「うれしかったですね。“待ってました!”って感じだったので」
7月9日に幕が上がるミュージカル『衛生〜リズム&バキューム〜』。古田新太とともに主演を務めるのは、尾上右近だ。
昭和33年、し尿汲み取り業者“諸星衛生”。社長の良夫(古田新太)&息子の大(尾上右近)は殺人すらいとわぬ経営方針でのし上がっていく……。
「悪者をやってみたい思いはありました。かつ、胸が痛むような題材。お客さんに何か問題提起するような作品を、とかねてから思っていたので“ぜひ、やらせてください”とお受けしました」
“生きること=悪いことをしてお金を稼ぐこと”。演じる大は、そんな英才教育を受けて育った息子だ。
「罪悪感はなく、むしろ楽しいことをしている感覚のほうが強く。でも第2幕(昭和50年)になると大は成長し、稼ぐための悪が父親とは食い違っていく」
地上波ではまず見かけない悪者っぷりは、1周まわってすがすがしいほど!
「舞台ならではでしょうね。そして演じ手としてはたまらないですね(笑)。基本的には悪に憧れるって、人間どこか、プログラミングされてるようなところがあると思うんです。悪は自分にはないものだったり、封印しているもの。何か根にあるエネルギーのかたまりだと思うんです。だから、大は人々の憧れ的存在であるような、若々しくて勢いもある強くて悪いカッコいい男だと見ていただけたらうれしいですね」
生でやる臨場感、そして客席の反応や嫌がる顔が何より楽しみだとニヤリ。
「言葉はおかしいかもしれないですけど、心の交感が客席とできたらいいなと思っていますね。これは演劇の根源的なものだと思うんですけど、役者は舞台の上だけでお芝居をつくるわけじゃなくて。お客さんがいて初めてできるもの。それを含め、楽しい舞台にしたいと思っています」
歌舞伎と清元、ふたつにひとつ
歌舞伎の伴奏音楽のひとつ、清元。その宗家に生まれる。
「3歳のときに、曽祖父・六代目尾上菊五郎の『鏡獅子』という映像を見て、雷に打たれたような気持ちに。“これになりたい!”と一瞬で魅了されました。それが歌舞伎というジャンルのものという感覚もありませんでした」
まずは日本舞踊の稽古が必要だとわかり、すぐに始めたという。
「そのときに、“あなたのお父さんは歌舞伎の歌を歌う仕事だから、歌のお稽古も”と言われ、同時に始めました。そんな中で、ウチの父の従兄である十八代目の(中村)勘三郎おじさまが“舞台に出してみよう”と言ってくれて」
7歳で初舞台を踏む。
「100回の練習より1回の実践というか。このまま役者をやりたいと強く思いました。次、いつ舞台に出られるのかが最大の関心事で。もし“いい”と思ってもらえたら、また出られるんじゃないかという期待感。オファーをいただく日がいちばん幸せで、千穐楽が寂しい日。そんな感覚がずっとあって(笑)」
周りの大人から“清元はどうするのか?”と尋ねられたときには戸惑ったという。
「“えっ、役者やってたら清元できないんですか?”と。そういうものだと知ってからは、質問されるたびに返事に困る時期はありました」
自分が継げなくても、何かしらの形で清元の責任を取れればいい。役者として清元を引っ張っていく存在になれれば。そんな思いが固まっていったという。
「ずっと“ふたつにひとつ”と言われ続けてきたので、自分の発想にはなかったんですが、父が役者をやりながら清元を継ぐことを提案してくれて。師匠の(尾上)菊五郎おじさまは、自分の役者としての向き合い方を認めてくれたうえで、“清元もやっていい”とお許しをくださって。逆に役者としての自信がつきました」
'18年に“清元栄寿太夫”を襲名。今では“歌舞伎界の新プリンス”と呼ばれ、役柄も年々大きく。
一方で本作のようなミュージカルだけでなく、大河ドラマ『青天を衝け』では孝明天皇を好演中。10月公開の『燃えよ剣』では映画初出演を果たすなど、活躍のフィールドをどんどん広げている。
「歌舞伎界の新プリンスですか? 困ったものですよね、ありがたい(笑)。今回の『衛生』での役はそのイメージを払拭というか、混乱させることになると思うんですが、それはすごく大事なこと。“プリンスがこんなことやって!”と思われたら、逆にうれしい」
歌舞伎は娯楽。そして、その歴史にはパンク精神が宿るものだと前置きし、
「だから、人がやらないことや賛否両論あることを堂々とやる。それが、歌舞伎のプリンスなどと言っていただける自分こそ果たすべき本当の役目。きれいごとだけやっているイメージにはなりたくないし、“伝統を背負って歴史の中で生きてる人”にもなりたくないです」
理想の女性は“梨園の妻”とは真逆
「20歳くらいから、ずーっと結婚願望があります。“タイミングさえ合えば”って言い続けて9年たってますけど(笑)」
先月29歳に。家庭を持ちたくてしかたがない、と笑う。
「子どもも欲しいし、DNAの循環みたいなものにすごく興味があって。自分をつくってくれた家族がいるということは、自分もまた家族をつくることへつなげたいって、すごく思っていて」
どんな女性にパートナーになってほしい?
「仕事して、自分の人生をちゃんと歩いている人がいいなと思いますね。自分も刺激を受けないと、尊敬できないだろうし。だから“梨園の妻”とは真逆というか。“奥さん業に徹します”っていうことじゃない気がしますね、自分にとっては」
マツコ・デラックスもお気に入り
「マツコさんに“可愛い”って言ってもらうの、本当に励みになるんですよね。不安になったとき、“大丈夫ですかね?”って聞くと、“あなたは可愛いから大丈夫”って言ってくれて。“ハイ!”ってなります(笑)」
ミュージカル『衛生〜リズム&バキューム〜』
【期日】東京=7/9〜7/25(TBS赤坂ACTシアター)、大阪=7/30〜8/1(オリックス劇場)、福岡=8/9〜8/11(久留米シティプラザ)
【チケット】S席1万3500円、A席1万円(税込み、全席指定)発売中
【問】キョードー東京 0570-550-799(東京公演)
【詳細】https://musical-eisei.com/