若者たちが産婦人科医など専門家らに心と身体の悩みを気軽に相談できる『ユースクリニック』に関心が集まる。家族には相談できなくても専門家に打ち明けて解決できることもある。母親や祖母世代が知っておきたいこの取り組みについて聞いた。
友達とのトラブル、彼氏との関係、生理や身体の悩み、進路……。多感な年ごろの子どもたちは悩みが尽きない。「親や学校の先生には打ち明けにくい。でも誰に相談したらいいのかわからない……」
そんな子どもたちの味方になってくれるのが『ユースクリニック』だ。
ユースクリニックとは、心や身体、生理や妊娠など性の悩みを若者が気軽に相談できる場所のこと。“ユースクリニック先進国”のスウェーデンでは国内には約250か所以上も開設されている。助産師や看護師が常駐し、13~25歳の若者は誰でも利用できる当たり前の相談先として根づいている。
日本では、まだほとんど知られていないが、社民党の福島みずほ参議院議員は、今年3月30日の国会・厚生労働委員会でユースクリニックの重要性について取り上げた。
すると田村憲久厚生労働大臣も、
「その年代の女性の悩みをしっかりと相談できるような体制整備をすることは大変重要だと考えている」と答弁していた。
東京・台東区の上野皮フ科・婦人科クリニック(院長・西郡克之)は、国内でもいち早い'19年11月からその取り組みを始めた。
対象は中学生~25歳ほど。親や先生、身近な大人に相談しにくいことや、病院に行くか迷っている体調のこと、もちろん婦人科以外の悩みでも気軽に打ち明けることができる。予約はメールやSNSのDMなどから受け付け。料金は1回500円で相談できるのだ。婦人科の検査や診察、投薬は行わないため保険証も必要ない。
学生のストレスは無視できない
同クリニック事務長の西郡真知子さんは、
「中高生や大学生、新社会人にあたるこの年代は、進学や就職によって生活に大きな変化が起きる時期。悩みを抱え、ストレスが体調に影響する人も多いです」
このユースクリニックは、病院が運営しているため、医療機関と直結していることが強みだ。相談にあたるのはクリニックの助産師や看護師ら専門家。必ずしも受診をすすめられるわけではなく、相談を通して診察が必要な症状が疑われれば、提案してくれる。若年層にとってハードルの高い婦人科受診。心の準備をしてから診察に臨める。
生理や身体の悩みを打ち明ける少女たち
これまで数十人が利用。生理痛がひどい、経血の量についてなど生理に関する内容を打ち明ける若者が多かった。
「例えば経血が多すぎる、生理痛が重いなどの症状が続く場合は“1度病院に相談してみたほうが安心ですよ”とアドバイスをしています。相談者の自宅近くの婦人科を一緒に探すこともありますね」
中には交際中の彼女の身体の心配をした若い男性からの相談もあったという。
特に“妊娠したかもしれない”という不安を抱えている10代、20代前半の若い女性たちの駆け込み寺的な存在にもなりうるかもしれないのだ。
昨年11月、出産した子どもを殺害し、公園に埋めたとして当時22歳の元女子大生が逮捕、起訴された。
「取り調べで“妊娠のことは誰にも言えなかった”と供述したそうです」(全国紙社会部記者)
防ぐべき女性の精神的孤独
人知れず出産した乳児を遺棄、母親が逮捕される事件は後を絶たない。父親とみられる男性は無関心で逃げてしまえば大きくなるお腹を抱え、ひとり悩み、出産。遺棄せざるをえない状況に追い込まれる。
もし妊娠が早期にわかり、身近に、気軽に相談できる場所があったら……。
大人なら“薬局で妊娠検査薬を買って自分で試せばいい”と思えるが10代、20代ではそうもいかない。
「店員さんが男性だとどう思われるかを意識してしまう年代です。クリニックで検査して陽性だったことは今までありませんでしたが、判定の正確性は100%とはいえないため、後日再度検査することをすすめています」
西郡さんによれば、母親に付き添ってもらって婦人科を受診しても母親が娘に代わってすべて説明してしまい、子どもが自分の思いをなかなか打ち明けられない例も多々あるという。ユースクリニックでは子どもたちがワンコインで胸の内を明かすことができるのも心強い。
