、選手村への酒類の持ち込み、コンドームの無料配布が仇となり、ハメをはずしている最中に感染したことが発覚した、お騒がせ選手も報道された。
なんとか不安ムードを払拭したい関係者は、猛反発にあったパブリックビューイング──ではなく、開会式後に聖火が移されるお台場聖火台エリアに一縷の望みをかけていた。ただでさえ人出の多いお台場エリアだが、五輪開催時は『オリンピックプロムナード』と称し、数々のイベントが行われた。
結果として、人数制限こそ設けたものの夏の陽気に浮かれた人々が大挙して押し寄せる。その様子を海外の放送局が「コロナウイルス培養地」と発信し、いろいろな意味で物議を醸すことに。
時を同じくして、お台場ではトライアスロンが行われており、かねてから問題視されていた水質汚染が再浮上。関係者が「コロナに比べればマシ」とも取れる失言を発し大顰蹙を買ってしまう。フィールド外では、看護師をめぐって五輪のボランティアとワクチン接種のボランティアが駆け引きを行い、どこまでも国民不在のオリンピックは盛り下がっていく……。
前回の'64年東京五輪は、戦後の復興という大きなテーマに向かって、国民が同じ方向を向いていた。しかし、今回の東京五輪はそうではない。政府や東京都、組織委員会、IOCは開催ありきで話を進め、国民にいたっても賛成派と反対派で真っぷたつに分かれている。前出の奥田先生は説明する。
「ワクチン接種が間に合わないなら、抗新型コロナウイルス治療薬として、未承認だがアビガンやストロネクトール、カモスタットなどの薬剤がある。治療について医師が正しい知識を持つことが前提だが、それらを組み合わせればほとんどの人が早期であれば治療可能であると、私を含め多くの治療にあたる医師たちが口にしています。
エイズも、3種類の治療薬を混合し、飲むことで、今では先進国において亡くなる人は、ほぼいなくなりました。あるものを有効活用し、正しく議論し、総力戦でコロナに立ち向かったうえでオリンピックに舵を切るなら、まだ理解を示すこともできる。しかし、現状は現実的な議論が足りない」
最悪のシナリオは“if”でしかない。だが、あまりにも問題が山積みだ。