※写真はイメージです

 西日本では例年より3週間も早く梅雨入りし、すでに大雨による被害で亡くなった人も……。梅雨が明けても夏から秋にかけてゲリラ豪雨や台風が頻発し、災害級の大雨に見舞われることも増えてきている。命と住まいを守る対策をしっかり押さえておきたい。

近年の梅雨は短時間で強い雨

 かつて“梅雨”といえば、しとしとと長雨が続く季節だったが、近年の梅雨は様子が違う。2020年の7月には熊本県で長時間の豪雨により、同県を流れる球磨川が氾濫、甚大な被害をもたらした。

「近年の梅雨は短時間で強い雨が降ったり、曇り予報の日も激しいにわか雨が急に降ったりと、かなり極端な降り方をする傾向があります」

 そう話すのは、防災対策に詳しい危機管理教育研究所代表の国崎信江さん。

「最近の気象災害に影響を与えているのが“地球温暖化”です。地球温暖化によって海面の温度が上昇し、激しい雨を降らせる雲・積乱雲が発生しやすくなっています。積乱雲は1時間ほどで消えますが、その間、激しい大雨が降るのが特徴です」

 度を越した大雨はさまざまな水害を招く。川が氾濫して近隣が浸水したり、家が流されたりと、日常生活が送れないほどの自然災害につながることも……。

家が浸水しない地域でも、長期間の停電や断水などライフラインが停止する可能性があります。また、長年、川の近くに住んでいる人は水害の怖さを知っているので早めに避難しますが、新たに移り住んできた人は水害対策が不十分で逃げ遅れがち。住民の意識の差も被害に影響しますね」

 川とともに暮らすには、住民ひとりひとりが正しい危機意識を持つ必要がある。

大雨当日に焦らないために

 水害対策は雨が降ってからでは遅い。国崎さんは「土地の特性を知ることが防災の第一歩」と話す。

「ハザードマップを確認する方法もありますが、私のおすすめは、国土地理院がWEBに公開している『地理院地図』の【災害の備え】というページです。『土地の成り立ち』という項目の住所欄に入力すると、その土地の地形の形態や成り立ちがわかります。

 河川氾濫や地震の液状化リスクも記載されているので、自然災害マップとしても使えるんです。併せてハザードマップで浸水レベルを確認しておくと、避難経路の指標になりますよ」

 地理院地図で地域のリスクを把握したら「マイ・タイムライン」の作成を。

「マイ・タイムラインとは、大雨や台風が発生したときに自分や家族がとるべき行動を書き込むチェックシートです。国交省のサイトでもシートをダウンロードできますが、東京都の『東京マイ・タイムライン』は情報満載でとても使いやすいので重宝しています」

 ここでは「国崎家のマイ・タイムライン」を掲載する。美容院の予約の変更や買い出しのタイミングなど、実践的な内容なので参考にしよう。

「家の水害対策も重要。ベランダの排水口を日ごろからキレイにしておくと、大雨時のベランダ浸水が防げます。雨戸やシャッターがない家に住んでいる人は、窓ガラスに飛散防止フィルムを貼っておくと安心。強風でモノが飛んできて窓が割れても、部屋に破片が飛び散りにくくなります」

 さらに、プラスチック製のダンボール“プラダン”を常備しておくといい。豪雨や台風のときに、窓の内側にこれを設置すると窓の補強になる。

「防災リュックの中や食料の備蓄は地震の備えと同じでOK。ただし、雨具は上下セパレートのレインコートを選んでください。アウトドアブランドのレインウエアなら、撥水性が高く、おしゃれで機能的なのでおすすめです。雨具のポンチョは強風に煽られて視界を塞いでしまうので大雨・台風の避難には不向きです」

 大雨予報や台風の上陸が判明したタイミングで自宅の防災グッズを再確認。電池など足りないものがあれば、2日前の買い出しで購入を。

国崎家の風水害時マイ・タイムライン

3日前……窓の安全性の確認、雨樋やベランダの排水口を掃除する

2日前……食料品や備品の買い出し。大雨予報の2日前には美容院や歯医者の予約変更

1日前……会社や子どもの学校に連絡して対応を確認。電車の計画運休情報もチェック

当日……断水や停電に備えて、食事やお風呂は早めにすませる

事前に決めておくことで落ち着いた行動につながる

避難場所は事前に想定

 災害級の大雨が降る当日、国崎さんは高齢者が避難をはじめる「警戒レベル3」時点での避難をおすすめする。

「警戒レベル3は、まだ多くの人が普通に生活している中での避難なので、なかなか勇気がいる行動です。ですのでわが家は避難所には行かず、車に防災グッズを積んで高台にある24時間営業の温泉施設に行くことにしてます。

 温泉施設が避難所になるわけではありませんが、食事もとれて休憩所もあるので子どもたちもイベントとして楽しんでくれますね。早期の避難が喜びにつながると、レベル3でも避難しやすくなるんです」

新しい避難の目安

 前倒しで避難して、その後雨がやんでも楽しい思い出が残る。避難にプラスイメージが持てれば、早めに行動ができるので“逃げ遅れ”を未然に防ぐことができる。ちなみに、警戒レベル4は土砂災害や浸水の危険がある地域にいる人すべてが避難の対象になる。

「レベル4は、道路が冠水している可能性があります。道路にあふれる水は、雨水だけでなく、汚水や泥水が混ざっています。泥水で冠水している中を歩くと漂流物で足をケガする危険もあるので、やはり、レベル3の時点で避難の検討をするのが理想です。

 
梅雨洪水やゲリラ豪雨、台風……これらの自然災害は毎年必ず発生します。1度本腰を入れてマイ・タイムラインの作成や対策グッズを集めると、安心して過ごせますよ」

 危険に巻き込まれないために、早めの準備が肝心だ。

自分の住まいの安全性はこちらでチェック

国土地理院
●地理院地図【災害の備え】
 土地の成り立ちから洪水や浸水、地震の揺れによる液状化リスクも確認できる。「国土地理院 防災」で検索。

国土交通省
●川の防災情報
 全国にある河川に出された警報や水位情報、ライブカメラで増水の状況が確認できる。

地理院地図【災害の備え】

正しいのはどっち?
Q.大雨の避難には長ぐつ、スニーカーどっち?

A.スニーカー

 長ぐつは履き口が広いので大雨が吹き込んだり、ひざ下まで冠水した道路を歩くと泥水が侵入して重くなるのでNG。また、肌を露出するサンダルもケガのリスクが高い。歩きやすいスニーカーがベスト。

Q.バケツ、ポリ袋、浸水を防ぐのはどっち?

A.ポリ袋

 ポリ袋に水を入れた“水のう”を作り風呂やトイレ、ベランダの排水口に設置して、下水の逆流を防ぐ。そのほか、窓のサッシに吸水性がある「ペットシート」を丸めて詰めると雨の吹き込みを防げる。

国崎信江さん

教えてくれたのは……危機管理教育研究所代表、国崎信江さん
横浜市生まれ。女性や生活者の視点で家庭や地域、企業の防災・防犯・事故防止法を提唱し、メディアでも活躍中。内閣府「防災スペシャリスト養成企画検討会」委員、東京都「震災復興検討会議」委員を務める。

〈取材・文/大貫未来(清談社)〉