こうした相談の場が予期せぬ妊娠や、重い生理など身体の不調をいち早く解決するきっかけになる。
「後回しにした結果、“あのときに行っておけばよかった”と後悔する方が出てこないようにするためにも、10代から婦人科受診のハードルを低くする環境を整えることは重要です。そのひとつとして、ユースクリニックは有効な方法だと思っています」
もし、娘や孫から生理や身体の不調を打ち明けられたときには「私もそうだったし、みんなそういうもの」と、自分の経験や常識を元にアドバイスをしていないだろうか。娘や孫とはいえ症状や体質は人によって異なるため、結果的に痛みを我慢させ続けることにつながりかねない。
「“お母さんに言いにくいことがあったらここに行ってみるといいよ”と、ユースクリニックの存在を伝えてみてください。それが、お子さんが悩みを打ち明けられるきっかけにもなるかもしれません」
LINEで相談、スマホで安心つながる
いざ面と向かって相談するのは勇気がいるし、できれば今すぐにでも答えがほしい。そんなニーズに応えるのが、NPO法人ラサーナ(群馬県高崎市)の「若者たちのための街の保健室」で行っているLINE相談だ。
ラサーナは同市内にある産婦人科・舘出張佐藤病院の外郭団体。ラサーナの理事長で、同病院の福田小百合さんを中心に昨年8月からスタートした取り組みだ。
「友人関係の悩みなど、思春期保健相談士として回答できる範囲は私が回答。医療の知識が必要な相談は連携する佐藤病院の産婦人科医や助産師に共有して回答をもらいます」
対象は群馬県内の20歳ぐらいまでの男女。「SNSで知った」という県外の方からの相談もあるという。
相談内容は、半数が身体や生理のこと。次いで友人・家族関係、将来の悩みなどだ。相談受け付けは22時までだが、深夜1時や2時ごろに相談が入ることも多いという。
LINEは気軽に相談しやしやすいメリットもある一方、顔が見えないやりとりゆえの難しさもある。
「まずは話をよく聞くようにしています。短い文章でバラバラに相談内容が送られてくることもあるので『これはこういうことですか』と確認しながら返信しています。また、上から目線の指導にならないよう目線を合わせて答えるようにしています」
深夜にも相談続々と、男子からの悩みごとも
現在の友だち登録者数は約130人で、男女比は3:7。
「たいていの子は疑問が解決すれば『ありがとうございました』で話が終わってしまいますが、中には継続的に利用している子もいて、1人で500チャット以上やりとりすることも。友人関係の悩みは特に長くなりがちですが、『そう言ってもらえて安心しました』『そういうふうに考えればいいんですね』とお返事をもらえます」
女子以上に相談する場所がない男子からの相談も寄せられる。マスターベーションや性に関することが多いという。
「思春期はセックスに興味を持つ年ごろですが、“こんなことを考えてしまう自分はおかしいのかな”と思い悩む必要はありません。相談者の男の子には『自分も彼女のことも大切にしないといけないよね』と伝えるようにしています。男の子にこそ、正しい知識を持ってもらいたいですね」
福田さんはLINE相談を通して子どもたちの置かれている危うさも実感している。
「女の子で身体の悩みをお母さんに相談できている子はやはり少ないですね。お母さんに知識がないということもありますが、そもそも共働きで忙しく、なかなかお子さんと向き合って話す時間がないのかなという印象です」
母世代・祖母世代も、今からでも正しい身体の知識を学ぶ機会を持つことが大切。
「それはご自身の健康にも直結しますし、次の世代の健康にも結びつきます。子どもさんからの悩みでご自身では回答できないようなことがあっても、“ユースクリニックっていうのがあるから、ここに行ってみるといいよ”と答えてあげられるお母さんやおばあちゃんになってほしいなと思います」
(取材・文/堤美佳子)